第十二話 謁見
戦争は一瞬で終結した。
秘密兵器……ルーンメイスはたしかに強かったが、技量があまりも拙かった。
そこを加味して互角であったが、逸りすぎたために私の勝ちで終えられた。
そんな私は今、王城の謁見の間に来ている。
王の前に跪く。そしてそれを満足そうに見つめる重臣たち。
「リルと言うたな!ようやった!お主のおかげでこの戦争、勝てたぞ!」
王がガシガシと肩を叩いて私を褒める。
フランクすぎるな。
私はこの王のことはあまり好きではない。
人情に溢れているという評価をゲーム中でもプレイヤーにもされているのだが、実態はかなり酷薄に見える。
使えないものは簡単に処罰するし、身内だろうと功を上げ過ぎたら簡単に処刑する。
最下級の騎士家から成り上がってきた家系の子孫なだけあって有能ではあるが。
「よう聞けばお主は家を継げないのだったな?ならば新たに男爵家を興すことを認めよう!」
ニコニコしながら、ブサイクながらも愛嬌のある顔で褒美を与える王。
しかし…
「失礼ですが、お断りいたします」
重臣たちがざわめく。不敬だだのと言っている。
まあ、こんな返しをしたらそりゃそうなるよね。
王の言うことは絶対だし。
でもなんかさぁ、おかしくない?
私はこの国程度1日程度で滅ぼせるんだよ?
国相手に一人で全面戦争を起こしても身内を守りつつ殺戮の荒野に一人立てる。
そんな私が王ごときに怯むのが当然とでも?
前世の私には自信がなかったが、今の私には自信が満ち溢れている。
だからそんなことは起こり得ない。
「いい褒美と思ったんだがのう。お主の家にも同性で子供を作る秘術程度は伝わっておろう?子孫を残せないわけでもあるまい」
…驚いた。私がお姉ちゃんとそういう関係であることを知っているようだ。
探ったのか?
まあまだ私の家の暗殺者は王家の技量には敵わないということだ。
ナオイエは流石に王家の暗殺者と比べてもトップクラスだとは思うけど。
彼らの修行も足りてないし仕方ない。
五年後には王家をも凌駕する忍者集団が出来ていることだろうし良い。
「私は子供など作りたくありませんので。私の業を子に背負わせるなど悪魔の所業です」
私は反出生主義者ではない。優生主義者だ。
他人に比べて劣って生まれてきた子供は不幸になる。
私にはこのチート能力があるが、子供に引き継がれるかはわからない。
そして、もしも前世の私の特性が遺伝したら必ず不幸になる。
不幸になる可能性が高いなら生まない。
それが最低限の責務だ。
お姉ちゃんとの愛の結晶が欲しくないわけでもない。
だが、私の自己満足に付き合わせては可哀相だ。
まあ、他人が子供を作るぶんには特に騒ぎ立てることもないし、そもそも人間は皆、運命の奴隷なので諦めがつく。
「…ふむ、なかなかに難儀な性をもっとるようやな。まあ良い。それならば養子はどうだ?子孫を残せずともそれなら家を残せるだろう」
「…それならいいかも知れませんね。しかし、血縁がなくとも大丈夫なのですか?」
この世界は日本のようにお家を残すことが最重要で血縁はある程度軽視なんてことはない。
血縁も大事だ。だからこそ、血縁同士で婚姻を結ぶことを重視している家もそれなりにある。
「ええわええわ。血縁なぞなんの役にも立たん。使えるやつを取り立てたほうがいいだろう」
こんなことを言っているが、この人は晩年に生まれた子供が可愛すぎてとんでもない騒動を巻き起こす。
話半分に聞いておこう。
「そうですね…しかし私には領地経営などできません。それなりに勉強はできますが、それだけです。実務などもってのほか。信頼できる家臣に任せようにも、任せられる人材がいない。ということでこの話は…」
「ふむ、まあええわ。なら他になにかほしい褒美はあるか?」
よし、来た!ここであれを提言しよう。
「では、ルーンメイスと彼女の武器を私に頂ければ」
ざわざわと謁見の間が揺れる。
「馬鹿な!やつは殺しておかねば我が国の癌になるぞ!」
「あのような強さを持つ輩、生かしておいては…」
重臣が騒ぎ立てる。好き勝手いうねぇお前ら。
「静まれい!…良い、褒美としてやろう。いずれにせよお主が生かすと決めたのならば、我らにはどうしようもないしのう。反乱でも起こされたらどうにもならんわ」
…案外度量広いなこの人。
ゲームと現実ではいろいろ違うのかな?
というわけで、ルーンメイスを褒美としてもらった。
役に立ってもらうことにする。