第十一話 秘剣・一の太刀
戦争の日。私は前線で待機している。
敵に見えるは5万を超える大軍勢。
こちら側が3万程度であることを考えると、これだけでも普通は勝ち目はなさそうに見えるが、これはさほど問題ではない。
私一人が暴れるだけで簡単に殺し尽くせる。
問題は…。
黒く長い髪。ゴシックロリータ。とんでもない美少女であるのに無表情な顔。
そしてあまりに分厚く人の体では振り回せないような大剣。
そんな少女が最前線に立っている。
おそらくはこの子が秘密兵器なのだろう。
この時点で猛者の気配が伝わってくる。
多分めちゃくちゃ強い。師匠は多少本気を出す程度で倒せて、私とはほぼ互角。
開戦の号砲がなる。それと同時にこちら側の兵士が次々とミンチに変えらてゆく。
…身震いするほど恐ろしい!
我が家の領地の民でもない人間がいくら死のうが大して心は動かされないが、このような残酷な死に方だとそれも変わってくる。
私も最前線に立ち、少女の大剣を剣で受け止める。
「驚いた。まさか私の剣を受け止められる人がいるなんて」
少女の表情が僅かに動く。
一瞬の間に何太刀も交わす。しかしどちらも傷つかない。
戦場の大地にヒビが割れていくが、私達は気にしない。
これは一般の兵士にとっては神域の戦いに違いない。
「あなた、強いんだね」
「まあ、世界最強を目指してるからね」
袈裟斬り、水平斬り、順手、逆手、次々と戦い方を変えて斬りつける。
深刀流は基礎を極める。
その果てにあるのが剣の極意。
「最強、ルーンメイス、参る」
少女は簡易に名乗りを上げ、更に速度を上げていく。
しかし最強か、それは私にふさわしい称号だ。
お前などには渡さない。
「深刀流師範、リル・ミルフィル、いざ参る!時代遅れのルーンメイス殿は地獄で判官にでも挑んでおるがいいわ!」
「判官?なにそれ」
必死にひねり出した名乗りを理解されなかった。
まあそれはいいとして、激しさがさらに増す。
他の人間たちは誰も手が出せない。化物を倒すのはいつだって化物だ。
人間になど倒せるものではない。
「ふふ、あはは!あなた本当に強い!」
「それは良かった」
正直に行って、ルーンメイスの剣術は稚拙だ。
欠片も剣など学んではいないだろう。
それでも彼女は強い。
稚拙さがむしろ読みづらさに繋がっているし、なにより単純な膂力が半端じゃない。
「これを受けて死んでなかったら、あなただけは生かしておいてあげる。一生一緒にいようね」
「っ!?」
ルーンメイスは空に飛び上がると、大剣に魔力を纏わせて…ぶった切る。
たったそれだけの動作で、巨大で強大にすぎる魔力の柱が生まれる。
まずい、このままじゃうちの領地の兵も死ぬ。
ここは…。
「一の秘剣、神妙剣!」
剣に闘気を纏わせて斬る技。
風を切り裂き、魔力を切り裂く必殺剣。
ルーンメイスの魔力と私の風は拮抗し、両方が潰える。
「強い、強い!まさか生きているどころか相殺するなんて!」
「喜んでる場合かな!?」
歓喜の声を上げるルーンメイス。
これだけ強ければ、まあ周りに伍する強さの人間なんていないわな。
だから強者でも求めていたのか…。
だけどこっちの視点から見たら自分並みに強いなんて信じられない。
ゲーム時代は武力500で世界最強だったのに、その上に補正モリモリで互角っておかしいだろ!
「私の本気。見せてあげる。それでも倒せなかったら…ううん。終わったあとのことを考えるなんて不純かな」
大剣がどす黒い魔力で光り輝き、猛攻がさらに激しくなる。
これはスペシャルキツイぞ…!
「あっ!」
その過程で私の剣が折れる。
その姿に好機と見たのか、ルーンメイスがとどめを刺しに来る。
ああ、そこでそうきちゃうか。やっぱり戦術眼や技術はないんだな。
「詰み(チェックメイト)だよ。深刀流究極奥義・一の太刀」
身を翻して、奥義を使ってナイフを腹に差し込む。
「へ?」
心底不思議そうな表情をしながら血を吹き出し、そのまま倒れた。
まあ、死んではないだろう。
この子にも私の役に立ってもらおう。
「口ほどにもない。さあ、あなた達。逃げたくば逃げなさい」
そして私のその言葉を皮切りに、敵の兵士たちが一目散に逃げ出した。
あとに残るものは、もはや味方とルーンメイスだけ。
「この戦争、我が軍の勝利だ!」
しばしの静寂のあと、
「うおおおおお!!!」
兵士たちの大歓声が聞こえた。
兵士たちが殺される前に助けてやったほうが良かったかな?
若干良心が痛むような気がする。やろうと思えばできたし。
まあいいか。私のおかげで助かった人たちはたくさんいる。それで良い。
それに…私が前世で助けてほしかったときは誰も助けてくれなかったし。
自業自得、自己責任なんて言われて叩きのめされた。
だから、そこまで同情は抱かない。
彼らの中にも自己責任だのと私をぶっ叩いてきたような人種は多いだろうから。
まあ、必ずあの世で救われてほしいとは思うけど。
どんな人間だろうと死ねば仏。恨みは持ち越さない。私は他人に甘く自分にはさらにゲロあまなのだ。




