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断罪者を断罪する罪人4

 ササロウレ。

 ララシフル第二の都市と言われ、別名塔の街。

 暖房用の煙突が家々から伸び、その合間から教会施設の塔が顔を覗かせる。

 そして、一際巨大な天を衝く尖塔――光輝の塔。

 ササロウレのみならず、このココトクリ全域を統括するペイン大司教が拠点としている塔である。

 ペイン大司教は、教会ではなく、この塔を良く好んだ。

 どこからでも見える塔だが、実際は街の外れに建てられており、中で何が行われているかを市民は知らない。秘儀が行われているとの話もあるが、中に入れるのは一部の例外を除き教会関係者のみで、彼らは黙して語らないため、その内情はまったく不明である。

 さて、その光輝の塔であるが、全十五階になっており、その最上階まるまるが大司教の執務室となっていた。

 執務室と言ってもそれは言葉だけで、実際は異様な空間だった。

 頭がくらくらしそうなきつい香が焚かれ、薄い紫の煙の立ち込めた部屋には、巨大なガラスの筒が壁一面に並べられている。

 その中には、得体の知れない液体に満たされ、異形の生物たちが納められていた。

 体の一部が僅かに痙攣しており、どれも死んでいるわけではないようであるが、意識があるわけでもないようである。

 ガラスの回廊の一番奥にある煌びやかな椅子に、ペイン大司教は腰かけていた。

 左右には生気のない瞳の、扇情的な服を着た女性をはべらせ、水タバコの管をくわえて満足そうな表情を浮かべている。

 誰が見てもわかるほどの大物感を漂わせているが、その姿はまだ十四、五の少年だった。

水タバコは、本来フラスコのような本体に水を入れて使用するものであるが、彼のくわえる物の中には水ではなくワインのように紅い液体が満たされており、よく見ると本体からチューブが伸び、くだんのガラスの円筒に繋がっている。

 宝石でごてごての指輪をはめた指で、侍女の体をまさぐっていた彼であるが、その享楽の時間を乱暴にドアを開ける音が破った。

 ドアを開けた人影はずかずかとガラスの回廊を進んで行く。

「よぉ大司教。お楽しみのようだな」

「……アリゲイターか」

 そう言った大司教の声は、姿とはまるで違いしわがれた声だった。

「あんたの依頼通り、黒い剣士とやらを始末してきたぜ」

「ほ。いくらなんでも早すぎないか? お前さんはそもそもララシフルについこの間向かったばかりじゃあ……」

「俺を誰だと思ってるんだ? ララシフルにはもう行って来た。なぁに、ちょいと山を越えりゃあショートカット出来るだろ? 後は走り続けりゃいい」

 さらりと言ってのけたアリゲイターであるが、この季節に山越えなど普通は自殺行為である。確かに山を大きく迂回する街道より直線距離では遙かに短くなるが、吹雪に加え、雪獅子の群れと出くわす危険もある。

 それを簡単に往復までするなど、この男の凄まじさを如実に示していた。

「……そうか。お主は眠らんのじゃったな」

「何今さら言ってやがる。……ああ、そういえば小悪魔を捕まえて来たぜ」

「何!?」

 大司教は椅子から立ち上がった。

 アリゲイターは腰につけたズダ袋から、中から鶏でも扱うように足を引っ掴んでシイタケを取り出した。

 シイタケはぐったりして動かない。

「死んでおるんじゃないか?」

「いいや。見てな」

 アリゲイターがシイタケの背を掌で小突くと、

「……けふっ!」

 シイタケが目を覚ました。

「……ん? どこだここ。っていうか何で逆さなんだ?」

 シイタケは足を掴まれたまま、きょろきょろとあたりを見渡した。

「あっ! てめー、よくもクロガネを! コンチキショー!」

 鎖に繋がれた犬のように体を振ってアリゲイターに噛みつこうとする。

「ご覧の通りイキはいいぜ」

「ほほう。素晴らしい。死ぬとアクシオンが抜け出てしまうからのう」

 大司教は近寄ってシイタケをまるで宝石でも見るかのようにまじまじと見た。

「しっかしわかんねえな……こんなのどうすんだよ」

「わかっておらんな。精霊種というのは、意外に多くのアクシオンを有しておる。なにせ常時魔法を使って浮いておるのじゃからな」

「何言ってっかわかんねえよ」

「わからんでもよい。よし、アクシオンを絞り取る準備をせい」

 大司教は侍女にシイタケを引き取らせ、それからこまごまとした指示を与えた。

 シイタケは侍女の手の中でも暴れまわっていたため、ロープでぐるぐる巻きにされた。

「ふふ。これでまた儂の奇跡は強化される……」

「してどうすんだよ。どうせこれ以上出世は出来ねえだろうが」

 大司教より上には教皇しかないが、教皇は実質世襲制であり、彼は教皇の直系ではない。

「……ふん。あの青二才の座なんぞ、その内奪ってやるわい」

 外部の者に聞かれれば破滅するような内容であるが、それだけ彼の自尊心は肥大していた。

「まぁ、どうでもいいがな。……それより、あの黒い剣士、全然弱かったぜ? 話が違うじゃねえか」

「念話じゃったからの。シアンめも、かなり混乱しておったようじゃし」

 念話とは、彼らが奇跡だと称するテレパシーの一種であり、高位の聖職者同士ならどれほど離れていようと会話できる。一部の精霊種などに備わっている能力であるが、もちろん本来人間が扱える能力ではない。

 秘蹟中の秘蹟とされ、教会内でも知るものは少なかった。

「とにかく竜王種の情報が入ったら教えてやるから機嫌を直せ」

「忘れんなよ。あんたに協力してんのは、遊べる相手を斡旋してくれるからだぜ? 別に誰だってかまやしねえんだ」

 言いながらアリゲイターが出ていこうとしたその時、入口のドアが開いて法衣を着た男が息せき駆け込んできた。

「なんじゃそうぞうしい」

「し、侵入者です! 敷地内に無断で侵入して来たので警備が対応したのですが……その……」

「だからなんじゃ。はっきり言えい」

 露骨に不快感を示して大司教が言うと、男は縮こまりながらか細く答える。

「そのう……警備が打ち破られ……」

「バカな!」

「騎士団を呼びましたが、万が一ということも……」

「万が一などないわい! ここに駐屯している騎士団員は一〇〇人以上じゃぞ! そんなに心配ならさっさと街から兵を呼ばんか!」

 怒り、怒鳴り散らす大司教を尻目に、アリゲイターは口の端を吊り上げ、一人部屋を後にした。

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