狩人を狩る狩人6
「血?」
流石にクロガネも降りてきた。
シイタケもふらふらとその後を追う。
「血が落ちてるのか?」
「うん。たぶんそんなに古いものじゃない。夜は雪が降ってたからその上にあるってことは、今日になってからだと思うんだけど……」
「そんなに気にするほどのことかな? 誰かこけたんじゃない?」
シイタケが口笛を吹きながら言ったが、
「阿呆。こんな雪だらけのところでこけて血が出るか。……それにこの匂い……」
クロガネは鼻先をひくつかせ、街道の脇の雪が積もる茂みをかき分けた。
「これは……」
クロガネの表情が蒼白になった。
それも無理はないだろう。
茂みにあったのは、死体だった。
それも、白い鎧を纏った、寵愛騎士団のものであった。
「バカな……なぜこんな……」
「クロガネ……」
呆然とするクロガネに、今度はシイタケが震えた声をかける。
シイタケは茂みの更に奥を指差していた。
そこには、折り重なるように倒れた、寵愛騎士団員の死体。死体。死体。
「なんだ……これは」
それなりに修羅場はくぐってきたクロガネも、その惨状に言葉を失う。
「……この傷口……ワニか何かに噛まれたようだ」
テトラは死体を見てそう評したが、確かにどの死体も牙のように規則正しく並んだ傷口があり、それによってズタズタとなっていた。
「しかし……おかしいね。寵愛騎士団は肉体を強化されているはずだ。それをこうも簡単に殺せる人間がいるなんて……」
「それもあるが、なぜ殺したんだ? 寵愛騎士団を敵に回すなんて奴がいるとは思えんが……」
自分のことを棚に上げてクロガネが呟いた。
その背筋を、
「……!」
何か冷たいものが、いやもっとおぞましい何かが撫でて行ったように感じた。
クロガネは反射的にスカートを翻し、剣を抜いて背後を薙いだ。
ぎぃん、金属と金属がぶつかる耳障りな音が響いた。
「な……なんだい!?」
テトラが声を上げたのも無理はない。
突然男が現れたのだ。
両手に大型の獣用のトラバサミを持った、顔や腕など全身傷跡だらけの男が、真上から降って来ていた。
そのトラバサミが剣に止められ、ぎりぎりと音を立てていた。
「へえ。良い反応だ。楽しめそうだな」
男はクロガネを押し、その反動で軽業師のように飛び、距離をとった。
「妙な服を着ちゃあいるが、匂いでわかる。てめえは強え」
「妙な服だと? 殺すぞ」
「何だやっぱり気にいってんじゃん」
「黙れ」
シイタケの方を見向きもせずに――実際もう姿を消していたので見えはしないのだが――ツッコミを入れつつも、クロガネは相手に神経を集中させていた。
「あの騎士たちを殺したのはお前だな」
「それがどうかしたか?」
まるで宿題をすっぽかして開き直る子どものように男は言う。
「貴様何者だ。何が目的だ」
「俺か? 俺ァ、アリゲイター。寵愛騎士団の一応は一員だな」
「なっ……!?」
その場にいた全員が言葉を失った。
それも当然だろう。
だとすればこの男は仲間を殺したということだからだ……!
「目的か。そうだな。倒したことのねえ奴を倒すこと。シンプルだろ? あいつらに捕まってもらっちゃあ困るんでな。死んでもらった」
男は、蚊でも叩き潰した程度にしか感じていないらしい。
なんの淀みもなくそう言った。
クロガネたちは知る由もないが、既にこの男はララシフルの騎士団員たちも惨殺している。この男にとっては、よくある日常の一コマに過ぎない。
「バカな! そんなことが許されるわけが……」
テトラの言葉に、アリゲイターはにいと笑い、
「神はあらゆる罪を許される」
「違う! あの教義はそういう意味じゃない。だいいち、国家法で罪になるはずだ!」
「バカかお前? 国より神の方が上に決まってんだろ? なんで国家法なんかに縛られなきゃならんのだ?」
「こ……こいつは……」
テトラが言葉を失う。
アリゲイターの中で宗教とは単なる免罪機関という扱いなのだ。
「……」
クロガネもまた無言で剣を構えた。
「ん? なんだそりゃ。普通の剣か? おいおい、報告じゃあ魔剣使いだって聞いてたんだがなあ。出せよ魔剣。じゃねえとすぐ終わっちまうだろうが」
「貴様如きにはもったいない」
クロガネは疾走した。
「へっ、言うねえ。言うからには楽しませろよァッ!」
アリゲイターもまた疾走する。
両者のスピードはやはり常人のそれを遙かに超えていた。
ぎぃん、再び金属音が響く。
というよりもむしろ、早すぎて金属音しか聞こえない。
二人の姿はまともに見えないのだ。
だが、互角というわけではなかった。
「くっ……」
膝をついたのはクロガネである。




