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旧約UNIZOM  作者: 氷ロ雪
殺人鬼
13/24

年齢制限

 プイプイと豚の鳴く声が通路の方から聞こえてきて振り返る。そこに泥塗れの小さな子豚が私の足に鼻を擦り付け、再会を喜んでいる。ジョゼフの家に居たあの子豚ちゃんだ。

 「また会ったわねキミ。よくここが……」

 ふと人の気配がして顔を上げるとその子豚と同じぐらい泥だらけのゴリラがナイフを片手にこちらを警戒していた。

 「お久しぶりね、ジョーゼフ」

 「ジョゼフだ。殺されてないよな?」

 「えぇ。私は生きてるわ」

 「お前に抱きついてる奴は、ゾンビじゃねえよな?」

 「えぇ。ゾンビ女のポゥ=グィズィーよ」

 「噛みつかれてないよな?」

 「えぇ。抱きつかれてるの」

 「……どうしてそうなった?」

 「さぁ。どうしてかしらね?」

 ジョゼフがポゥに殺意が無いことを感じ取り、片側がギザギザになっているサバイバルナイフをホルダーに仕舞う。形状的に軍人が持っていそうね。

 「ジョゼフ、もしかして私を助けに来てくれたの?」

 ジョゼフが肩に付着している土埃を払いながら溜息をつく。

 「当たり前だ。家に招待して姿を消されちゃ、誰だって心配する。それに少女を誘拐する危険人物に心当たりがあったんでな」

 「……ありがとう。でも私だけで何とかなったわ」

 ジョゼフが戸惑いながらもその細い目を見開いて驚いている。

 「やけに素直だな」

 「私は元々素直な良い子よ」

 「そいつは人喰魔女って呼ばれてる殺人鬼だぞ?分かってるのか?お前は一歩間違えればこいつに……」

 「分かってるわ」

 私はそっと私の腕の中で身体を震わせている彼女の波打つ黒髪を撫でる。

 「だから戦ったのよ」

 ジョゼフが亡者達の切断された肢体があちらこちらに散らばっている事に気付く。ジョゼフの気配に気付いた私の護衛を務める凶器さん達が私を守る様に私とジョゼフの間に立つ。

 「こいつら……。そこで殺されてる20体以上のゾンビはまさかお前の為に殺人女と戦ったのか?」

 どう説明したものかと私は頭を掻く。私の為に亡者達が助けてくれたと説明したところで信じて貰える訳も無い。ゴリラにバカにされるのは尺だし。

 「そうね。戦わせたのは私だけど、助けてくれた事に違いないわね。信じてくれなくてもいいわ。恐らくゴリラには理解出来ないでしょうし」

 「信じるよ。死霊遣いのお嬢さん」

 今度は私の驚く番だった。出会ったばかりのこんなオカルト系不思議ちゃんの話を鵜呑みにしてくれるなんて。

 「悪いとは思ったけど、これを見させて貰った」

 彼の腰の鞄から見慣れたメモ帳が姿を現す。その表紙は「マーシャとくま」のキャラクターが描かれている。

 「日記帳は?」

 「大丈夫だ。見てない」

 「良かったわ。もし、見ていたら市内全てのゾンビに貴方だけを一斉に襲わせるつもりだったわ」

 ジョゼフが呆れながらこちらにメモを返してくれる。私の中で「ユニメモ」って呼んでる。もう一つの日記の方は「ユニ日記」って呼んでる。

 「そのメモによるとお前の言うことを聞いてくれる奴は亡者No,06ロリコン戦士だけだろ?あと俺に襲いかかろうとしたこの3匹はNo,02凶器さんで、お前が手名付けた奴らだろ?」

 ジョゼフに殴りかかろうとする凶器さん達を心で宥めながら、メモ帳をサラファンのポケットに仕舞う。

 「あら、ゴリラの癖に暗記力はあるのね」

 「人間だからな」

 「すごいわ。誰彼構わず亡者達を解体していた貴方にしたらすごい進歩ね。いや、進化かしら」

「すごいのはお前だよ。亡者の居場所を正確に言い当てるし、そのメモに書かれている情報は恐らく間違ってはいないと俺は考えている。よく調べたな。俺に魂は見えないが行動パターンさえ観察すれば何とか俺でも見分けられた。これで壁に向かうまでの消耗をいくらか抑える事が出来る。用がないならいくぞ?ユニ」

 私の小さな胸で泣いていたポゥが顔をあげてこちらを覗く。私はその真っ黒な顔に驚いて尻餅を付いてしまう。

 「か、顔が!溶けてる!」

 私の言葉に小首を傾げるゾンビ女慌てて凶器さん達が得物を構えてそれを振り下ろそうとしてしまうのだけど、それを難なく回避して地面に引き倒される凶器さん達。いつの間にかバットとゴルフクラブと鉄パイプがポゥの手の中にあって驚いてしまう。得物を奪われた凶器さん達が膝を抱えて小さくまるまってしょんぼりとなってしまう。ポゥが手にした得物を食堂の机の上に並べると、テーブルクロスに水を染み込ませて自分の顔を拭き始める。布越しにポゥのくぐもった声が聞こえてくる。

 「あぁ、これ、化粧メイクよ」

 さっぱりとした表情で顔を上げたポゥの顔は別の誰かさんだった。黄色人種特有の健康的な肌がその皮膚下から現れ、桃色の唇は少女の様に潤いを湛えて輝きを帯びている。泣きはらした目元は真っ赤だったけど、しばらくすればそれも綺麗に元に戻るだろう。

 「嘘だろ……お前、本当に人喰魔女のポゥか?」

 ボゥが長く伸ばし放題の黒髪を鞘の提紐を使って器用にサイドテールの形にする。彼女の持つ幼い顔立ちが強調され、20代前半にしか見えなくなってしまった。目元も私と比べて睫の量も少ない日本人のそれだ。メイク時は黒い目元が邪魔して素顔が分からなかったけど、可愛い系。胸も大きく、その小さな体躯に圧縮されたようなその形も嫉妬するぐらい魅力的。

 「失礼ね、肉屋のジョゼフ。ゾンビに変装してゾンビ地帯に潜入するのは基本中の基本でしょ?昔見た映画にそういう場面があったわよ?」

 ジョゼフが呆れた様に「バカだ」と呟いた。尻餅をついている私の元にノソノソと子豚が近づいてくる。その体を抱き抱えて立ち上がる。

 「ジョゼフ、この子の名前は?」

 「ん?ベーブだよ」

 「そう……ベィブ君は暖かくて可愛いね」

 「牧羊豚の方じゃないぞ?」

 ポゥが解体された亡者達の中から腰に差していた短刀を回収する。その後、机の上に置かれていた得物を其々の凶器さん達に返すと、彼等は嬉々として踊り出してしまう。

 「あら?喜んでるのかしら?」

 私の代わりにジョゼフが説明する。

 「そいつら、その状態で物を渡したら恩義を感じて守ってくれるらしいんだよ」

 「奪ったの私なのに?」

 「そうだ」

 「バカなの?」

 「脳、腐ってるからな」

 「……チョロいわね」

 人喰魔女の彼女とはなかなか気が合いそうね。私は眼を瞑ると魂の在処が分かった。それなら眼を開けている状態で見えるポゥの「紅蓮の魂」は一体どんな意味を持つのだろう。私が彼女と対峙し、極限状態で発現した新しい力なのだろうか。相変わらず私は視る事しか出来ない訳だけど。身なりを整えたポゥが改めて私の横にやってくる。

 「お嬢ちゃんの名前、聞いてなかったわ」

 私は微笑みながらそれに答える。

 「毒舌人形のユニよ、人喰魔女のポゥさん」

 彼女が私の体を見下ろして舌なめずりをする。

 「ユニちゃん、本当に美味しそう。ねぇ、何歳?」

 私は12歳と答えようとすると、横からジョゼフが口を挟む。

 「その子は、14歳だよ」

 ポゥがその言葉を聞いて残念そうに舌を引っ込める。

 「おかしいなぁ。私の幼女センサーは12歳と5ヶ月を指していたのに。……幼く見えるのに食べ頃を過ぎちゃったみたいね。まぁいいわ。貴女の事は気に入ってるの。宜しく、ユニちゃん」

 首を傾げる私にジョゼフが補足してくれる。

 「その殺人鬼は13歳以下の子供に全く興味を示さない変わり者だ。14歳で良かった、な?」

 「……そうね。先に年齢を言っておけば襲われずに済んだのかもね」

 言ったら殺されてた。

 「とりあえず、俺の家に一旦戻って装備を整えるぞ?鉄の壁攻略ルートも地図で確認しておきたいしな」

 「あら、外に出るつもりなのね。それなら私もご一緒させて?きっと役立つはずよ?」

 今度は殺人鬼が仲間になりました。

ここから折り返し地点です。

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