断罪者を断罪する罪人6
悲鳴が上がった。
クロガネではない。その周囲の敵でもない。
声は遠くからだった。
悲鳴だけでなく爆音も上がっている。
「しゃっはーっ! 吹っ飛びたくなきゃどきなせえっ!」
にやりと笑いながら兵たちの群れに飛び込んで来たのは、テンガロンハットを被った男だった。
そしてその背には、
「クロガネー! 助けに来たよー!」
白衣の男が母親に負われる赤子のようにひもで縛りつけられていた。
「ククロシュルルレロ……」
彼は魔道書を両手に持ち、器用に親指でページをめくるとぶつぶつと呟く。
それに合わせて周囲で爆発が起こった。
「わあっ!?」
「そんな……あれじゃまるで奇跡じゃないか!」
「ひいいい!」
吹っ飛ばされていく兵士たち。
「へっ、やるじゃねえか。やっぱりそのお宝に目を付けた俺の目利きは確かってことだな。ま、もうどうでもいいけどよ! よーし、くらいなぁっ! J・K・ローリング!」
テンガロンハットの男はホルスターから次々とナイフを投擲した。
それも折り畳みナイフを畳んだまま投げているのだが、それが回転しながら飛んで行き、丁度敵にぶつかる寸前で開いて突き刺さる。
二人とはいえ、突然の敵援軍に兵たちは浮足立った。特に聖人しか使えないはずの奇跡の技――即ち魔法――まで行使され、パニックが起こり、伝染する。
「な……」
クロガネもまさか足を折ったテトラと、彼を追いかけまわしていたマルマインゲアーが協力して現れるとは思わず、言葉を失った。
が、
「阿呆ども! なぜ来た!」
すぐに我を取り戻すと、大声でどなった。
それを見てマルマインゲアーは喜色満面といった表情になった。
「おう。クロガネ。俺はよ。今まで人から情けを受けたことはなかった。だからお前さんから情けをかけられた時は、悔しくて悔しくてな。寝ても覚めても、どう復讐するか、そればかり考えてた。……だがよう」
下を向き、顔を曇らせ、それから急に顔を上げると、
「ふと気づいたんだ。こんなに俺の頭の中をお前さんが占めてる。……こりゃあ恋じゃねえかってな」
「……は?」
顔を赤くしたマルマインゲアーに、クロガネはあ然とした。
「愛してるぜえ。クロガネ!」
「信じられないほどのバカだ……」
戦闘中にもかかわらず、クロガネは肩をがっくりと落とした。
それでも片手で背後の敵の剣を制していたが。
「そのバカはともかく、キサマまで何を考えてるテトラ!」
「君らと居たら、欠けてるモノが埋まりそうな気がしてね。そんなわけで君を探してた彼と、居場所を知っているけど動けない僕の利害が一致したわけだ」
状況を本当にわかっているのか、テトラはにこにこと笑った。
「……もういい。一つだけ言っておく」
クロガネは視線を一度テトラたちに送ると、それから背を向け、
「死ぬな」
「合点だ」
マルマインゲアーが笑い、テトラは頷く。
二人は再びナイフやロープ、魔法を乱射しながら突き進む。
寵愛騎士団ならともかく、一般兵や民兵など敵ではない。巧妙にそれらを狙う事で、戦力差を感じさせず、また敵の陣形を乱す。
敵の囲いはたった二人によって崩された。
クロガネはその好機を逃さず、敵の密度の薄い所を強引に突き破り、
「うるああああああっ!」
全身のバネをフルに使い、腰の魔剣を鞘ごと塔に投げつけた。
クロガネは魔剣から決して離れられない。それは呪縛。
ゆえに、クロガネの体は魔剣に引きずれるように飛んだ。
そして魔剣をキャッチすると、そのまま塔の入口に駆け込む。
それを兵たちが追いかけようとするが、狙い澄ましたかのようにテトラの魔法が炸裂し、入口上部を吹き飛ばす。崩れ落ちていく瓦礫は、そのまま入口を封鎖した。
兵たちの一部が瓦礫を除去しようとしたが、そこにナイフが飛んで行くので全く作業が出来ない。遥か遠くにいるはずの、テンガロンハットの男の超長距離ナイフ投げに兵たちは度肝を抜かれた。
そこで数百の兵たちが、邪魔者を排除すべくたった二人に襲い掛かる。
その大群を見て、マルマインゲアーがからからと笑う。
「……さぁて、おいでなすったぜ」
「だねぇ」
縁側でお茶でもすすっているかのように、まったりとテトラが答える。
「余裕じゃねえかい。ここまで来てなんだが、いいのかい? 魔道書を集めるんだろ?」
「もっと面白そうなことを見つけたんだ」
背負われているので当然見えないのだが、テトラはウインクした。




