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犬と帽子と本の虫3

 話が終わるころには日も傾いて来ていたので、宿をとることにした。

 先ほど宝石を見せてしまったために、既にそこで宿をとっていたテトラも無理やりに引き払わせ、別の宿に変えた。

 それもこの町で最も高級なホテルである。金に余裕があるのならば、そこに宿を取らない手はない。安宿で金を持っていることを知られたら、店の人間から夜討ちされることもあるからだ。

クロガネはテトラの隣の部屋をとっている。

 マントを外し、帽子掛けに被せる。同様にコートも脱ぐ。

 その下には簡易鎧と、それから腰に下げられた二振りの剣。

 一本は、密林で草を切り払ったり、犬相手に抜いた安物の剣だが、もう一本は紫がかった黒の鞘に納められている。その剣の柄尻はグロテスクな手――まるで伝説にある悪魔のそれのような――の形をしていた。

 剣や鎧を外し、テーブルの上に置き、ベッドの上に腰かける。

「ふう……」

 一息つく。

 それに合わせたかのようにマントのフードからふわふわとシイタケが這い出してきた。

「お疲れー」

「何がお疲れだ」

「それはいいとして。何か今回の依頼、やばそうじゃない?」

「まぁな」

 クロガネとてわかっていた。

 いくらなんでも報酬が高すぎる。相場の倍どころではない。

 であるのに、どうも裏があるからとは思えなかった。そもそも自分をペテンにかけるメリットはどこにもない。

 だから余計に危険な香りがするのだった。

 罠ならそれを留意しておけば、抜けられる自信がある。

 だが、純粋に危険に対しての正当な報酬だと、テトラが考えているとすれば――

「……マルマインゲアー。誰とも組まないとは聞いたが……それだけ腕に自信があるということだろうしな。楽な相手ではないだろう」

 クロガネは何気ない会話と変わらないトーンで、しかしどこか真剣さを匂わせて言った。

「まぁ、おれがついてるから大船に乗ったつもりでいなよ」

 シイタケは胸を反らせて言う。

「泥船の間違いだろう。恩返しだのなんだの言って付きまとう割には役に立った記憶なんてないぞ」

「そんなことないって。例えば……」

 後が続かない。

 生まれる気不味い静寂。

「お前に出来る一番の恩返しはとっとと帰ることだよ」

 言ってクロガネは床についた。

「ちょ、それはないって~」

「黙れ。眠い」

「いいもんね! クロガネがなんと言おうと恩返しするまで絶対離れないからな!」

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