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断罪者を断罪する罪人10

「バカな……」

 大司教は信じられないといった様子で、よろめく。

「こんな小悪魔のためにじゃと!? それだけの理由で……!?」

「そいつをぶっ飛ばしていいのは私だけだ。他の誰にも許さん」

 クロガネは疾走しつつ、刃を返す。

「最後にもう一度だけ言う。どけ!」

「ふざけるなぁっ!」

「なら力づくで押し通る!」

クロガネの突きが空を裂き、超高速で放たれる。

 何ら遮るものがないというのに、その切っ先は大司教の眼前で止まった。

 無論、止めたのではない。

 止められたのだ。不可視の壁に。

 だが、クロガネは驚かない。

「腐っても大司教か」

「腐ってもだと? どこまでふざければ気が済むんじゃあっ!」

 大司教は絶叫した。

 その叫びに合わせてその体が宙に浮かびあがる。

 それから全身から色とりどりの光が放たれた。

 それは天井を突き破り、空に虹を架ける。

 赤、青、黄、緑、紫、白、金。

極光神話によれば、神の後光の赤から太陽が生まれ、青から海が生まれ、黄から大地が生まれた。白から空が生まれ、紫から夜が生まれ、緑から森が生まれた。そして最後に、極光神の愛に満ちた金色から人間が生まれたという。

極光教が定める極光神の後光たる七色を纏い、大司教は体を抱え込むように丸めた。

その背から八対一六枚の翼が飛び出す。

端正な少年の顔立ちに、純白の翼、七色の後光。

それは、神話にある天の御使いの姿に違いなかった。

「見よ。この神々しき我が姿を」

 まさに天使の如く、宙から睥睨し、言う。

「中身が貴様でなければよかったかもしれんがな」

「減らず口をぉっ!」

 大司教は手を翳した。

 その掌に背中の後光から赤い光が集まる。

「灼熱の劫火。赤の裁き」

 赤は炎となり、渦を巻いてクロガネに襲い掛かる。

「ちっ!」

 当初クロガネはガラスの筒を陰にやりすごそうとしたが、炎は生き物のようにうねって迫って来た。

そのまま残っていればただ焼き殺されるだけだが、逃げ場も奪われている。

 クロガネはマントを被ると、自ら炎に飛び込んだ。

 普通ならマントの一枚程度焼き尽くされ、仮に炎を抜けられても熱風で肺が焼かれて死んでしまうだろう。

 だが、クロガネの跳躍のスピードは桁が違った。

 あまりの速度ゆえ炎は切り裂かれ、火傷一つ負わずクロガネが飛び出す。

 更にそのままの勢いで大司教に飛びかかった。

「しぃっ!」

 息を吐き、剣を斬り上げる。

「ぎゃっ!」

 その一撃の鋭さに、いかに肉体を強化しようと戦闘に関してはずぶの素人の大司教が反応できるはずもなく。

 その胸から肩にかけて斬り裂かれ、大司教は呻いた。

 絶好のチャンスだが、翼の無いクロガネは空中にとどまれない。

 着地と同時に再び飛びかかる。

「いい気になるなよ下賤のカスがあっ! 貴様らは儂に支配されていればいいんだっ!」

 大司教が再び右手を翳す。

 今度は黄色の光が集まり、土と化した。

 そして左手も翳すと、そちらには赤い光が集まり炎と化す。

 その両手を合わせると、土と炎が混ざり合い、

「赤と黄。神の鉄槌!」

 巨大な鉄球を成した。

 それがクロガネに振り下ろされる。

「ぐ……」

 受け止めたクロガネはそのまま着地したが、その重圧に足が床に埋まり、そして足が固定した状態で押されるために上半身が反り、背骨と膝がめきめきと音を立てた。

「これで終わりじゃと思うか?」

 大司教はまたしても掌に光を集めた。今度は紫である。

「星の紫。落下力」

 紫の光が鉄球に照射された瞬間、鉄球の重さが倍化した。

 極光教によれば、夜は星が落ちてこないように支えているという。物の落下を支配する夜。紫は重力を操るのだ。

「ぬぐ……うあっ!?」

 凄まじい重圧に、クロガネは床と鉄球の間に押し潰された。

「クロガネーーー!」

 シイタケが絶叫する。

「はははははは! どうじゃ見たか! これが儂の力だ! 威光極光我が栄光ぉぉぉぉぉぉっ! 天上の美しさに(めっ)される事を光栄に思うが良い!」

「……美しさ、だと?」

「は?」

 ゆっくりと、鉄球が持ち上がり始めた。

「バ、バカな! この鉄球は亜竜種ですら持ち上げられんはず……」

「……そこのバカが見せた景色の方がよほど綺麗だったぞ……」

ばぎん、べぎん、鉄球にヒビが入っていく。

「そうだ。……そこのバカはな……白黒だった私に、色をくれたんだよ」

「クロガネ……」

 シイタケの目に、涙が浮かぶ。

「空っぽだった私に、中身をくれたんだ!」

 ばぎん、べきべきべき

「な、何をいっておるんじゃ……」

「うおあああああああああっ!」

 クロガネの裂帛の気合と共に、鉄球が砕け散った。

「やったーークロガネ……え?」

 泣きながら叫んだシイタケが、驚きに目を丸くした。

 クロガネの足が、膝から逆に曲がっていたのである。

 折れているのではない。

 はじめからその方向だったかのように曲がっていたのだ。

 それは、まるで獣――

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