表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/9

遠くない未来の話

 


 ◇◆◇




 俺は夜が好きだ。

 夜は人の音が薄く邪魔するものが少なく、どこまでも行けそうな気がする。


 かの谷崎潤一郎が『陰翳礼讃』でガスや電気の無い文化での生活における美を語っていたが、ガスと電気にまみれたこの世界では人々が寝静まり殆どの機械が鳴りを潜めたこの時間こそが最も美しい世界であると俺は思う。


 だから俺は夜が好きだ。

 そして………




 ◇◆◇




 魔王の斬撃が俺の頬を撫で、屋敷の壁に直撃しその形を崩していく。

 彼女の放つ斬撃はどれもが俺の体を破壊するには十分で、一撃でもくらえば俺の体が人間の形を保てなくなる事は想像に容易かった。

 それでも俺はあくまで平静を装って慎重に冷静に声をかける。



「赤い髪も似合いますけど、俺はやっぱり黒い髪の方が好きです」



 魔王からの返事はない。

 彼女の耳に俺の声はすでに届かなくなっていた。


 思い返せば、彼女がこうなる予兆は前からあった。

 あの手袋も、あの時の行動も、そしてあのメッセージも全てはそういう事なのだろう。

 彼女は己の中の衝動に抗い続けていたのだ。



「主、これ以上は…」



 魔王の力によって世界が侵食されるのを防いでいた契約精霊からタイムリミットを告げられる。

 これ以上は食い止められない。

 だが、それでも……



「悪い。それでも俺はやっぱり夜叉先輩を…」



 そうして己の心情を口にしようとしたその時だった。



「さようなら愛しい人」



 俺の胸は魔王によって貫かれ、大きな風穴を開けていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ