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狩人を狩る狩人4

 そんな事とはつゆ知らないクロガネは、くだんの真っ白いドレスを着て、しかしその状態で武器屋に居た。

 店主も眉をひそめてその姿を見ているのだが、気にした様子もない。

「これとこれをくれ」

 クロガネは片手剣を二本カウンターに載せた。

「そうですねえ……これなら二〇ナナリーになりますねえ」

「そうか。じゃあ五ナナリーにまけろ」

「へ?」

 店主の眼が丸くなる。

 当然だろう。四分の一にしろと言っているのだ。

 店主は顔を引きつらせて、

「お客さん。そりゃいくらなんでもそりゃ無理ってもんですよ。素人にはわからないかもしれませんがね、この剣はウチにある剣の中でもかなり上等な代物なんですよ」

 店主は、その上等な代物を見分けた眼については気付いていないらしい。

「そうか。実はなご主人。私の連れがここで大金を支払ったんだが、なまくらを掴まされてな」

 クロガネはドレスのスカートをはらりと翻すと、その脚に括りつけていた数本の剣を取り出した。

 それをカウンターの上に並べる。

 店主は泡食ったような顔になったが、相手が女だという事もあるのか、

「お、お客さん、バカ言っちゃいけない。素人にはわからないかもしれませんがね。こりゃいい代物なんですよ」

「何度も何度も素人と……」

 クロガネは右手で拳を作った。

「え? ひっ!」

 店主は自分が殴られるのかと思い、身をすくめたが――

 響いたのは金属音だった。

 おそるおそる目を開けた店主が見た物は、素手でへし折られた剣だった。

「ひ、ひいいっ!?」

「ほらな、なまくらだ。簡単に折れてしまうじゃあないか」

 にっこり笑い言うクロガネに、店主は顔を真っ青にして頷くしかなかった。


「ねえ、クロガネ、よかったの? あの店長怯えて一番いい剣までただでくれたけど……」

 姿を消したままシイタケが言う。

「構わんさ。女や素人だと人をなめているような奴にはいい薬だろう。なあにテトラが代金に渡した宝石ならこれでもまだまだお釣りがくるくらいだ。得してよかったじゃないかあの店主も」

 言って、クロガネは笑った。

 やっぱり目は笑っていなかったが。

「しっかし、人間ってさあ何で女だとなめるの?」

「何でってそりゃあ……」

 答えようとし、

「何でだろうな」

「おっかしなの」

「お前は時々賢くなるな」

「いつも賢いよ」

「それはない」

 二人は宿に向かった。

 本来は襲撃を避けて宿には泊まりたくなかったのだが、それでもこの極寒の地で野宿はなるべくしない方が賢明だった。

 特にドジそうなテトラに見張りや火の番などさせていたら命がいくつあっても足りないだろうし、シイタケは論外だ、というのがクロガネの考えである。

テトラは「バカにしないでよ。子どもじゃないんだ。そのぐらい出来るさ」などと言っていたが、却下した。

 そんなテトラが待つ部屋に戻ると、ドアが開いていた。

「……!」

 クロガネの表情が強張る。

「どしたの? 早く入ろうよ」

「静かにしろ」

 ドアの隙間から、中を覗きこむ。

「……」

 床に視線を向ける。

 そこには、散らばった本と、乱れたシーツ。

 ごくり、唾を飲む込むクロガネ。

 そのまま視線を上げると、ベッドの上に着の身着のまま倒れこんでいる男の姿があった。

「テトラ!」

 一気にドアを開け、クロガネは踏み込んだ。

 その余波で、散らばった本のページが一気にめくれていく。

「無事か!」

 慌ててその体を抱き起こす。

 外傷はないようだ。

 脈を測ろうと、その首筋に手を近付けると……

「……ん~? なんだい? キスするつもりならマスク外してからにしてくれないかな」

「うわっ!?」

「へ……ひゃあ!」

 驚いた拍子に、テトラをそのまま突き飛ばすクロガネ。

「な、なんだい。どうしたんだい?」

「それはこっちのセリフだ! 無事だったのか?」

「無事? 何が?」

 きょろきょろと辺りを見渡して呟くテトラ。

「部屋のカギはかかっていないし、ものは散らばり……襲われたんじゃ、ないのか?」

 言いながら、その語尾は弱弱しくなる。

 なんとなく、察しはついていた。

「あー、ごめんごめん。研究に夢中で気づかなかったな。そのまま寝ちゃったみたい」

 ぶちっ

 何かが切れる音が、はっきり響く。

 しょっちゅうその音を聞いている、というよりそれを鳴らせている張本人のシイタケは、こそっとクロガネのフードから抜け出す。

 その直後、

「このド阿呆がーーーーっ!」

 クロガネの怒りが、炸裂した。

 ボディ、ボディ、顔。

 ボディ、ボディ、顔。

 素晴らしくキレのあるパンチが、的確にテトラに突き刺さる。

「あーあ……御愁傷さま」

 手を合わせるシイタケ。

「子どもじゃないと言ったのは誰かな~?」

 クロガネは手を止め、既にボコボコのテトラに向かって声をかける。

「あ、その……僕、ですよね?」

「正解♪」

 明るい声と裏腹に、その目は笑っていない。

「え、これ、まだ……続くんですか?」

 ばきばきっ、クロガネの拳が小気味良い音を鳴らす。

「正解♪」

「ごめんなさあああああああああああああああい……!」

 テトラの声だけが、むなしく響き渡るのだった。

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