断罪者を断罪する罪人11
「なんじゃ貴様……その姿……む」
大司教の視線が、クロガネの剣を捉えた。
その手に喰い込むように握りしめられた、禍々しい悪魔の手。
「そうか……それは魔剣シェイクハンドだったな! ……くはは、ははははははははっ! これはいい! その剣を使った反動で肉体が変質しておるではないか!」
「それが……どうした」
クロガネは剣を更に強く握る。
「バカめ! これ以上使えば完全な獣と化すぞ! それでもよいというのか?」
嘲るような大司教の視線を、射殺すような視線で返し、
「じゃあ貴様らは人間か? 笑わせるなよ。人の心も持たんくせに! 上等だ! そんな人間になるくらいならな!」
「うぐ……」
クロガネから放たれる威圧感に、大司教は言葉を失った。
「あああああああああああああああああ!」
クロガネが吼えた。
塔全体を揺るがす魔獣の咆哮。
しかし、どこか雄々しく、哀しく――
その口からは鋭い犬歯が覗いていた。
だが本人はそんなことなど構わず、斬りかかる。
「く……海の青。津波の洗礼」
大司教の手から、大量の水が噴き出す。
水であるから空中から落下するだけのはずだが、波うち、膨大な奔流となってクロガネを飲み込んだ。
その勢いは凄まじく、床にぶつかり石畳を打ち割る。
しかし、クロガネはそれを突き破って飛び出した。
「な……」
ざきゅしゅあっ、神速で放たれた一撃は、その剣の本性によるものか、漆黒の剣閃と共に大司教の体を斬り裂いた。常識を遙かに超えた衝撃に翼はへし折れ、ちぎれ飛ぶ。
のみならず、そのまま黒い軌跡は天に架かった虹をも斬り裂いた。
後光を散らせながら、血を噴き出しながら、大司教がもんどりうって落下した。
「ぎゃあっ……」
痛みにのたうち回る大司教。
それを見下ろすようにクロガネは立っていた。
「……シイタケは返してもらうぞ」
そのまま脇を抜け、シイタケの元へ歩きだす。
大司教は、虚ろな目で床を見ていた。
「……この儂が……見下されるじゃと……」
その腕が打ち震える。
「ふざ……けるなあああああああっ!」
絶叫に、シイタケのガラスの筒を外していたクロガネが振り返ると、そこには幽鬼の如き表情で立つ大司教がいた。
「儂は……儂は教皇になる男じゃぞ! 全てを見下ろす男なんじゃあっ! 見下すなど許せぬわあっ!」
大司教の体がぼこんと膨らんだ。
中から中から、別の生き物が這い出そうとしているかのように、その肉体を歪に膨張させていく。
体内に取り込んだアクシオンを、解放しているのだ。
本来人間の体内に存在しないはずのそれは、肉体の老化を抑え、超能力の発現に使用されていた。
だが、それを完全に戦闘用に使用したとすれば――
「何だよ……これ……」
やっとガラス筒から出ることが出来たシイタケが呆然と呟いた。
大司教の体は、部屋の半分をも埋め尽くす、小山の如き巨体へと変貌していた。
そこに天使のようだった面影などどこにもなく。
体を起こした時、既に穴が開いていた天井に衝突し、天井は完全に破壊された。
しかし、なんたる異形か。
太陽に照らされ、あらわになったその姿は、七つの山羊の首に胴は獅子、鷲の翼に鶏の脚を持ち、尾はコブラ――悪魔という言葉でも追いつかないほどの怪物だった。
「……よくも人のことを言えたものだ。化け物め……」
『……オロカ者が……』
七つの山羊の口が、同時に喋った。




