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開演
命が肉に芽生え、心が魂に宿るのだとしたら、朽ちた屍を纏う彼等には何が遺されているのだろう……。
20××年10月27日。
私はこの世に未練を残し街を徘徊する彼等の事を亡者と呼ぶ事にする。
高く聳え立つ鉄の壁が私達を威圧的に見下ろしている。サンクト・ペテルブルクはその日を境に世界から隔離されてしまった。雪空を低く飛ぶロシアの旧型爆撃機が今日も惰性的に街を焼き払う。
その橙色の業火と崩れた瓦礫の下敷きになって家族は死んでしまった。焼けゆく肉体を前に私はただ呆然と見つめる事しか出来なかった。その時からだろうか、私が目を閉じると広がる闇の中に瞼を通して届く青白い焔が視えるようになったのは。
見下ろした先、私の小さな心臓にも宿るそれは弱々しくも生きようと足掻く命の揺らめき、この身に宿る私の魂の輝きなのかも知れない。
火が燻るシュパリェールナヤ通りに出ると私はその場で膝を折り、スカートの裾の汚れに構うことなく目を瞑る。手を胸の前で組み、死んでいった者達と《《死に切れ無かった者達》》への祈りを捧げる為に。