第22話 月夜
夜の見張りは『蒼の大剣』、『純白の光鳥』、俺たちの順番に決まった。
ナールさんは見張りには参加させず眠ってもらっている。
なぜか俺たちの見張りに参加したがったのだが・・・
人数が俺たちが一番少ないからか?
気づかいはありがたいが、一般人だ。
しかも今回の件で疲れもあるだろう、と言って断った。
渋々といった感じで寝に行ったのだが、やはり疲れていたのだろう。
すぐに眠りについたようだった
そして俺たちの見張りの順番がやってきた。
俺たちの前に見張りをしていたマリーがすれ違いざまにユーカに何事かを伝えていた。
そして去り際に
「いざとなったらあれを使うのよ!がんばってね」
と言い、自分たちの寝床へ戻って行った。
あれ、とは魔物避けか何かを渡していたのだろうか?
俺がいるから何があっても絶対に優花にはケガをさせないつもりだが、万が一ってこともある。
役に立つものは使わなきゃ損だろう。
後でお礼、言っておかなきゃな。
しかし優花の顔が赤い気がするのはなぜだろう?
たき火のせいか?
そうして夜の見張りが始まった。
「優花、疲れてないか?」
「私は大丈夫。それより龍也は大丈夫なの?」
「俺は大丈夫だ。心配してくれてありがとうな」
こちらに来てから初めての依頼だったが上手くいってよかった。
「迷宮か、どんなところなんだろうな」
「危なくないところだといいけどね、それは無理かな?」
「普通に魔物が出てくるしな」
魔物は大抵俺一人でどうにかなるだろうけど、全部俺が倒していたら優花が経験を積むことができないしな。
俺と何らかの事情で別行動している時に戦闘が起きる、なんてことも十分にあり得る事態だ。
優花を危ない目に合わせたくはないが、鍛えておくことは重要だろう。
「迷宮では優花に戦闘をまかせていいか?」
「いいけど、どうして?」
「優花が直接戦闘したことってまだなかったろ?」
「そうだね。岩を作ったくらいしかしてないね・・・」
「俺と別行動するなんてこともあるかもしれないから、一人で戦える力はある程度つけておいた方がいいだろ?」
「迷宮で私が主に戦うのは異論はないんだけど、普段から私も戦いに参加してもいい?」
「うん?構わないけどなんでだ?」
「全部龍也に任せるって言うのも気が引けるし、普段から慣らしておいた方が連携っていうのかな?2人で戦うことも上手くなるでしょ?まあ今回はマリーとかラグネスさんたちがいるからあんまり私の出番はないかもしれないけれど」
「確かに言われてみればそうだな。俺が基本的にベルムさんのとこで買った剣と素手だから近接戦特化だからな・・・」
「私は龍也に当てないように後ろから魔術撃つ練習をする感じかな?」
「まあ俺に当たってもケガとかはしないだろうけどな」
「・・・私、龍也に攻撃を当てたくはないよ」
「分かってるって。でも魔術だけって言うのもな・・・」
「何か問題がある?」
「いやな?優花のスキルの剣術を使う機会が無くなるなと思ったんだ」
「あーー。私も言われて思い出したよ。地球で木刀すら触ったことも無いのに何故か持っていたんだよね」
「勇者補正みたいなものじゃないか?折角優花も専用の剣を買ったんだし使う機会が無いのも勿体ないなって思ってさ」
「スキルのところで一国の騎士団長レベルって説明があったよね・・・」
「素人目にはまず確認できないんだったか?強力なことには変わり無いだろうしそっちの練習もしていくか」
「ありがとう、頑張るよ。でもそうすると近接戦闘が2人になっちゃうのか」
「その時は俺が後ろで見ながら危なそうなところで割り込むか、小石でも用意しておいて後ろから投げるかだな」
コントロール自体は得意なんだが、あんまり威力が出ないようにしないとな。
飛び散る、なんてことになったら優花に返り血とか色々なものがかかってしまう。
急所を的確に打ち抜く感じで投げよう。
「石はあんまり強く投げないでね?」
「分かってるさ、銃弾ぐらいに抑える」
「それはそれで怖いかも・・・」
折角手加減のスキルもあるのだし、気絶させるくらいの勢いの方がいいかもしれない。
「じゃあ倒すギリギリくらいの勢いで投げるか」
「それなら安心・・・なの、かな?」
そうして今後の方針をある程度立て終え、雑談をしていると優花が突然俺の方に近寄ってきた。
「どうしたんだ?」
「えっとね、突然なんだけどさ。ナールさんの事どう思う?」
「・・・?本当に突然だな。今回の件でナールさんだけでも助け出せたのは良かったと思ってるぞ?」
「そうじゃなくて、いや確かにそれは私も良かったと思ってるけど・・・」
「けど?」
「ちょっと待って整理してくるから」
そう言って立ち上がり優花は俺から少し離れたところで、いろいろ考えているような素振りを見せた後、数回深呼吸をして戻ってきた。
「おかえり、考えは纏まったか?」
「えっとね、最初は色々シミュレーションして雰囲気とか、気にしてたんだけどね」
待ってくれ、話の流れが読めない。
「小学校の時、私が男の子たちにからかわれてて、龍也が助けてくれたでしょ?」
「凄い唐突だな?まあそんなこともあったな」
「その時ね、一瞬だけ私、龍也の力が怖いって思っちゃたんだ」
「それはあんなの見たら誰だってそう思うだろ」
「でもね?龍也が優しいって事が分かる切っ掛けでもあったんだよ」
優しい、か・・・
「それから一緒にいるようになって、私が困っている時、危ない時はいつも助けてくれたよね?」
「それはまあ当たり前のことだろ」
優花とその家族のおかげで、曲がりなりにも俺という異端が社会でなんとか暮らせていたと思っている。
理由はそれだけではないが、そんな恩人の力になりたい、助けたいって思うのは当たり前の事だろう。
「そうしてずっと一緒に過ごして、これからもこんな関係が続けばいいなって子供の頃は思ってた」
「でもそれじゃ嫌だって思うようになってきたんだ」
「このままずっと幼馴染って関係じゃ、満足できない」
そこで優花はもう一度深呼吸をし、俺の顔をまっすぐ見据えた。
「私と付き合ってください」
優花からの告白。
とても嬉しいのが・・・
地球に帰る目途がとかなんとか言って自分に言い訳をしている内に、優花から言わせてしまった。
男として凄い問題がある気がする。
・・・ここは誠意を見せるしかない!
そこで俺は優花を抱きしめ、こう言った。
「こんな女の子の方から告白させるようなダメな男でいいなら喜んで」
「龍也じゃなきゃ、私駄目だよ」
そうして優花も俺を抱きしめてきた。
好きな女の子と気持ちが通じ合い、抱きしめあう。
とても幸せな気分だ。
これだけで今までの人生が報われた様な気さえしてしまう。
そうして改めて二人で座りなおす。
俺の肩に優花が頭を載せるように座る。
そうして穏やかな時が流れる。
30分ほど経った時、優花に向かって話しかけた。
「それで優花、俺からも話があるんだ」
「なに?」
ここで俺も覚悟を決めた。
「本当は地球に帰った後か、少なくとも帰る手段の目途がつくまで言うつもりは無かったんだけどな」
話の流れが掴めないのか小首をかしげている。
「ここじゃ色々と用意も出来なかったし、結局優花から言わせてしまった上に、付き合うことが決まってから1日どころか1時間も経ってないけどさ」
「うん」
先ほどの優花のように俺も深呼吸をした。
そしてこれも同じように優花を正面に見据え、切り出した。
「俺と・・・俺と結婚してください、優花さん」
そして優花の顔が驚きに染まり、次第に涙があふれ、そして今までに見たことの無いような最高の笑顔で答えてくれた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。龍也さん」
そこで優花にキスをしようとしたところであることに気が付く。
なぜ今まで気づかなかったんだ・・・
「優花、ちょっと飛ぶからちゃんと掴まってろよ」
「え?え?どういうこと?」
そう驚きつつちゃんと俺の首にてを回した。
所謂お姫様抱っこ状態だ。
「よし行くぞ!」
「キャッ!!」
そうして俺は近くの一番高い木の頂上に飛んだ。
「ここなら大丈夫だろ」
「どうしたの急に?」
「まあ気にするな。雰囲気とかいろいろぶち壊しだったけど、これからよろしく」
「?何でもないならいいけど。凄いビックリしたよ」
それはそうだろう。
理解が追い付かないのも無理はない。
下の方で7人ばかり俺たちの姿を見失って探しているが気にしない。
野次馬に見せるのは癪だからな。
「地球に帰ったらおじさんとおばさんのとこにも挨拶に行かないとな」
こっちで買ってもいいが、地球で指輪もちゃんとしたものを後で買わないといけない。
地球では一介の高校生である俺には収入が無い。
こちらではお金はあるが、ちゃんとした指輪があるか分からない。
迷うところではある。
「お父さんもお母さんも龍也のこと気に入ってるから大丈夫だよ」
「そうかな?まあなんにせよ、地球に帰らないとな」
「そうだね、帰るときは絶対一緒だよ?」
「ああ、俺も世界を超えた遠距離恋愛なんて御免だ」
「そういう言い方すると凄いロマンチックに聞こえるよね」
そう言って二人で笑う。
「雰囲気とかないけど、改めてよろしくな、優花」
「こちらこそよろしくね、龍也」
どちらからともなく顔が近づき・・・
俺たちの影が月夜の元で1つになった。
作者の書き方が未熟なため後で編集しなおすかもしれませんがいかがでしたでしょうか?
楽しんでいただければ幸いです。
学校、教習所、バイト・・・
予定がてんこ盛りでなかなか作者のリアルが忙しいです・・・




