断罪者を断罪する罪人13
「そんな……理由で……儂の野望が……。ふざけるな……ふざけるな……許さぬ! 許さぬ! 覚えておれ……貴様はこれから世界のどこにいようと常に教会に追われ続ける。心休まる時もない。はははははは。ざまあみろ。はははははは……」
大司教は狂ったように笑い続ける。
「死ね死ね死ね! ははははははは……がっ」
その体がぐしゃりとひしゃげた。
虚空に吸い込まれるように、断末魔をあげる間もなく、めしゃめしゃと砕き飲まれた。
「これは……」
大司教が消えた空間がゆらゆら揺れ、空間そのものに亀裂が入った。
どん、どん、『向こう側』から断続的に鈍い音が響く。まるで檻に閉じ込められた猛獣が暴れているかのように。
「でかいぞ……」
亀裂から空間をこじ開けるように、巨大な腕が出た。
腕。
果たしてそれは腕だったのだろうか。
足もある。目もある。耳もある。どこのかはわからない指もある。歯もある。爪も、口も。いくつも。いくつも。
それらが混ざり合って腕の形を成していたのだ。
「そうか……こいつが、〝肉体の悪魔〟……ラディゲか」
空間を引き裂いて現れる、狂気的で冒涜的で、冗談じみた、人体をめちゃくちゃに練り合わせた化け物。
まだその全てが出ていないにも関わらず、その巨体のみならず、放たれる威圧感と瘴気は桁違いだった。
空気が淀み、ヘドロの臭いが漂う。視界が、世界が歪む。
全身が総毛立ち、見ただけで気が狂いそうになる。
これに比べれば、アリゲイターや大司教などは可愛いものだろう。
この世にあってはならないものが、『向こう』から漏れして来る――
「クロガネ……逃げよう」
「ダメだ。こいつはどこまでも追ってくるだろう。いい具合に熟した獲物を食らうためにな。わかるんだ。……こいつとは、どこかでまだ繋がっている――」
「殺されちまうよ! なんでそんなにムリするんだよ!」
「ふっ……お前に心配されるようになったらお仕舞いだな」
クロガネは、また片手でシイタケの頬をつねる。
「もう勝手に逃げろなどとは言わん。……そばにいてくれ。最後まで」
「……!」
いつだってそうだ、とクロガネは思う。
いつもいなくなってから気づく。
本当に大事なものは、空気のようにそばにあって。
それが永遠に続くと信じている。
だけど、ある日突然それがなくなるのだ。
その時にはもう遅い。
泣いても悔やんでも、去った者は帰ってこない。
だから――
「私が守ってやるから、後ろで震えてろ」
言葉とは裏腹に、その響きは穏やかだった。
「で、でも……クロガネが死んじゃうよ……」
言われて、クロガネはかすかにほほ笑んだ。それからシイタケの頭を撫でる。
「……死にはしないさ。まだお前から恩を返されていないからな」
「……!」
撫でるその手が、もう人のそれではなかった。五指の谷間も狭まり、体毛に覆われ、肉球を持つ獣の手。
手だけではない。
クロガネの体は急速に変貌していく。
もう、二本脚で立っていられなかった。
魔剣シェイクハンドがその機能を失い、クロガネの腕から離れる。
それをくわえ――犬歯の並んだ獣の顎――クロガネは、強大な化け物へと走り出した。




