断罪者を断罪する罪人7
塔の中に侵入したクロガネが見たのは、檻だった。
正面奥には階段が見えるが、部屋の両脇は大きな檻がずらりと並んでいるだけである。
明らかに人間用ではない。大きすぎる。
だが、クロガネは気にもしない。
一直線に階段へ向かう。
シイタケは最上階だ。
なんの根拠もないが、クロガネはそう決めつけてただ前に突き進む。
その行く手を遮るように、一つの影が現れた。
「まさか、生きてるとはな。その上、ここに攻め入るとは、全くイカれてんじゃねえか?」
言葉の内容に反し、その声は弾み、嬉しさを隠しきれないようだった。
「貴様にだけは言われたくないな、アリゲイター」
クロガネは足を止めた。
この相手は外の雑兵のように簡単に蹴散らせる相手ではない。
「その回復力は認めてやるがな。俺に勝てねえってことはわかってるだろ?」
「知らん。頭は悪いものでな」
クロガネは両手を大きく開き、二刀で斬りかかる。
アリゲイターもまたトラバサミを両手に構えて迫る。
直後、常人では見ることも出来ない高速の攻防が起きた。
瞬き程の間にクロガネは二十三撃放ち、アリゲイターはその全てを弾くと、三十撃の攻撃を放った。
クロガネはその全てを弾こうとはせずに、致命の攻撃のみ弾いた。浅くあちこち肌が裂かれる。
お互い大きなダメージはない。
だが、この一瞬の攻防で、実力差をお互いがはっきりと認識していた。
「……やっぱまだまだだな。この程度じゃあ俺には勝てねえ。また出てくるぐらいなんだから強くなってやがれよ。雑魚が」
興が醒めた、そんな様子のアリゲイター。
一方、クロガネの方は、ゆったりと、まるでこれから風呂にでも入ろうかというように立っていた。体のどこにも力が入っていない。
そして、ゆっくり腰の剣に手を伸ばし、
「……あの時は抜けなかった」
ぽつりと呟く。
その言葉は誰に向けたわけでもなかったが、アリゲイターの耳にも届いた。
「あぁ? 何だ。この前は抜けなかった奴を今回は抜くってか?」
「もっと前だ」
「はぁ?」
クロガネの掌が、悪魔の手を模した柄に触れる。
魔剣シェイクハンド。
その名の通り、この剣を抜くという事は、悪魔と握手し契約するという事である。
一たび抜けば、悪魔の力――アクシオンを吸収し、更に上位の力に変換したもの――が流れ込む。
それは肉体を作り変えてしまうほどの力。
いや、正確には、そのあまりに凄まじい力に耐えられる肉体へと変えてしまう。
抜くたびに流れ込む量は増え、それに耐えうる肉体に更に変わっていく。
それが最大になった時、それは悪魔と同じ肉体になる。なぜなら、悪魔の力に耐えられるのは悪魔だけだからだ。
そして、クロガネの肉体もまた――表面上はそれまでと大差ないが――確実に筋肉や骨格のレベルから変貌している。
もしあと一度でも抜けば、クロガネは完全に悪魔と化してしまうだろう。
「好きでも嫌いでもなかったはずなんだがな……」
だが、それでも――
「……今なら抜けるぞ」
クロガネは悪魔と握手した。




