表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

影毒の魔女

作者: 白夜

とある昼下がりの街に、高級そうなワンピースをまとい日傘をさした少女が1人で散歩をしていた。

所々生える針葉樹達は強い日差しから少女を守っていて、少女は快適そうに見える。鼻歌なんかを歌いながら木陰を抜けるとおかしな面を被った女が目の前に現れた。

「お嬢さん、私と遊びましょ?」

ケタケタと笑いながら少女に手を差し伸べた。

「…いやだと言ったら?」

「そりゃあ」

その後の女の言葉は聞こえなくなり少女の周りは今まで歩いていた街ではなく真っ暗な空間、やがて深い森に変わっていった。

「あなた、人攫いね?」

「ご名答、私は亜妖精。君は明日の夜ご飯」

少女はきょろきょろと辺りを見回し牢に閉じ込められた子供たちを見つけたが直ぐに視線を女の方に向けた

「ごめん私、人じゃないんだ。こう見えてもかなり歳はいってる」

そう言って少女は少し長い髪を肩に流し羽をはやして見せたのだ。

「ひっ…騙したわね!」

「先に騙したのはあなたじゃない。それに化け物だと言うのはあなたも同じでしょ?」

「うるさい!亜妖精は人間以外の他種族は大っ嫌いなのよ!」

焦った様子で女は少女の服の襟を掴み引きずり、子供が閉じ込められている牢からかなり離れた場所の牢に投げ入れた。

「痛いなぁ…もう。」

気配に気づき少女は構えて[ソレ]に話しかけた。

「あなたは私の敵?それとも亜妖精の言っていた他種族?」

「…」

日が差し込み[ソレ]の顔がようやく見えた。

亜妖精の付けていたおかしな面が[ソレ]の顔にも付いていた。だが、様子がおかしい。さらしに首輪、とても重そうな足枷手枷など…と。まるで大罪人だ

「少なくともそなたの敵ではない。安心しなさい」

面で表情は見えないがにやりと笑ったような気がした。

「何者なの?亜妖精でも無さそうだけれど…」

「穢れた血…とでも言っておこうか。亜妖精は他種族を嫌うだろ。私は混血なのだよ」

なるほどね、と少女は頷き立ち上がった。

「ねえ、あなた外出る気ない?私もう家帰らないと行けないの。ママが心配するし」

「私には居場所がない、それにそなたどうやってこの牢からで」

がちゃり…

「?!」

怖気付いたように牢のカギはすぐに開いた。少女はにこやかな表情でもう一度[ソレ]に聞いた

「私も混血なの、あなたとは気が合いそうだと思った。私とこない?」

「ふっ…」

手枷足枷はするりと外れ首輪もヒビがはいり繋がっていた部分が割れた。

「いいだろう、気に入った。私は影毒の魔女 と呼ばれている。」

「へぇ、そんな魔女聞いたことないけど。まあいいや、行こう。」

少女は魔女の手を取り牢から走り去った。

牢の中には子供たちが居たはず、そう少女は思い出し走る速度を上げて大急ぎで子供たちの所に向かった。

「…!」

そこには誰もいなかった。血の匂いが少しだけする

「…いかなければ、少女よ。そなただけは生き残らなければ」

「やだ」

魔女の面で見えぬ目を少女はじっと見つめた

「あいつらは野放しになんかできない」

素直な幼い少女の瞳を見て魔女は面を外し、遠い街並みのような方を見た。

「そなたは…あれが見えるか」

「あれ?」

魔女には見えていた。

何も知らずに笑って食事をしている亜妖精の子供たちが。全てを知って笑っている王者たちが。

「…こればっかりは人間と同じってことか」

「そうだな、私は姉としての義務を感じるんだ」

「?」

切ない影毒の魔女の瞳が潤んでいるように見えた。

「あの子らは全て私の母が作り出した存在…私の妹たちなのだよ。」

少女のあたまを優しく撫で影毒の魔女は亜妖精達がいる方へ飛んで行った。

「ちょ、ちょっと!」


どれくらい時がたっただろうか。影毒の魔女はやはり降り立った瞬間に撃たれ、殴られ、蹴られ、刺され。

必死に訴えようとした。

何を?何をだろうか。何故魔女は降り立ち亜妖精達に逢いに来たのだろうか。

「ちょっと!」

少女の声が聞こえた。

亜妖精達の殺意は少女にも向いたが少女は構わず魔女の方へ歩いてきた。

「あなたは…聞きたかったんでしょ?」

少女は声を震わせて続けた。

「何故1人でずっと閉じ込められてるのか」

少女の声は次第に大きくなっていく。

「何故混血だと言うだけで差別されるのか!」

刹那、影毒の魔女の目が覚めた。

そこから先は誰もハッキリと覚えていない。とっくに孤独に狂ってしまっていた魔女が暴走し今までの恨みを晴らしてしまったことは、少女だけがわかる事だった。

「…あの子らは私がこうなってしまうことが分かっていたから閉じ込めていたのだろうか」

小さな骨を持ちぽつりと言葉をそう、こぼした。

「誰も…悪くないのだと思うわ」

「差別を持つことが前提の種族なのでしょう…彼女たちは。亜妖精がそう生まれて来てしまっただけ。」

「…少女よ。私を殺してはくれないだろうか」

「話を最後まで聞きなさい!」

少女も、魔女も泣いていた。強い血の匂いが香る中で少女は語り続けた。

「…私と共に生きなさい、影毒の魔女。償いとして生き続けなさい」

また、少女は魔女に手を差し伸べた。

「そうか…」

「私は今まで死んでいたのかもしれないな」

雨が降り始めた。また、匂いが強くなってきた。

少女の顔も魔女の顔も雨で濡れていた。

酷く後悔の雨が降り続けた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「少女よ、私はいつまで生きればいいのだろうか。」

「この世からあなたのような人がいなくなるまで、かしらね。」

「私のような人…とは?」

「強い恨みを持ってしまう環境下にいる人のことよ」

「…そんな平和な刻が来ると良いのだけれどな」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ