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狩人を狩る狩人5

 翌朝。

 結局昨日は敵の襲撃もなく、またこの町には禁書もなかったため、一行はテテククリの町を後にした。

 そして街道にて。

「どうする? このまましばらく進んでいくと分岐点があるはずだけど」

 御者台で、地図を片手にテトラが言う。

 その顔は、まだ腫れていた。

「それぞれどこに着くんだ?」

「それがね……王都キキモラルか、大司教のお膝元のササロウレの街のどっちかなんだ」

 声に覇気がない。

 それは、昨日のダメージが残っているからだけではない。

 どちらも教会の勢力が極めて強い場所だからである。

「迂回は出来ないのか?」

「そうとう遠回りになるし、今の季節は危険な場所が多いかな」

 北方の王国ララシフルであるが、短いながら夏は存在する。

 しかし今は冬であり、吹雪や積雪のため大きな街道以外は封鎖ないし物理的に通れなくなっているところも少なくない。それに近くには山脈が連なっており、迂回するにはそこを登る必要があるが、素人が雪山を登ることは自殺と大差ない。おまけにこのあたりの山には凶暴な雪獅子が棲息しているのだ。

 実際、通りやすい場所に建っていたゆえにキキモラルやササロウレが発展したわけである。

「東にあるテオコアトルの森を抜けるって手もあるけど、あんなとこ入るバカなんかいないしね。いくら暖流の影響で比較的あったかいって言っても、道はないわ凶暴な獣は多いは……あれ? どうしたの?」

 テトラが車内に目をやると、クロガネとシイタケが気まずそうに俯いていた。

「……何でもない。そうだな。あんなところに行くのはバカだな……」

「あははは……」

「まぁいいや。どうせ馬車で入れる所じゃないし。やっぱりキキモラルかササロウレのどっちかだと思うけど、どっちにする?」

「より警備が厳しいのは?」

「人数で言えば軍隊を擁する王都だけど、ササロウレには最大規模の寵愛騎士団が駐屯してるからね……どっちもどっちかな。早馬で情報はどっちにも伝わってるだろうし」

「より南に近いのは?」

「ササロウレだね」

「じゃあそっちにしよう」

 あまりにもあっけらかんとクロガネが言うのでテトラも目を丸くした

「そんな簡単でいいの?」

「考えても答えが変わらん時はさっさと決めた方がいいだろう」

 というわけで一行はササロウレに向かうことにした。

 このササロウレというのは、非常に大きな街だ。

 街のあちこちに教会の施設があり、街外れには大きな塔があるが、そこは神聖な儀式を行う場所とされ、一般人が入ることは許されない。

 この街を実質的に支配するペイン大司教はかなり有名な人物だ。

 数多くの奇跡を行使し、例えば宙を歩く、傷を治すなどし、多くの人々の心を惹きつけた。五〇代である現在も、その力は衰えることがなく、未だその姿は少年のようであるという。

 そして、有名な理由がもう一つ。

 悪魔狩りである。

 ペイン大司教は、司教時代から数多くの悪魔狩りを精力的に行い、成果を上げてきた。

 実は悪魔狩りや異端審問を行う寵愛騎士団も彼の発案によるものである。

 そのいわば虎穴に向かっている一行であったが……

「クロガネ~遊んでよ~」

「黙れ。私は眠いんだ。誰が夜番をしていると思っている」

 いまひとつ緊張感はなかった。クロガネに至っては変装用だと言って例のドレスをまた着ていたりする。

「もう、何で人間はいちいち眠んないといけないんだよう」

「何でって……」

 言われてクロガネは言葉に詰まる。

 確かに人間をはじめ多くの生き物は眠るが、ザシキワラシをはじめとする精霊種のように眠らない生き物もまたたくさん存在する。

「おかしいじゃん。意識が途切れるんだろ? 怖くない? 死ぬのだって意識がずっと途切れるってことだしさ」

「それは……」

 クロガネは答えを知らなかったが、

「……そうだな。死ぬことに慣らしてるんじゃないか? どんな生き物もいつかは死ぬわけだしな」

 言って、それから自分も納得したように頷いた。

「ふうん、なるほどね~」

 シイタケも納得してこくこく頷いたが、それから何かに気づいたように「あ」と小さな呟きを漏らした。

「じゃあ眠らない人間が居たら、もう死んでるってこと?」

「どうしてそうなる? その理屈ならむしろ逆に死なないから眠らないんじゃあないのか?」

「そうかな? もう死んでたら予行練習する必要ないじゃん」

「……まぁいいさ。どちらにしてもそんな人間はいやしない」

 こうして一行がリラックスしているのにはわけがあった。

 ココトクリではそもそも追手に割り当てられるはずの寵愛騎士団を倒し、さらに司令塔たるシアン司教を再起不能としたため、実質追っ手はなかったのだ。調査と召集、派遣という手間を考えれば、無い話ではない。

 しかし、当然ながら行く先の方では待ち伏せが予想される。

 早馬が馬車より早いのはもちろん、何しろ街道以外を進むのは困難であるから、教会側からしてみれば街道を封鎖するだけでよいのだが――

「……おかしいな。検問の一つもあると思ってたんだけど……」

 馬を走らせながら、テトラが呟いた。

 馬車は橋に差し掛かっていた。この橋を越えれば、あとはササロウレまで一直線だった。

 この橋などは特に検問をしやすい場所と言える。

「最高戦力の寵愛騎士団が倒されたというのは、教会側からすれば大っぴらにしたくないことなんじゃあないか?」

「それにしたって……ん?」

 テトラが何かを見つけて馬を止めた。

「どうした?」

「いや、あれはもしかして……」

 御者台を降りたテトラは、橋の入口脇にしゃがみこんだ。その辺りは茂みになっているのだが、雪で真っ白になっていた。

 その純白の幕の上にあったのは……

「血だ」

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