第二十三話 ネタミソネミ
「…また、女の子を引っ掛けてきたの?」
「い、いや、アルンとはそういう関係じゃなくて…」
私は今、お姉ちゃんに怒られている。
ゾッとするような声。
もちろん錯覚なんだけど、目のハイライトが消えているように見える。
怖い。でもゾクゾクする。
久しぶりにお姉ちゃんの嫉妬を見たが、なんかだんだんと興奮するようになってきた。
お姉ちゃんの目を独り占めにできているというのはだいぶ…うん。これは良い。
私は正直メンヘラだと思う。人格が混ざって新たに作られた今でも、前世における劣等感が未だに拭えない。
あらゆる人間が最終的に救われるべきという思想を持っているが、これも自分のようなクズでも救われていいという免罪符を求めているに過ぎない。
あらゆる人間を愛し、抱きしめて救済するような素晴らしい人間ではない。
阿弥陀様のような心の広い存在でもない。
私の本性はただのクズだ。
しかし、ネットにおいてメンヘラとヤンデレのカップルはお似合いという説が流れていた。
もちろん、前世においてはヤンデレなんていうのは創作物にしか存在しない存在だった。
現実でヤンデレと言われる人間は全員ただのメンヘラだった。
例えば細川忠興なんかも後妻を迎えている。
人間という概念自体が地球とは多少異なるこの世界であるが、本当に存在しているのかはわからない。
でも、それが本当なら…。まあ良い。
でもアルンとは本当にそういう関係じゃない。
アルンはといえばめっちゃビビっている。
ちなみに、私が女の子が好きなことはもう知られているし、なんなら私の噂としてもう一般にも流れている。
それに対して含むところは…あるかもしれないが、少なくとも表向き態度には出していない。
前世の私に家庭教師がいたとして、同性愛者だったら恐怖しか感じなかっただろう。
態度に思いっきり出していたと思う。
前世と今世では同性愛に対する捉え方は幾分違うとはいえ、そこらへんが良い子なんだよな。
さて、お姉ちゃんに対してどう弁解すべきか…。
「…はぁ、本当にそういう関係じゃないみたいだね。仕方ない」
ホッとした。態度などを見て、私が弁明する前に、浮気しているわけでは ないとわかってくれたようだ。
嫉妬自体は正直嬉しいのだが、延々とギスギスされても対応に困るのは事実だし。
「し、師匠…本当に死ぬかと思いましたわ…」
見れば汗でぐっしょりしていた。まあ仕方ない。
お姉ちゃんの魔術の実力は相当上がっている。
能力値に換算して450程度かな?
半年前は260くらいだったのに。
ゲームシステムのようなものが異なるおかげで、全体的なステータスの伸びは緩やかだが、たまに急成長することもあるようだ。
それと、どうにもこの世界では魔力と武力はインフレしているような気がする。
ゲーム中ではこのくらいあれば世界でもトップクラスだったんだけど、今だと国で有数の魔術師程度だ。
ああ、ちなみに私に関してはスキルがあるので数字より断然強いので今のままでも世界最強だろう。
これから世に隠れたもっと強いやつが現れないとも限らないが。
「…ごめんね、お姉ちゃん。ずっと放ったらかしにして…」
「壊れそうだったよ。リルちゃんがいない世界は心が引き裂かれそうなほど苦しかった」
大仰な言い方だが、お姉ちゃんは情がすごく深いので言い過ぎではなさそうだ。
本当、ごめん…。
「でもいいの。メイスさんだけに夢中にならずに、ちゃんと私にも帰ってきてくれたから」
そう言うと、お姉ちゃんは私を抱きしめ、唇を奪い、口内を舌で蹂躙した。
「んっ…!?…ぁっ…んぁっ…」
思わず喘ぎ声が漏れ出る。
最初にしたときから、キスは二人の間で何度もしていたから、私にとって気持ちいいキスの仕方を熟知されていた。
「…すぐに私の部屋に来てね。続き、するの待ってるから」
そう言って、お姉ちゃんは顔を赤らめたまま部屋に戻った。
「…こ、ここまで進んでいたんでしたのね…」
さっき、アルンは顔をすごい赤らめて私達の行為を食い入るように見ていた。
まあお年頃だしねぇ。
あ、そういえばあれを聞くのを忘れていたなぁ。
「…アルンもそういうことにやっぱり興味ある?」
「へ?私が師匠と…とか、そういうのですの!?」
「いやいや、そういうのじゃなくて。お家再興をするためには、できるだけ子孫を残さなきゃならないでしょ?養子を取るという選択肢もあるけど、できれば望まれるのは実子だし。だから、アルンは結婚願望あるのかな〜と」
「ああ、そういうことですの、安心しましたわ。私にはお家再興の意志は欠片もありませんわ。私個人の幸せと、私を見下してきた方々以上の名声を手に入れられれば文句なし、ですわ!そのために結婚する必要は必ずしもないと思いますの」
おおう、結構俗物的だな。
でも私はアルンのギラギラしたハングリー精神が気に入ったのだからちょうど良い。
「なら、明日からは幸せを掴んでもらうために修行をさらに厳しくするよ。ただ、今日のところは私の観察眼で導き出した課題を出しておくからそれを解決しててね」
なんで私自身が修行をつけないのかは、言わなかった。




