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断罪者を断罪する罪人12

『毒を持って毒を制す。その儂の高潔な覚悟がわからんか!』

「貴様らは本当に自分に都合のいいようにしか言わんな。それが貴様の本性だろう。……シイタケ、下がっていろ」

「でも……」

 クロガネは軽口を叩いているが、その汗の量は尋常ではない。

 話している間も、めきめき、ぱきぱきと耳障りな音が響き続けている。剣を持っている限り、クロガネの肉体は変質していくのだ。

 その恐怖感、不快感は計り知れない。

 そして、筋肉や腱が自壊して再生している以上、凄まじい激痛に襲われているはずなのである。

 あまつさえ、あれほどの化け物が相手となればただでは済まないだろう。

「クロガネ……おれのために……あれ? ひー」

 クロガネは左手でシイタケのほっぺたを引っ張った。

「図に乗るな。誰がお前のためなんかに……」

 それから剣を大司教に突きつけ、

「あいつが気に入らないのさ」

 笑った。

『神に弓引く愚か者があっ! 思い知らせてくれるわ!』

「神など……こんな馬鹿を悪魔だと言っている時点で、信用などしていない!」

 クロガネが駆けだす。

 獣の足から生み出される加速は、もはや生物の枠を遙かに超えている。

 服が風圧でずれ、尻尾が跳ねて飛び出した。

 両眼が赤く輝き、走ることによって宙に残光で線を描く。

 赤い線は猛烈な速度で伸びて行き、一瞬にして大司教の懐に入った。

 そこから今度は真上に黒い閃光が伸びる。

 ぶおん、しゃかっ、

 光が先に、そして音が後からついてくる、稲妻の如き一撃が炸裂した。

『ごああ……』

 山羊の顔の一つが斬り裂かれ、呻きを上げる。

『おのれ……ウィロロシュクレハロ……』

 七つの首が同時に呪文を詠唱し始めた。

「く……!」

 首が七つあったのでは、止めようがない。

 クロガネは一つの顔を斬り裂いたが、詠唱はその間に完成した。

 呪文無しであれだけの魔法を行使していた大司教がわざわざ呪文を詠唱した、即ち、そこから放たれる魔法は、次元が違うと言う事――

『天地創造の混沌受けて吹き飛ぶがいいっ!』

 大司教の体が、七色に輝いた。

 それがマーブル模様に混ざり合い、一点に球となって集束する。

『オーロラ……イクスプロージオン!』

 瞬間、光が辺りを包み――

 大爆発が起きた。

 本来であれば、それは塔の上半分をまるごと吹き飛ばしていても不思議ではないほどの爆発。

 しかし、それは一点に目がけて収縮していく。

 その一点は、もちろんクロガネだった。

 大爆発のエネルギーが、たった一人を襲ったのだ。

『ははは……塵も残るまい』

 マーブルの光球が、じりじりと音を立てながら宙に浮いていた。

 その表面に、黒い線が縦に入る。

 魚をおろすようにその線から真横に球が引き裂かれ、

「うおおおおおあああっ!」

 黒い影が、銀色の光を煌かせながら飛びだした。

 それは怪鳥の如く大司教の懐に飛び込むと、真下から漆黒の斬撃を放つ。

 まるで剣から真っ黒な光が吹き出し、それが刃となったようだった。

 それは、空間が斬り裂かれた証。

 空間そのものが裂け、その断面がむき出しになったのだ。

 ゆえにどんな鉄壁も障壁も意味を成さない。硬さも厚さも関係なく、それが乗る空間が斬り裂かれているのだから。

『が……』

大司教の巨体に真っすぐ一本の線が入り、そこから測ったように真っ二つに分たれた。

 包丁を入れた西瓜のように自重で左右に倒れ、地響きを立てる。

「……」

 クロガネはぼうっとそれを見ていた。

 何の感慨もなく、ただ見ている。

 彼女は、肌のあちこちに火傷を負っていた。が、それはしゅうしゅうと音を立てて再生していく。

 あの高熱の光球の中にあって、無事に現れた、それはこの再生力によって焼き尽くされるより早く再生し続けたからに他ならない。

 しかし、それは肉体の変化を早めたことと同義である。

 彼女の耳は、獣のように尖り、体毛に覆われたものになり、また腕や首回りなど露出している部分の多くも銀の獣のような体毛が生えてきていた。足は完全に獣のそれに近く、もはや直立していることすら困難のようだった。

 一方、大司教であるが、傷の断面からワインのように紅色の血が流れ出し、それに合わせ体がしぼみ始めた。

 分たれたそれがしぼむにつれ再び結合し、人間の形に戻っていく。

 だが、そこにいたのは少年ではなく、老人だった。

「……くく。この儂が……負けるとは……教皇の座が……支配が……」

 力なく、天に向かって両の手を伸ばす。

 それから恨みがましい目でクロガネを見た。

「……なぜだ! なぜ世界を敵に回してでもこんな小悪魔を救おうとするのだ!?」

「知らん。ただ……癪だがこいつがいないと落ち着かん」

 クロガネは言って、恥ずかしいのか頬をわずかに染め、それからシイタケの頬をつねった。

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