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第二十六話 ボードゲーム

「…飽きたなぁ」


 この世界は娯楽が少ない。

 いや、地球の中世に比べればプロスポーツなんてのがある分断然マシだが、それでも現代に比べるとダメダメだ。


 やることなんて鍛錬とエッチなことくらいだ。

 鍛錬は楽しいし身にもなるが、やりすぎても良くない。延々とやってられるわけでもない。

 エッチなことに関しても、私と恋人二人はあまり性欲は強くない。

 性に目覚めた頃は猿みたいに一人で盛っていたが、もう落ち着いた。

 エッチなことよりハグやキスしてるほうがよっぽど心が満たされる。


 それにそもそもはしたない。

 この世界では「魔兎と似たる女性にょしょうには嫁の貰い手がない」なんてことわざがあって、女性の側から頻繁に誘うのは推奨されない行為だ。

 ちなみにこの世界においてうさぎは可愛いという印象もあるが、それ以上に性欲魔神のモチーフだ。

 まあなんというか、このことわざは差別的だなとは思うが私も結構刷り込まれている。


 私達の場合、両方女なわけだが男役とか女役とかがあるわけでもない。

 だから両方に適用されてしまう。


「リルちゃん?うなだれてどうしたの?」


「うん、ちょっとね…なんか暇だから面白いものないかなぁって」


「まあ、面白いものなんてそうそうないよ。暇を楽しむのも素晴らしいことなんだよ?」


 それはそれでたしかに贅沢だね。平民なんかくたくたに働いてるし。

 だけど…やっぱり辛い。


 なんと言ってもこの世界はボードゲームが少ない。

 そして面白いものは皆無だ。無駄にルールが複雑なくせに、奥深さなどはない。

 前世では下手の横好きながらも結構将棋なんかは対戦アプリで指していた。

 それすらないというのは…ん?待てよ?

 そうか!


「ないなら作っちゃえばいいんだ!」


「リ、リルちゃん?」


「すっごいいいこと思いついたから行ってくる!」



 そんなこんなでやってきましたよ。御用商人の元に。


「これはこれはリル様」


 御用商人のエジンは人の良さそうで上品な笑みを浮かべているが騙されてはいけない。

 海千山千の怪物だ。

 私なんかでは到底交渉で勝ち目はない。

 まあ、儲けなどはどうでもいい。

 自分がやりたい、競技を普及させたい。単にそれだけのことだし。


「面白いボードゲームを考案したから、それを作って売りだしてほしい」


 出されているお茶菓子をつまみながら炭酸水を飲む。


 あっ、これすごい美味しい。ほのかにぶどうが香る。うん、これはべヴァノール産かな?

 普段は香木フレーバーなし派だけどたまに飲むぶんにはいいもんだ。


 しかし、水器がこれだとあまり風情がないかもしれない。


 私は飲み物だと炭酸水が好きだ。この世界ではちょっぴり高級であるのだが、この文明レベルでも存在はする。

 貴族なら常飲できるし、むしろ庶民的とさえ思われがちだ。


 とはいえ愛好家は貴族の中には結構な数いて、茶会ならぬ水会なんてものを開く物好きもいる。

 炭酸水を飲むためだけに器を用意するものもおり、一定の権威がある。

 私はかなり上等な水器である、ウィガンの壺を大枚叩いて買ったりもした。


「はて、ボードゲームですか。あれはちと、面白みがわかりませんで…」


 エジンはちょっとした冷笑を浮かべていた。

 待ってろよ。吠えづらかかせてやるからね!


 私は将棋やチェス、麻雀、リバーシをこの世界に合わせた改変を施したゲームを図面付きで語っていく。

 ルールの変更は全くないので問題ないだろう。

 ただ、細かいルールは覚えてないところがある。

 そこらへんはこの世界の人間が勝手に発展させてくれればと思っている。


 語っていくに連れエジンの表情は興味深げになっていく。


「ははぁ、すみませんで。前言撤回させていただきます。…売れそうです。特に将棋ですな。これは富裕層に売りだせば相当な利益を叩き出せます」


 私はちょっとした衝撃を受けた。

 こういうのはリバーシが褒められるもんじゃないの?

 学のない庶民にもわかりやすいとかなんとかで。


「麻雀もかなり良いですな。ただ、見世物としては向きませんねこれは。あと、チェスは将棋とともに出すと埋もれかねません。単体では素晴らしいゲームなのですが…富裕層、特に軍人には将棋のほうが受けがよろしいかと」


 はぁ…まあこの世界は中世ヨーロッパ風のようでいて中途半端に日本の戦国時代みたいな価値観が混ざってるからなぁ。

 そこらへんの影響かな?

 ただ、リバーシはどうなのだろう。


「リバーシですか?庶民受けは良いとは思いますが、少し単純にすぎます。富裕層にはあまり売れませんかと。興行化を考えると、庶民に売ってもあまり意味があるとは…今までのボードゲームにはあまり面白いものがなかったとはいえ…」


 単純にして奥深いリバーシ、私は好きなんだけどなぁ。

 まあこの世界の価値観ということで仕方ないだろう。

 しかし、エジンは興行化と言った。

 この世界にはボードゲームの興行なんてものは存在しない。


 それを自分一人で思いついたということはつまり、エジンはかなり現代人に近い価値観なのかもしれない。


 いやまあ、私は現代日本的な価値観はあまり好きじゃないんだけどさ。

 まあそれはおいておこう。


「…で、利益の何割を要求するので?」


 エジンが品定めするような目で見る。

 商人は貴族に対する不敬もある程許されるからな。

 いや、庶民が不敬を働いたところで処罰するような貴族は滅多にいないけど。

 いてもよっぽど沸点の低い貴族だ。

 バカ貴族ですらその程度で庶民を痛めつけようなどとは考えない。

 その場合、下賤な平民は目上の人間に敬意など払えないと見下しているからではあるが。


 これは商人の戦いの舞台だ。目がギラついている。

 豪商であるエジンの眼光は剣豪のそれに引けを取らない。


「いや、利益はいらない。これは私の道楽だから。ただし、競技レベルが上がるまでは私も権威のある大会に参加させること、わかった?ああ、出場者のレベルが高くなってついていけなくなった時点で出場は取りやめていいから。まあ、そこまで続くかわからないけどね」

 

「ふふふふ…ありがたく。剣術だけではなく、文化的にも優れた素養をお持ちで。一人でここまで考えついたというのは、鬼才というほかありませんな。本当に、先が楽しみです」


 成熟された戦術を多少知っているので、麻雀以外なら私ですらこの世界では競技レベルが相当に上がるまでは無双できるだろう。

 まあ、他の人たちも馬鹿なわけないのでいつかは私以上になるのは当然なのだが。

 本当に流行るのならば、そこでタイトルを取ったという事実は名声に繋がるだろう。

 ひいてはミルフィル家の益に繋がる。


 あと、商売には本当に向いていないと思う。

 交渉ごとは本当に苦手だ。コミュニケーション能力も高くないし。


 ということで、ボードゲームを伝えてみた。

 もう少しで製品が送られてくるので楽しみだ。

 まあ、他の人はルールすら知らない状態からだから簡単なリバーシで遊ぶとするか。

個人的に気に入らない表現があったので修正

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