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デストラクションエラー  作者: 仕方舞う
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終末の空

 必ず終わりは来る。どんなに心残りでも、どんなに望まなくても。だったらせめて、大切な誰かの為に終ろう。気持ちを知る余裕は無いかもしれいないが、それを喜んでくれると信じて。

 対峙するアポカリプスと戒。互いの間には穏やかな空が広がる。上に行っても宇宙には辿り着かず、下に行っても大地は見えない。世界の全てが空に支配され、世界にはアポカリプスと戒の二人しかいない。邪魔するものの無い世界で二人は戦いが始まる時を待っていた。

 心配する者の声を聞こうともせず。



「戒! 答えるんじゃ! ダメじゃ…戒は捕らわれておる」

「助けに行ってくる!」

「無駄じゃ。レーダーから戒の姿が消えた。行ったところで会えんじゃろ…」

 頭を悩ませるゼロノートと謙二郎。

 艦橋の隅では、風が一心に祈っている。

「どうかご無事に帰ってきてください…」

 風の背中をシーリアが摩る。

「戒を信じよう。戒は絶対戻ってくる。何があっても…」

 シーリアの期待に賛同したい。だが、突きつけられた事実はあまりにも絶望的。その事を良く知るゼロノートは機械の体で冷や汗を垂らす。

「…最後の通信でアポカリプスと聞こえたが、一体何者なんだ?」

 謙二郎の質問に、ゼロノートは鼻を啜りながら答える。

「終末そのものじゃ」

「終末? 人間でも機械でもない? だったら何なんだ?」

「本来姿を持つ事の無い概念上の存在じゃ。終末とは、何を以ってして終末なのか? 無の中では終末は存在しない。終末を定義するモノが無いから。終末とは、何かがあって初めて存在する。逆に言えば、何かが存在する限り終末は存在し続ける…」

 ゼロノートは、フラフラと艦橋を彷徨いながら呟く。

「儂じゃって想像出来んかった。デルタウィングがアポカリプスだったなんて…知識の海にそんな話は無かった。儂はなんて事をしたんじゃ…戒を…最後の希望を…」



 だが、艦橋の絶望とは裏腹に戒はテンションMaxの絶好調。

 目の前にいるアポカリプスもやや困惑気味。

「これから死ぬかもしれぬのに…」

「何度も死んでるから麻痺しているのかもな」

 戒は腕を回しながらナノマシンを圧縮。関節が稼働可能な事を確認しながらどんどん強固に仕上げていく。

「覚悟は良いか?」

「いつでも」

 アポカリプスはその場で剣を一振り。

 戒には到底届かず空を切る。

「…今だ!」

 戒は殺気を感じて右方向に急回避。

 丁度のタイミングで空間を斬り裂いて剣が振り下ろされる。

 戒は、翼を強く羽ばたかせ一気に加速。アポカリプスに急接近して拳を放つ。だが、アポカリプスには届かない。十分間合いに入った筈が何十mも離れている。

「まだ遠い」

「初めてだ、届かないってのは」

 アポカリプスの光輪が輝く。

 空の真っ赤に変わり、戒の体から炎が上がる。機械の体は熱を感じないと思っていた。が、戒は苦悶の表情を浮かべて必死に熱に耐えている。

「ナノマシンが溶けている…」

 熱で溶けた場所は変質が出来なくなる。

 全身に及ぶ前に、高速で生きているナノマシンで熱を吸収して再生の糧にする。しかし、幾ら再生を行っても元の状態には戻らない。溶けたまま飴細工のように強引に形を変えるのが精一杯。今の状態なら攻撃によってナノマシン自体が完全破壊される。

「これが終末の一つ、炎の最後」

「…ゼロノートが慌てていた理由が分かった。だが、まだ負けた訳じゃない!」

 戒は、届かない事を想定して高速飛行から体当たり。

 しかし、体に触れたと思った瞬間、真っ青な空間に突入する。

「静止する最後」

 体が凍り付き完全に身動きが取れなくなる。

 そして、思考が鈍り、激しい眠気が襲ってくる。

「負ける…ものか…」

 気力を振り絞り必死にもがく。

 だが、何をしても無駄。冷えていく体は機能を停止し、最後の砦、気力までの削いでいく。

 突如空間が崩れ、緑の空間に落ちる。

「支配される最後」

 巨大な翼竜が現れて、戒を飲み込む。

 蘇った力で翼竜の嘴を強引に開き、脱出。空かさず、嘴を殴り砕き翼竜を倒す。だが、同じ翼竜が空一面を埋め尽くすほど現れる。何とか大量に押し寄せる翼竜を次々順調に倒していくが、今度は足下が真っ暗に。

「何だ…?」

 大口を開けた桁違いに大きい翼竜が迫ってくる。

 あまりにも大きすぎて開いた嘴から逃れられない。

「くそっ!」

 飲み込まれる戒。

 闇の中全身が切り刻まれる。激痛が絶えず襲い、右腕を引き千切られ、右足をもぎ取られる。それでも足掻き、残った左腕で襲い来る未知の存在を殴る。

 絶望的な状況でも戦う事を止めない戒に、アポカリプスの溜息が聞こえる。

「何故諦めない。もう十分理解した筈。絶対手に出来ない勝利の光だと…」

「諦め…何だそれ? まだ俺は満足していない…もっと本気を出せ! これじゃ…全然…」

 体は動かない。気力を振り絞っても、意志が萎えてなくても、どうにもならない現実。絶対勝てない理解は直ぐに過ぎた。ただただ強がりと欲だけが残っている。

「…塗りつぶされる最後」

 闇が深くなる。

 全ての感覚が消え、意識が消え、戒と言う存在が消えていく。

「これは根源の闇だ。抗う事は出来ない。闇に包まれ同化し、存在を失い消えていく。満足は出来ないだろう。何もかも無くなれば、その言葉の意味も理解出来なくなる…」

 戒が消えていく。

 偽りの仮面の戒が…。


「…消えてしまっても、無くならない事実はある。事実を消しても、その痕跡は残る。どんな力でも、どんな終わりでも、それだけは消せない…」


 戒の体が闇の中で光を放つ。

 失った腕が戻り、足が戻り、意識が戻る。

 ただし、仮面の無い本来の戒。

「…何者だ?」

 闇を光に変えながら、戒は真っ直ぐ歩いていく。

 何も無い場所で止まり、そっと右手を突き出す。

「育鯖戒。仮面に隠れていた弱い自分です」

「別人格…違う。これは同じ人格。しかし、違う。同じ存在でありながら、同じ感情を有する個人でありながら、全く違う何か…。分からない、お前は一体…?」

 突き出した右手は空間を破壊し、アポカリプスに触れる。

「僕を守って来た仮面の為に、君を…倒す!」

 激しい風がアポカリプスに吹きつける。

 抵抗できないまま吹き飛ばされ、元の空間に落ちる。

「終末を壊した? 概念を…乗り越えた」

 抉れたデルタウィングの巣。

 対峙したまま動かない、アポカリプスと戒。

「アポカリプス、仮面が望んだのは小細工無しの戦いです。終末の力は使わず、純粋な破壊力を行使して戦ってくれませんか?」

 笑顔で丁寧な口調。とても戒とは思えない。

「例え破壊力勝負でも負けは確実だ。それでも良いのか?」

「はい。彼が満足できるために協力をして下さい」

「…その前に聞きたい。お前は何者だ? なぜ終末を壊せた?」

「僕は、育鯖戒。そして、あなたのように有り得ない存在になってしまった異質の概念」

 アポカリプスは納得した顔をして、背後の光輪を消す。

「良いだろう。お前の提案を受け入れよう」

「ありがとうございます。では、後は彼に任せます…」

 笑顔の戒が消え、仮面の戒が戻ってくる。

「ハハハ、全く…これじゃあ小さな子供だな。俺が守っていた筈が逆転してしまったな…」

「あの戒は、これ以上介入できない…」

「…どういう事だ?」

「概念存在に至っている。普通の人間として生きる事は永遠に不可能。仮面のお前に自分の全てを譲ってお前の支えとして生きる事を選んだ…」

 衝撃に事実は身に覚えがあった。いつの間には仮面が優位に立ち、いつの間にか仮面の意思が反映されている。特に顕著になったのは、並行世界の自分と融合し始めてから。初めの頃は度々入れ替わっていたが、繰り返すうちに入れ替わる事が無くなっていった。今では死に瀕した時や眠っている時など、仮面の意識が無い時限定。

「元に戻せないのか! お前なら分かるんじゃないのか?」

「…無い。少なくとも今の世界では…」

 戒は戦いどころではなくなる。

 仮面の奥で泣いていたのは、弱さのせいじゃなかった。泣いていたのは強さの証明だった。戒はアポカリプスよりも強い存在に負けていた事に気付いた。

「アポカリプス…俺の負けだ…」

 戦闘狂の仮面が涙を流す。

 犠牲にしてしまった自分への懺悔を込めて。

 何も言わずに絶望を抱え込んだ裏切りに怒りを込めて…。



 一時間後。

 泣いていた戒は、急に泣き止みいつもの顔になる。

「アポカリプス、俺と戦え! 俺自身への怒りが暴走気味なんだ」

「望むなら…良いだろう」

 アポカリプスは、剣を手に斬りかかってくる。

 笑顔の戒に言われた通り、純粋な力だけの戦いを遵守する。

「良いのか? さっきの力を使わなくても」

「これで十分だ」

 空間を捻じ曲げ、一振りで多方向から一気に斬りつける。

 戒は、回避を兼ねてアポカリプスに突進。勢いを生かして拳を放つ。

 終末の力を使わない為、今度はしっかり命中。

「負けても知らないぞ!」

「出来るものなら見せて見ろ!」



 アポカリプスと戒の戦いは一昼夜続いた。戒の死力をアポカリプスは手加減をして対等の戦いを演じる。戒にもその事は分かった。だが、それでも良かった。笑顔の自分が作ってくれた戦いを精一杯満喫したかった。



「満足したか」

「ああ、何とか」

 すっかり荒廃した元巣の場所で、アポカリプスと戒は倒れていた。

 一昼夜続いた戦いの結果、負けたのは戒。当然と言えば当然なのだが、アポカリプスも追い詰められていた。終末の概念存在でありながら、人間の心に触れ、絆され、寄り添いたいと思ってしまった。己の存在と歪めてしまえば、アポカリプスは消えてしまう。

「…初めて感じた。生きるという事、死ぬという事。人間が何故暖かいのか、人間が何故冷たいのか。ようやく理解した。脆弱な命ゆえの足掻きだった…」

 消えかかっている腕をみながら、アポカリプスは笑う。

「…そのきっかけが俺じゃないのが悔しいが」

「そうだな」

「少しは気を遣え」

「己を滅ぼす事になる」

 戦いを経たせいか、二人は親友のように心を許せている。

 アポカリプスは、終末である事を始めて拒みたいと思った。

「お前に時間をやろう。よく考えろ。もし、もう一人の戒を取り戻したいなら…終末の友となれ。さすれば無理を捻じ曲げて可能にする」

「…それって、あいつを元に戻せるのか!」

 飛び起きた戒は、アポカリプスに掴み掛る。

「代わりにお前が概念になる。何が言いたいか分かるな?」

「…ああ」

 アポカリプスの姿が空に移動し、背中には光輪が現れる。

「急ぐ必要はない。答えを一つに決める必要はない。その心が望む通りに全てを決めろ」

 光の瞬きと共に、アポカリプスは消える。

 一人残された戒は、じっくり考える。自分が何をしたいのか、自分が何を大切にしていきたいのか。飛行戦艦が迎えに来るまで考え続けた。

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