魔女ドロシーの手記。あるいは、手紙
この記録は、私の愛弟子、ディアナに敵意を持っていない、純粋な人間が、この書庫に訪れた時にだけ現れるように魔法をかけてある。
これを手にした者に、私は世界とディアナを託す。
私は、魔女のあるべき姿を見誤っていた。
人間は、試練を乗り越えるたびに強くなる。
その試練が辛く厳しいものであればあるほど、大きく成長できる。
だからこそ、私は人間に恐れられる魔女であろう、恐ろしい試練そのものであろうとした。
だが、いつの間にか大切なことを忘れ、私は人間を痛めつけることにばかり夢中になってしまった。
その結果、世界は、絶望という病に侵されてしまった。
人々は試練を乗り越える気力を失い、すべてを手放し、世界は光を失ってしまった。
私は、すっかり人間に興味を失って、魔女の国へと帰った。
そしてそこで、ディアナに出会った。
あの子は優しく、聡明で、純粋だった。
あの子が私を敬愛してくれる、優しい言葉をかけてくれる。そうした日々を送っているうちに、私は、自分の過ちに気付いた。
人間は、弱いのだ。けれど、強くなれる。だが、いきなり大きく恐ろしい試練にさらされたら、立ち向かえるだけの準備ができていなかったら、勝てないこともあるのだ。
私は、それを理解していなかった。
私は、人間の世界に償わなくてはならない。
私は、かつて人間の国で暮らしていた森の小屋に戻り、世界に絶望に打ち勝つ力を与えようとした。
あらゆる手段、手法を調べ、実行しようとしたが、私の闇の力ではだめだった。
世界樹を育てることができれば、世界樹の力で絶望を薄めることができるかもしれない。そこに、同時に人々に希望を与えれば、きっと人々は絶望に打ち勝つことができる。
だが、世界樹の種が成長するのに必要とする、人々の幸福な感情を集めることができない。
人々は絶望に沈んでいるし、私が何かしようとしても、もはや恐れられ、敵視されるのみ。
だが、あの子、ディアナならば、世界を救えるかもしれない。
ディアナならば、きっと世界樹を成長させ、世界に希望を呼び戻すことができる。
あの子は希望の魔女なのだから。
あの子は、ディアナはきっと、私を追ってこの小屋に来るだろう。
この手紙を読むものよ。
どうか、ディアナの力になってやってほしい。
自分勝手な願いなのはわかっている。
できることならば、私があの子と共に成し遂げたい。
だが、私にはそれができない。
私は、私の命と引き換えに、世界樹の種を召喚する。
私の肉体と魂を依り代として、ここに世界樹の種を残す。
この種は、ディアナの手の中で目覚める。
目覚めた種を、ディアナと共に、私が書き残した希望のレシピを使って、育ててほしい。
ビンの中で双葉まで育ったら、もう一枚のメモに書いた方法で肥料を作り、この小屋の庭に植える。そうすれば、世界樹はこの地に根をはるだろう。
そして、この地でディアナと共に世界樹を護り、育て、世界中に希望を届けて、絶望を、打ち消してはくれないだろうか。
この手紙を読むものよ。
あなたが、世界を絶望から救いたいと、ほんの少しでも思うのならば、どうか、どうか力を貸してほしい。
私を恨むのならば、恨んでくれて構わない。
だが、ディアナは何も知らない。何もしていない。
ディアナこそが、世界の希望なのだ。
だからどうか、力を貸してほしい。
最後に、わがままついでにもう一つ。
これは、ただの独り言のような、祈りのようなものだと思ってくれて構わない。
魔女は、恋をして、真心の愛を受け取れば、魔女としての業から解き放たれ、人間になる。
もし、世界が希望を取り戻した時。
ディアナを愛してくれる者が現れ、ディアナが業から解放される時が来ることを、切に望む。
最後の最後まで読んでいただいて、本当にありがとうございました!