第二十話 一番弟子
「あ、待たせた?」
私が待ち合わせの場所に来たら、既にアルンはもう待っていた。
まだ時間になってないはずなのに…楽しみにしてたんだな。嬉しい。
「そんなに待ってないから気にしなくてよろしいですのよ」
そしてそのまま会場へと歩いていく。
「そういえばアルンってそんなに劇とか好きなの?」
「えぇ。でも闘技場とかスポーツとか…そういうものなら大抵好きですわよ」
この世界は娯楽が少ないからなぁ。治療魔法とかあるし、ファンの民度もある程度マシなのでプロスポーツとかはあるけど。
前世の中世や近世ほどではないけど、現代と比べれば全然足りない。
生い立ちも相まって楽しいことに飢えてるのか?
「そう?じゃあ今度闘技場でも行ってみる?」
「いえ、しかし…私はあまりお金がないので…遠慮しておきますわ」
悲しそうな顔をして拒否するアルン。
「いや、いいよ。弟子に対しての精神面の投資と思えばいいんだし私が払うよ」
「そんな…申し訳ありませんわ…そのようなはしたない真似はできません!というか私はあなたの弟子ではありません!」
強い語調で押し切られたのでそれ以上はやめておくことにした。
矜持が強いんだな。
そんなこんなでいろいろなことを話す。
今までにあった楽しかったことを主に話す。
今の状況で悲しいことの話なんてしても意味はない。
しかし…
「あら、リルさんにアルンさん…。御機嫌よう」
私が喧嘩を売った相手が、只者じゃない剣士を七人ほど引き連れてやってきた。
「こんなところで殺し合いでもするつもり?」
「あら?あなたから喧嘩を売ってきたのですから、ここで殺してもせいぜいちょっとお叱りを受ける程度ですわよ?」
そう言われればそうだな。
貴族の間にはメンツというものがあるから。
このくらいなら許されるだろう。
流石に10歳の女児に対して7人の剣術の達人を引き連れるのはマナーに反するが、相手が相手なので許される。
むしろ私に勝ったら達人たちは褒め称えられる。
ただし…負けたときどうなるかまでは考えてないよね?
「そうだね。じゃあ…やる?」
「ほ、本当に大丈夫なんですの?死んでしまったりしませんよね?」
アルンが心配そうな顔で私に聞く。
「心配してくれるんだ。嬉しいな。だけど大丈夫だよ。この程度一瞬で片がつく」
その言葉に対して相手の少女は不快そうな表情をするが、むしろ戦う対手たちは嬉しそうに表情を歪める。
「私の集めてきたのは最強の剣士たちですわ!なぜそんなに笑う!ふざけるな!」
「ふふふ、英雄のリル殿と立ち会えるとは至高の名誉!慈眼流一門、参る!」
「深刀流師範・リル・ミルフィル、参る!時代遅れの慈眼流は地獄で判官にでも挑んでおるが良いわ!」
「キエエエエエエ!!!!」
彼らは必殺の一撃を以って連携攻撃を仕掛けてくる。
次の手などない、その打ち合いで負けたら=死。
一撃にすべてをかける殺法。
でも…
「二の秘剣・八神の太刀・改ノ二」
相手の手がしびれるように剣を一周振り回す。
ただそれだけで終わりだ。
圧倒的な身体能力にものを言わせた戦法。
あまり誇れはしない。
「ぐっ!?」
慈眼流一門たちは剣を手放し、手を抑える。
「これでもまだやる?」
「…殺してくだされ」
慈眼の師範?が覚悟を決めた目でそう懇願する。
しかしそうはいかない。
「なんで私があなたたちを殺さなければならないの?どうせなら傘下に収めてその技術を吸収するわ」
「くっ…ならば慈眼流の全門徒、リル様に従います…」
ああ、この人師範どころか開祖相当の人だったんだ。
道理で実力がありそうに見えた。
いや一瞬で片がついたから心の実力は見えてこなかったけど。
まあいい。これはいい機会だ。後ぐされなく配下にできる。
「うん、それでよし。これからは深刀流のために頑張ってね…で、どうする?」
少女のほうに向き直ると、わかりやすいほどに狼狽していた。
「そ、そんな…達人七人掛かりでも倒せないなんて…こんなの嘘よ!」
「それが嘘じゃないんだよね。今なら家の名誉に傷を付ける程度で許せるけど…」
傷をつけるというか勝手につく、という感じだな。
この決闘で彼女が負けた時点で栄誉などない。
「ま、負けを…認め、ますわ…」
大通りで決闘してたので騎士団を呼ばれたりもしたし、後処理も大変だった。
しかも観劇には間に合わなかった。
これは申し訳ない。自分から誘っておいて、自分の身から出た錆でこんなことになるなんて…。
「ごめんね、アルン。私のせいでこんなことになって…」
心底から謝る。今回の件は全部私のせいだし。
「いえ、もとはといえば私をかばってこうなったわけですし、感謝こそすれど、怒ることはありませんわ。それに…」
それに?
「あなたの力、それほどまでに凄まじかったのですわね。なんだかあれほど邪険にしてたのがバカみたいですわ」
「そ、そう?じゃあ弟子になる?」
素直に褒められると照れるな…。
恥ずかしい。
「弟子に、弟子にしてくださいまし。私をかばってくれた上に、こうも誘ってくれているのですから断ることもできないですわ」
「え、本当になってくれるの?」
「本当ですわ。どうせろくな未来もないわけですし。リルさんにかけてみるのも悪くないので」
そうしてアルンが弟子になった。
弟子第一号だ。
え?慈眼流一門?…まあ、アルンを一番弟子ということにしとこう。
いいだろう別にこのくらいの順序の差。
今回は駆け足かもしれない。
あとで書き足して何話かに分割するかも。




