笑顔と怒り
本当の素顔はどっちだろうか。涙で濡れた優しい顔? 笑顔滲ます怒りの顔? どちらも自分であり、どちらも否定できない。だとしたら受け入れるしかない。どっちも正しくてどっちも間違っている自分自身の顔だと。
開発室に風が駆け込んでくる。目に映るのは戒が変貌する様。繰り返される戒の過去に、風は涙を堪える事が出来ない。戒は悪い事をしていない。にも拘らず、執拗な罵詈雑言に塗れて暴力者のレッテルを貼られる。確かに戒は暴力を振るった。しかし、戒が暴力を振るわなければ不良達は懲りる事無く悪行を続けていた。戒の理由を知って欲しい。変貌に至る大事な理由を。だが、戒の真実は偏って伝わっていく。そしてそれが、世界の共通認識として固定される。
「こんなの酷すぎる…。戒さんが可哀そう…」
泣きじゃくる風の背中を優しく撫でる謙二郎。
「戒は優しくて暖かい。それが真実。だけど、俺たちのせいでもう一人の戒を作ってしまった。別人格ではなく、自分を偽った仮面。戒はずっと変わっていない。偽った仮面の奥でいつも泣いている。在りたい自分の姿ではないと葛藤しながら…」
シーリアが口を開く。
「私は戒がどんな姿でも良い。だって、戒は戒。私が大好きなのは変わんないよ」
シーリアの頬は涙で濡れている。それでも目を逸らさずに戒の過去を見続ける。どんなに悲しい場面があっても、どんなに怒りを覚える場面があっても、決して見る事を止めない。
「シーリアちゃん…どうしてそこまで?」
「理由なんてないよ。理由なんかで気持ちを台無しにしなくないから」
謙二郎は、珍しく大声で笑う。
「その言葉で十分。もう二度と疑わない」
「疑ってたの? 酷いよ」
ゼロノートは嬉しそうに笑い、現実を突きつける。
「しかし困ったの~。これじゃ、戒の進化は当分無理じゃ。戦闘のせいでバッドレインも気付いたじゃろうし…どうしたもんかの…」
「俺が居る! 俺が戒の代わりに戦う!」
謙二郎の眼差しにゼロノートは困り果てる。
「気持ちは嬉しいんじゃが…お主の体は順応したとはいえ、まだまだ安全じゃないぞ。自分の力で自分を破壊する事にも繋がりかねん」
バッドレインの対処を出来るのは謙二郎のみ。しかし、謙二郎を無理させれば元も子もない。
「逃げよう。儂らが出来る最善はこれじゃ」
「光の力なら勝てる! 逃げる判断は間違いだ!」
語気を強める謙二郎をゼロノートは笑って諫める。
「若さとは過ちを許容するもの。時には老人の言葉を信じてもらえんかの?」
納得出来ていないが、戒が「やめろ」と言っている気がして受け入れた。
翌日。
未だ眠る戒を除いて話し合いが行われた。議題は今度の方針。バッドレインの対処、食料と機材の調達、戒の治療。食料と機材に関しては謙二郎が取りに行く事で解決。戒の治療はシーリアがやる事で全員納得。しかし、バッドレインに関しては答えに辿り着かなかった。謙二郎は戦うべきだと熱弁し、風とゼロノートは危険を避けて逃げる事を推奨、シーリアは準備を整えて戦えばと謙二郎の妥協案。明らかに気負っている謙二郎と諫める事には全員一致していた為、バッドレインは危険を避けて時が来るまで保留となった。
戒の部屋で、シーリアは戒の世話をしていた。統率機の代わりに制御用のPCを接続して体を再現し、チップを仮に作った電子頭脳にセット。布団に寝かせ、電子頭脳に話しかける。戒が興味無さそうなスイーツの話をしたり、今度挑戦しようと思っている料理の話をしたり、戒が目を覚ましたら一緒にやりたいゲームを紹介したり。思いつく話を途絶える事無く続ける。戒が全く反応しなくても構わず、戒がまるで起きているような話し方で笑顔を絶やさない。
「戒、どう思う? おじいは、「もっと可愛らしい趣味が良いじゃろ?」ってぬいぐるみをくれるんだけど、ゲームも捨て難いんだよ。ぬいぐるみが嫌いなわけじゃないけど…」
間を置いて、次の言葉。
「戒は女の子らしい方が好き? 男の子っぽい趣味でも良い?」
またしばらく間を置いて。
「自分が好きな方を選べ? そうだよね…」
自分勝手な解釈による会話。しかし、不思議と戒がそう言っているように感じる。戒の心を理解して戒が考えている言葉を頭の中で再現している。
「私ね、生まれた時から戒の事を知っているんだ。おじいは不思議だって言っていたけど、私は不思議だと思ってないの。ずっと昔に戒と一緒に居たような気がする。一緒に居たかったのに一緒に居られなくなった…そんな気がするの」
少し悲しげな表情をした後、弾けたような笑顔になる。
「きっと運命だよね! そうに違いない! だから、願い事もきっと叶う!」
戒の顔を覗き込みながら嬉しそうに小声で囁き、額をそっと合わせる。
「戒の願いは何? 絶対誰にも言わないから、教えて…」
戒は何も言わない。
それでもシーリアは、意志が疎通しているように笑う。
「簡単には教えてくれないよね」
二人だけの秘密の空間。
誰も立ち入れない雰囲気で満たされ、そのせいで風は外で待つしかなかった。
1時間後。
ようやく中に入れた風は、戒の様子を窺う。
「シーリアちゃん、戒さんは目覚めそう?」
「どうかな? 今まで偽って来たせいで精神が壊れる寸前。戒次第だけど、場合によっては長い休息が必要かも」
「長いってどのくらい?」
「一年以上」
予想以上の長さに風は驚く。
だが、過去を思い出して妥当だと納得。
「そうなると、謙二郎さんに頼るしかないのか…」
「何かあったの?」
「一時間前からバッドレインに捕捉されて、いつまで逃げきれるか…」
シーリアは、戒の顔を見つめて何かを決意する。
「謙二郎はこれからの必要戦力。バッドレインは私に任せて!」
部屋を飛び出すシーリア。
後を追う風だが、通路の様子が変わっていて戒の部屋ではない位置に居る。
「私に出来る事…何かある筈…何か…」
非力なままの自分で良いのか。でも、戦いの場で自分が活躍できるのか。その場で考える事10分。風は自分に出来る事を一つ思いついた。
下部ハッチに向かったシーリアは、背中に翼を生やし深呼吸を繰り返す。
「戒のため…私なら…出来る」
ハッチを開き外へ飛び出そうとした瞬間。
「シーリアちゃん! ちょっと待って!」
スピーカーから風の声が聞こえる。
「今、バッドレインを振り切ってみせます。私の腕なら振り切れる!」
飛行戦艦の速度が数倍に増す。
後を追っていたバッドレインの小さな影しか見えない。
「お、おおおおっ! 何じゃ何じゃ! こりゃ船体スペックを限界ギリギリまで酷使しておる!」
「安心してください。絶対に壊しません! 私のモットーは、車の性能を最大限に生かしつつ、車消耗を最大限に抑える。どんな乗り物でも一緒です!」
速度は更に増していく。飛行戦艦の大きさからは想像も出来ない速度に達し、完全にバッドレインを振り切る。そして、遂にはレーダーからも姿が消える。
「も、もう大丈夫じゃ! じゃから、風、止めるんじゃ! 船体以前に儂がもたん!」
飛行戦艦の速度を落とし、ゆっくり高度を下げていく。
近くにあったブラジルの大地に降り、バッドレインに捕捉されないようにジャマ―を展開。
「ふ~これで安心じゃ。全く恐れ入った。可愛らしいお嬢さんと思ったのじゃが、生粋のレーサーじゃったとは」
フラフラと倒れるゼロノートは、機体の様子を確認する。しかし、全くの異常は検出されない。それどころか、使いきれていなかった機能まで発動している。
「何じゃこれは? ブースターリバース?」
パネルを操作してブースターリバースを調べる。モニターに表示されたのは飛行戦艦のエンジン室。エンジンが拡大され変貌した記録が再生される。パーツ一つ一つが稼働に影響を与えないように変貌していく様は生き物のようで何とも不可思議。
「…自在な変形を可能にするにはナノマシンのような存在が必要な筈じゃ。しかし、この戦艦にナノマシンは使用しておらん。ましてや、自己の意思で生成したり取り込んだりもせん! では、何故このような変化…進化をしたんじゃ?」
ゼロノートは記録を逆再生。すると、何かがエンジン室に潜り込む映像を発見。その何かは蟻。蟻の軍勢がエンジンに群がりエンジンと一体化。映像を少し戻し、蟻を最大拡大。蟻を構成していたのはナノマシン。更に蟻の足取りを辿る。蟻が出現していたのは、戒の部屋。布団で寝ていた戒の体から生まれ、部屋から出て行く様子が映る。
「大した男じゃ…まさか、風の為に飛行戦艦を改造したのか」
「戒さんが…」
風はゼロノートの話を聞いて泣いている。
「泣くんじゃない。可愛い顔が台無しじゃ」
「で、でも…」
泣き止まない風を慰めつつ、ゼロノートは船体の変化が他に起きていないか調べる。エンジン以外に見つかったのは、船体の装甲強化と操作関係の効率化。風が扱いやすいように徹底的に強化されている。
「今後は船の強化も考えなければならんの。風、今後も操縦を頼む。儂がやるより何倍も効率的じゃ」
「…はい」
『エマージェンシー、エマージェンシー、船体に重大なダメージ』
突然鳴り響く爆音。
船体を激しく揺さぶり、艦橋がエマージェンシーコールで真っ赤に染まる。
「何事じゃ!」
モニターに表示されるのは外の映像。
上空からミサイルが雨のように降っている。
「バッドレイン!」
ブラジルの上空。
戦闘機のフォルムをした機人がミサイルを投下している。
「オーホー、やっぱり最高だぜ! 俺様のミサイルは」
この機人こそ破戒の将の一機、バッドレイン。重厚な装甲を身に纏った人型で、背中の翼には6基のミサイルが搭載されている。翼は位置変動をし、背中から腕へ、腕から足へ、足から背中へと自由自在。翼に搭載されたミサイルは自動装填され、大気を材料にナノマシンが生成する為無限に使える。無限に使える高火力のミサイルを気の向くまま降らせるためにバッドレインと呼ばれている。
「裏切り者には罰だよな。オーホー!」
ミサイルを投下しながら、きりもみ旋回。変動する翼を上手く使いながらミサイルが自身に当たらないように的確に飛行戦艦を攻撃し続ける。
「何故じゃ! ジャマ―は効いておるし、捕捉されたアラートもなっておらん! バッドレインにまだ見ぬ機能が隠されておったのか?」
必死に打開策を探すゼロノート。
しかし、船体のダメージが甚大で飛行どころか浮上も出来ない。
「…シーリアに頼むしかないのじゃろうか…」
「俺を忘れていないか?」
通信は謙二郎のもの。
食料と機材調達の帰りに艦橋の通信を受け取った。
「どうやって通信を受け取ったのじゃ?」
「送ったのはゼロノートだろ?」
「儂じゃない。儂じゃ…」
ゼロノートは通信履歴を調べる。
送ったのは確かにゼロノートになっている。だが、発信場所は戒の部屋。
「…戒が知らせたようじゃ」
「戒! 目を覚ましたのか?
「いや、まだじゃ。おそらく夢の中から儂らをサポートしておる」
謙二郎の通信は一方的に切れる。
ゼロノートがモニターで外を確認。光速で近づく謙二郎の姿を辛うじて捕捉する。
「謙二郎…今のお主では勝てない。勝つのではなく、引き分けを狙うんじゃ…」
ゼロノートの進言は伝わらない。
後は謙二郎に任せるしかない。
狂喜乱舞しながらミサイルを降らせるバッドレインだったが、殺気を感じ取りミサイルの乱射を止める。
「凄まじい殺気じゃないか。オーホー」
白銀の騎士姿の謙二郎が光と共に現れる。
「…お前を倒す!」
剣を鞘から抜き、光の糸をバッドレインに向けて放つ。
バッドレインは、ミサイルを使わず高速飛行で回避。だが、光の糸はいつの間にかバッドレインの体に巻き付いている。
「オーホー」
「終わりだ!」
剣を大きく一振り。
巻き付いていた光の糸がバッドレインを真っ二つに斬り裂く。
「…良い切れ味だ。雑魚の同胞なら一撃だ、オーホー」
バッドレインの体は瞬く間に再生。
「普通の機人とは別格の性能…当然か」
「次はこっちの番だな」
バッドレインはミサイルを一斉発射。6発のミサイルが同時に襲い掛かる。
謙二郎は光速でミサイルを難無く回避。しかし、追尾性能まで有していたミサイルは何処までも謙二郎を追う。例え圧倒的な速度で回避してもその痕跡を辿って確実に追いかける。
「速い速い! だが、いつまで逃げられるかな、オーホー」
バッドレインの言葉通り謙二郎は苦戦していた。光速で飛行している謙二郎にミサイルは全然追いつけない。余裕をもって躱し、余裕をもって間を開けられる。しかし、破壊するタイミングがない。破壊しようと剣を構えるが、何故か瞬間的に速度を増して後ろに回り込まれる。光速を生かして破壊しようとしても、すり抜けるように背後に回る。感覚的には回り込まれたと言うより、瞬間移動して背後に現われたと言った感じ。
「このミサイル…普通じゃない! 瞬間的に俺より早く移動する」
バッドレインは高みの見物。
謙二郎はそこに目を付ける。
「ミサイルがダメなら、本体ならどうだ!」
光速でバッドレインに突っ込み、剣に光を束ねて斬りつける。
「光子圧縮、レイカリバー!」
渾身の一撃だった。
しかし…。
「残念でした。オーホー」
レイカリバーは薄い鉄の壁に防がれる。
幾ら力を入れてもビクともせず、逆に剣が壊れていく。
「俺の速度はお前より遅い。しか~し! 守りは俺が断然硬い! アイアンシールド最強! オーホー!」
呆気に取られている間に、追っていたミサイルが謙二郎の背中に着弾。
激しい爆発と共に白銀の鎧が砕ける。
「脆い鎧。俺との戦いには向かなかったな。オーホー」
砕けた鎧から生身の謙二郎が放出される。意識を失い、両足に埋め込まれていた統率機が機能を停止する。普通の人間に戻った謙二郎は自然落下。
「いかん! 謙二郎が殺されるぞ!」
艦橋で慌てるゼロノートは、飛行戦艦に搭載していたレーザーでバッドレインを攻撃。しかし、バッドレインのアイアンシールドを砕く事が出来ない。
「何とかせんと、謙二郎が…希望の一つが…」
バッドレインは、落下する謙二郎に人差し指を向ける。
「オーホー。先ずは右肩」
指先に空洞になり、そこから銃弾が一発放たれる。
銃弾は寸分の狂いなく、謙二郎の右肩の腱を撃ち抜く。
「左肩」
左肩も撃ち抜く。
それでも謙二郎は目を覚まさない。
「次は…面倒だ、心臓にしよう。オーホー」
心臓に人差し指を合わせる。
しかし、艦橋で慌てるゼロノートを弄ぶようになかなか撃たず焦らす。ようやく撃ったかと思うと、銃弾をわざと外して腹を抱えて笑う。ブレインと同じように感情を与えられているせいか、感情を満足させるための行動を優先する傾向がある。
「裏切者も弄んだ。そろそろ死んでもらおう。オーホー」
心臓に人差し指を合わせ、銃弾を発射。
銃弾は真っ直ぐ心臓に向かう。
「僕は…」
銃弾が命中する寸前、白い幕に遮られる。
「…オーホー?」
白い幕が広がり真っ白な翼に変化。
翼越しに腕が見え、謙二郎を受け止めている。
「…自分を失った」
翼を大きく広げると持ち主の姿が露呈する。
優しい顔をした戒。
涙を流し続ける戒。
「何度涙を流しても失ったものは戻らない。涙で濡れた頬は誰にも見えず、苦しみを知ってくれる者も居ない…筈だった」
戒は流れる涙を乱暴に拭う。
「俺にも居たらしい。分かってくれる奴が。だから…もう失う訳には行かない!」
いつもの戒に戻り、謙二郎を揺さぶる。
しかし、謙二郎は起きない。
「いつまで寝ている。お前の願いは何だ? 俺と一緒に戦う事じゃなかったのか!」
戒が謙二郎の統率機に触れる。
失われた機能が復活し、減少していたエネルギーが大量に供給される。
「…こ、ここは?」
「いつまで呆けている。待ちに待った時が来たぞ。謙二郎、一緒にバッドレインを倒すぞ!」
謙二郎は自身に起きた変化に気付く。
鎧が軽くなり、まるで体の一部のように言う事を聞く。鞘から抜いた剣は既に光を纏っていて、現れる光の糸は何重にも束ねられ鎖に変化している。
「戒…僕は…」
「戻ってるぞ。振り切ったんだろ、弱い自分を、超えたい自分を」
「…ああ!」
バッドレインは、目の前で起きた異変に目を奪われる。感情を忘れてただただ事の成り行きを見守り、次第に湧き上がる不可解な感情に葛藤する。
「俺は…何をしている? 攻撃の機械を逃してまで、何を見ていた…何を…」
理解はしている。
だが、受け入れて昇華する心が無い。
「オーホー…殺せばいい。殺せば全てが無くなる」
戒と謙二郎に向けてミサイルを乱射。
6発のミサイルが3発ずつに分かれて襲う。
「自分の意志を理解出来ない奴に俺達は倒せない!」
白い翼が大きくなり、ミサイル全部を受ける。
ミサイルは爆発せず翼に取り込まれる。
「戒、俺は何をすればいい!」
「出来るだけ早く飛んでバッドレインに攻撃し続けろ! 今のお前ならバッドレインを釘付けに出来る。俺はその間に準備を整える」
「分かった」
謙二郎は、光速でバッドレインに襲い掛かる。
光の剣を何度も振り、光の鎖をバッドレインのアイアンシールドに巻き付ける。光の鎖が締まるように剣を振るが、敢えて全力を出さずに拘束だけで留める。
「無駄な事を。また防いでやる! オーホー!」
謙二郎は、レイカリバーを使わずバッドレインを中心に光の礫をアイアンシールドに当て続ける。威力は然程ない。しかし、光の礫が当たる度にアイアンシールドが振動し動きが鈍くなる。
「貧弱な攻撃に鈍っている? 何が起きている!」
バッドレインは、謙二郎の攻撃の意図を探る。致命傷を与えず位置を固定。そして、動かない戒。導き出されるのは、謙二郎が攪乱役で、戒が主砲。動かないように固定する事で戒の主砲を直撃させるつもりだと判断。
「読めた!」
バッドレインは翼を腕に移動し、腕を振り回しながらミサイル乱射。自動装填の利を生かして何度も何度もミサイル乱射を続ける。しかし、ミサイルは何故か非常に遅い。空中にミサイルの数がどんどん増えていき、見渡す限りミサイルで埋め尽くされる。
「エクスプロージョン!」
バッドレインの叫び声を合図に全てのミサイルが爆発。
空が炎の海に変わる。
「オーホー、オーホー! 全部壊れろ!」
「壊れるのは…お前だ!」
バッドレインの目の前に戒が現れる。
蒼い光を帯びた拳を引き絞っている。
「いつに間に…」
放たれる拳は、急速展開されたアイアンシールドを貫通しバッドレインの胸に突っ込む。
「これなんだ?」
拳を引き抜くと、三角柱の統率機が握られている。
「…か、返せ!」
伸ばした手は、戒に届かず朽ち果てる。
戒の指先が統率機の中に入っている。
「破戒の将、バッドレイン。運が悪かったな。今の俺は許せるほど寛容じゃない」
統率機の色が濁っていく。
「仲間を弄んだ奴を許したら…本当の俺に叱られる。俺にとっては何よりも怖い」
濁りが酷くなるにつれ、バッドレインの体も濁っていく。
「何を…した…」
「ウィルスって知っているか? システムに侵入して内側から破壊する危険な存在」
統率機の中には大量のウィルスが入っている。
ナノマシンが機能を変化させたナノマシンウィルス。
「…こんな…最後とは…オーホー…」
バッドレインは、真っ黒に濁ってボロボロに滅びる。
戒の手に握っていた統率機も同じように。
「仮面の役割は、怒り」




