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Liceale Reminiscenza  作者: ダンタリオン
1/1

始まりと出合い


三千年前・・・・・・・・・・・



人類の暮らす土地『ガンナ』が誰も足を踏み入れてはならないと云われてきた『暗黒大陸ナール』からやって来た『異形の者達』に脅かされていた時、突如として四人の『神の代行』の王と名乗る者達と共にその眷属である『代行の使い』が現れた。


『神の代行』の王達とその眷属は我ら人類の味方をするわけでもなく、気に留めることもせずに『異形の者』と『神の代行』同士で戦いを繰り広げ、人類も必死で『異形の者』と『神の代行』達の戦いに介入したが、人類が『神業』を使えるものに勝てるわけもなく人類の叡智の結晶とも言える科学は跡形も無く消え去ってしまった。


『異形の者』と『神の代行』と『代行の使い』達の『神業』の余波が全世界を席巻し、人類の滅亡も長くはないと誰もが諦めかけていたその時、1人の目許に布を巻いた老人が人類の行く末を憂えて、指し示したのである。


「人類が『異形の者』『神の代行』『代行の使い』達と戦う術をこの『神書記伝(サクラーレリブロ)』に書き記した。我に続く者達よ、この『神書記伝』を手にし、人の世を取り戻すのだ」


突如として、現れた老人から授かった書物は人類にとってそれはとても大きな『転機』となった。


書物に書き記されていたのは『神の代行』達が使う『神業』の使用方が記されていたのだ。


『科学』を失った人類にとっては唯一の『神の代行』達に対抗し得るだろう『神業』はとても魅力的に映った。


その一人の老人が書き記した書物により、人類が『神業』を使い始め『神の代行』達は人類の圧倒的ともいえる『人類の数』の前に敗北を喫し、人類は不可能と思われた『勝利』をその手に掴み、我々人類の生存をかけた長い戦いに終止符が打たれた・・・・・・・・・


『神の代行』『代行の使い』『異形の者』『神業』は『天人』『魔人』『獣人』『魔法』とそれぞれが後に名称を変え、四つ巴の戦争も後に『終末の戦い(ニハーヤ)』と呼ばれるようになった。


『終末の戦い』に敗れた『神の代行』達の生き残り達は故郷に帰る者と事情があり『ガンナ』に残る者とに別れた。『ガンナ』に残ったものは例外無く冷遇されたのだった。









△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△












 『終末の戦い(ニハーヤ)』の終結から三千年後、とある塔の上にて、少年二人が綺麗な満月をバックに立っていた。片方は上下灰色のスーツを着た、そこそこの容姿に長い金髪を乱雑に切ったかのような髪型に長身の少年で、もう片方は全身白ずくめのスーツを着た、約175㎝の身長に程好く鍛えられた体格。肩にかかる程度の長さの銀色の髪をもつ、白皙(はくせき)の中性的な容姿に、目の色が血よりも赤い紅色で、冷酷そうな目つきの少年の二人はそんな満月を見つめていた。すると、二人のうちの金髪の少年が(おもむろ)に隣の銀髪の少年に声を発した。


金髪の少年「・・・なあ、“暗殺貴(イレーズ)”。これからどうするよ?」


 金髪の少年の問いかけに、イレーズと呼ばれた銀髪の少年は坦坦(たんたん)とした口調で、自らが今後の予定を確認するように言う。


暗殺貴「そうだな・・・・。先ずは、目標(ターゲット)を始末しにいく。そのあとの事は始末してから考える」


 と、銀髪の少年が言いながら金髪の少年のほうへ視線を向けるが金髪の少年は月から塔の下に視線を移していた。

 金髪の少年が見つめる塔の下からは複数人の男性と思われる声で「奴等、何処行った!?」や「まだ、見つかんねえのか!?」と言い合っている声が百mはありそうな塔の上にいる二人の少年にもハッキリと聞き取れるぐらいに大きなボリュームだった。

 金髪の少年はそんな、塔の下で大声で言い合っている男達を見ながら言葉を返す。


金髪の少年「なら、さっそくあの野郎を殺しに行くか。下も騒がしくなってきたしな・・・・」


暗殺貴「ククク。そうだな。バレても問題ないが・・・・バレたらバレたで面倒だからな。では、いくぞ」


 イレーズも塔の下を見つめて、不敵に笑いながら答えると、金髪の少年も不敵に笑うイレーズにつられて軽薄な笑みを浮かべながら答えた。


金髪の少年「ああ」


 金髪の少年と銀髪の少年はそれぞれ手に持っていた阿亀(おかめ)の仮面と狐の仮面をつけた。すると、仮面をつけた瞬間に、塔の上にいた少年二人が、突然消えた。まるで、最初からその場に居なかったかのように・・・・。




△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△




―――とある豪邸の一室―――



???「まだ、見つからんのか!?この無能共が!?」


 頭の頂点が更地になってしまっている三十代後半ぐらいの男性が高級そうな椅子から立ち上がり、こちらも高級そうな執務机を挟んで対面にいる、薄い青色のスーツを着た男性に執務机から乗り出そうな勢いで怒鳴りつけていた。

 怒鳴られているスーツの男性は怒鳴っている、三十代ぐらいの男性に申し訳なさそうに、だが、当然だとでも言うように答える。


スーツの男性「ジグ様。相手はあの“暗殺貴(イレーズ)”です。むしろ、ジグ様が殺られる前に見つけられてよかったと思います」


ジグ「ふざけるな!見つけられても、逃げられてしまっては同じことだろう!?それに!貴様には分からんだろうな!今の私の心境が!」


スーツの男性「落ち着いてください、ジグ様。ここは安全です。部屋の外にも数人の見張りがいます。それに、部下が“暗殺貴”の捜索を行っていますし、この部屋の周りには結界も張りました。いくら、かの有名な“暗殺貴”とて、侵入は容易ではないでしょう」


 ジグと呼ばれた男は自分の命が危ないと感じているせいか、相当な量の汗を掻き、服装も髪も乱れ、目には恐怖の感情しか映っていなかったが、スーツの男性の言葉に少し恐怖が和らいだのか、爪を噛むのを止め、視線を床からスーツの男性に向けた。


 スーツ姿の男はさらにジグを安心させるように言葉を紡いだ。


スーツの男性「じきに“暗殺貴”は捕まりますよ。貴方はここで何も心配せずにコーヒーでも飲んで待っていてください」


ジグ「そう簡単に“暗殺貴”が捕まるわけがないだろう!あれは『狙った獲物は確実に殺す』を謳い文句に裏の世界に太く固い根を下ろしている『X級』の犯罪者だぞ!?バンホ、貴様は『X級』の恐ろしさを知らんのだ!」


 『階級』とは、裏の世界、表の世界共通の『魔力の高さ』『魔導士と実力』『世界への影響力』の三点で決まる位の事。階級は上から順に

「Z級」「X級」「S級」「A級」「B級」「C級」「D級」「E級」

 と全部で八段階に別けられる。

 それ程に「B級」から上は「C級」から下に比べると、力の差は歴然。つまり、「B級」からエリートと言うことだ。

 そんな化け物染みた『X級』の魔導士に狙われれば、たかが『B級』程度のジグが恐慌しているのも当然と言えるだろう。


バンホ「お言葉ですが、社長。私も『X級』の『魔導士』の恐ろしさは知っています」


ジグ「なら、分かる筈だ!『X級』の『魔導士』に狙われたら終わりだと!」


 バンホは怒鳴り散らしている社長を静かに見ていた。


バンホ「はい。確かに分かります。ですが、こちらも『B級』が二人いますし『A級』も一人います。ですから、社長は安心してコーヒーでも飲んでてください」


 バンホはそう言うと執務机とは違う高級そうな机の上にあるポットからカップにコーヒーと精神安定剤(・・・・・)をいれ、ジグのもとへ持っていく。

 ジグは執務机の上に置かれたカップを暫く見つめていたが、薬品が入ってるとも知らずに、徐に口に含んだ。

 ジグは相当な汗を掻いた為に喉が乾ききっていて、コーヒー(すいぶん)を口に含むとジグは大分落ち着いたのか、今まで立っていたが無意識のうちに椅子に座って、コーヒーを飲んでいた。そんな、様子を見てバンホは一息つくと、「私は、失礼します」っと言い、部屋から出ていったが、ジグはバンホの声など耳に届いていなかった。

 それは、ジグの聴力があまりよくない、とか、あまりにもコーヒーで安心しきってバンホの声が聞こえなかった、とかではなく、バンホが精神安定剤と一緒に入れた睡眠薬(・・・)が効き始めて、意識が薄れていたからだ。

 ジグはバンホが部屋を出てから少し経った頃、執務机に突っ伏すように寝てしまった。

 バンホは部屋を後にし、今だに“暗殺貴”とその相棒を捜している部下のもとへ向かい一人の男性に話しかけると、男性は驚いたように慌てて振り返った。


バンホ「奴らは見つかったか?」


部下「い、いえ。まだ、見つかりません。この屋敷内にいるのは“探知系”の魔導士の御蔭(おかげ)で分かっているんですが、敵の妨害のせいか上手く把握が出来ない状況です・・・・・」


 確かに“探知魔法”は、術者の魔導士としての実力にもよって範囲が決まるが、人の位置を特定出来ると言うGPS(科学)がないこの世界にとってはとても便利な魔法(代物)だが“探知魔法”は実力が違いすぎる場合や、“探知魔法”を妨害する魔法も同時に存在する為にあまり使うものは少ないと言う便利な反面でそう言った一面を持った魔法でもある。


 バンホは部下の男から状況を聞くと、“探知魔法”の欠点を考慮して少し、考える仕草をしてから部下の男性へ指示を出そうと、肺から食道を通り口内に空気が伝い、今まさに声を発しようとしたときだった。


ドゥオォォンッ!?


 お腹の底に直接響くような、何かを物凄い衝撃で叩きつけたような、そんな音が、バンホが今さっき出てきた部屋の方から聞こえた。


 バンホと周りにいた部下達は頭の処理が追いついていないのか、呆然と物音がした方―――恐らく音の発信源であろうジグが寝ている部屋の方を見つめていた。

 意外にも一番早くに言葉を発してのはバンホと話していた部下の男だった。


部下「ジ、ジグ様・・・?ジグ様ァァァッ!?」


 部下の男は叫びながら物音がしたジグのいる部屋まで駆け出していくと、バンホと他の部下は、バンホと話していた部下が大声で叫んだ事によりハッ!となり、走って行った部下の後を慌てて追う。


 一番最初に走って行った部下の男は部屋の前につくと、中の住人に挨拶も許可の有無も問わずに、緊急事態だ。と心の中で思い、勢いよく叫びながら何故か、ドアを蹴破って中へ入る。


部下の男性「大丈夫ですか!?ジグ様!?・・・・・っ!?・・・これは一体どう言う事だ・・・?」


 部下の男は部屋に入ると、ジグが執務机を突き抜けて、地面にキスしている格好で動かなくなっている事と、ジグが叩きつけられた時の衝撃で砕け散った、執務机の残骸しか視界に映らず、この状況を作り出した張本人がどこにも見あたらなかった。そんな目の前の光景を見て、またしても呆然としてバンホの他の部下が来るのを待つことになってしまった。




△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△




 バンホがジグの部屋を出て行ってから少し経った時まで時間は遡る。



 バンホが部屋から出て行って瞬間に天井から、金髪と銀髪の少年が音もなく下りて来た。

 二人の少年はゆっくりと執務机に突っ伏すように寝てしまっている、ジグに近づいていき、冷たく見下ろし、金髪の少年は舌打ちをした。


金髪の少年「なあ暗殺貴(イレーズ)。こいつが依頼対象だよな?」


暗殺貴「ああ。記憶が正しければ、その筈だ」


金髪の少年「いくら恐慌してたとは言え、裏の世界で結構名の売れた『闇の仲介人(ブローカー)』が部下に睡眠薬を盛られるか・・・普通・・・?」


暗殺貴「それは、一理あるな。今はこの程度で『B級』になれるのだから“評議会”は随分と甘くなったものだ」


金髪の少年「確かにな。確か、暗殺貴が『X級』の“証明書(ライセンス)”を貰ったときはもっと厳しかったんだよな?」


暗殺貴「嗚呼、そうだ。・・・取り合えず此奴(こいつ)を消すか」


 銀髪の少年―――イレーズはそう言うと、眠っているジグに向けて手を伸ばした瞬間―――金髪の少年がその手を掴み、言った。


 これは余談だが、“評議会”とは、ギルドに所属している者達全ての『階級』を定めるために組織された組織の事だ。


金髪の少年「ちょっと、待てよ。こいつは俺が殺る」


暗殺貴「駄目だ。お前が殺ると音がする。ここは俺に任せておけ」


金髪の少年「・・・止めんなよ、イレーズ・・・」


暗殺貴「・・・おい、ザック。そのお前の殺人衝動はお前の悪い癖だ。早めに直せ」


 イレーズは少し語気を強めて警告するが、金髪の少年―――改め、ザックは反論するように言い返す。


金髪の少年「俺は殺人衝動なんかに駆られてねえ。俺はただ相手が『B級』のくせにあまりにも歯応えがなかったから言ったんだよ」


 イレーズは「お前は『C級』だろ」と思ったが、ほんの少しの良心がその思いを口に出させずに飲み込ませられた。

 思いを飲み込ませられたイレーズはザックの言葉に当然だ。とでも言うように言う。


暗殺貴「それは、当たり前だろ。そいつは『世界への影響力』と『魔力の高さ』で『B級』になったんだからな。・・・・・今はそんなことはどうでもいい。いいから、そこを退け。そいつは俺が殺る。俺は眠いんだ。さっさと終わらせて寝たいんだよ」


ザック「・・・そうかよ。なら、早く終わらせようぜ」


 ザックはそう言うと、イレーズの命令とも取れる言い方をした言葉を無視して、眠っているジグの頭を右手で掴み持ち上げてから、一気に勢いをつけて高級そうな執務机に叩きつけた。


ドゥオォォンッ!?


 執務机に勢いよく叩きつけたせいでジグの前にある高級そうな執務机は真ん中辺りから砕け散り、原型はかろうじて残っている破片は辺りに散っていった、と言う有り様になってしまった。

 ジグの顔も執務机同様に、顔は金髪の少年の腕(うえからのちから)分厚い執務机の堅さ(したからのちから)のせいで誰かを識別出来ないくらいにグチャグチャになっていたが、ザックは叩きつけた姿勢のまま、ジグが座っていた所の後方の壁を見つめていた。――――いや、壁と言うよりはドアのように開いた壁を見つめていた。と言った方が適当かもしれない。


 金髪の少年から少し離れて立っていた、イレーズもザックが叩きつけたせいでかなり大きな音がしたことを咎めるどころか、気にもかけた様子も見せずに、ザックが見ている隠し扉の方を時が止まったかのように固まって見つめていた。

 イレーズとザックの二人は隠し扉――――と言うより、隠し扉から出てきた一人の、黒を基調としたゴシックロリータ調の服を着た、身長は目測で約140の透き通るような金髪を床につく程に伸ばした見た目12歳ぐらいのアメジスト色の目の少女にピントを合わせていた。


暗殺貴(・・・まさか、オレ達に気配を覚らせずに接近するとはな・・・いや、今はそんな事どうでもいいな。今、大事なのは―――)


ザック(・・・何者だ?・・・今はそんな事どうでもいいか。今、大切なのは―――)


暗殺貴・ザック〔―――此奴が危険かどうかと、敵かどうかと言うことだけ(か)(だな)〕


 イレーズとザックが同じ事を考えていると、隠し扉の所にいた透き通るような金髪の少女はずっと見ていたにも関わらず、いつの間にか目の前まで迫っていた。と言うより、少女がイレーズ達に迫って行ったわけではなく、イレーズ達が何かしらの引力か何かで少女のもとに引き寄せられていたのだ。


暗殺貴・ザック〔なんだ!?この魔法は!?抗えないだと!?〕


 イレーズとザックは抵抗も出来ずに呆気なく隠し扉の中へと文字通りに引きずり込まれた。

 隠し扉はイレーズ達が入ると自動的に開いたとき同様に音もなく閉まった。




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 部屋に一番に入ってきた男性は未だに状況が理解できずに呆然と壊れた執務机とジグを見つめていると、遅れてやって来たバンホが部屋の入口で棒立ちしている部下の男を押し退けて、部屋の中に入り、言葉を失う。


バンホ〔・・・まさか、“探知系”の魔法にも引っ掛からずに暗殺―――とは言いがたいが成し遂げるとはな・・・・・これが、『X級』の実力・・・と言うわけか〕


 バンホはジグの心配など一切せずに誰にも気づかれる事なくジグを殺してどこかに行ってしまった暗殺貴とザックに何処か感心しながら、ジグの死体を見ていた。

 暫くすると、部下達が集まって来て、ジグに駆け寄る者と犯人を見つけようと部屋をあとにする者の二通りに別れた。




△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△




 イレーズとザックは今、ジグの部屋にあった秘密の隠し扉の中にある、煉瓦(れんが)で出来た一本道が、ゴールが見えない程に延々と続いている通路を、数メートル先を歩いている、隠し扉の内部に引きずり込んだ張本人である透き通るような金髪の少女の後を追いかけるようについていく。


 暫く歩いた頃、イレーズは徐に口を開き、ザックに向けて殺気の籠った声音で言葉を投げ掛ける。


シオン「おい、ザック。次に俺の命令を無視して勝手な行動をとったら、容赦なく貴様を殺す・・・。死にたくなかったら次からはしっかりと考えて行動をすることだな」


ザック「ッ!?・・・・・」


 ザックはイレーズの殺気に気圧され、立ち止まる。ザックは顔に汗を掻きながら前を歩いているイレーズを見つめていると、今までゴールが見えないほどに続いていた一本道が突然に消え去り、ただただ白い空間に行き着いた。


 白い空間には家具と呼べるものは向かい合う一組の白いソファと、その間にガラスで出来たような透明の長方形の机しかなく、とても質素な感じの空間がイレーズとザックの眼前に広がっていた。

 金髪の少女は立ち尽くしているイレーズとザック

無視して、片方のソファまで行き腰を下ろした。


 イレーズはいつの間にか白い空間にいた事に驚きつつも、金髪の少女と向かい合う形でソファに座る。ザックも白い空間を見回しながらイレーズの後に続き、イレーズの横に座る。


 イレーズはザックが横に座ると、目の前の金髪の少女に話しかける。


暗殺貴「お前が何者で、此処が何処かを説明してもらおうか?」


 金髪の少女はイレーズの問いかけに答えずにイレーズの顔を凝視していた。

 気になったイレーズは再度問いかけるが、またしても金髪の少女は一言も言葉を口にせずにイレーズの顔を見つめるだけだった。

 イレーズとザックはお互いに顔を見合わせ、不思議そうな顔をしていると金髪の少女はゆっくりとした動作で口を開き、話始めた。


金髪の少女「・・・此処は私を閉じ込めておくために用意させた『アセロエルツ』で出来た空間。分かってると思うけど、ここでは魔法が使えない」


暗殺貴「・・・ここが何処かは分かった。だが、お前が何者かを聞いてないが?」


金髪の少女「・・・・・その質問には答えられない」


ザック「はあ?どう言うことだよ?自分の名前も言えねえってのか?」


金髪の少女「言いたくても、私に名前はない。と言うだけの事」


 金髪の少女の言葉を理解できずにイレーズとザックは首を傾げるだけだが、金髪の少女はそんなイレーズ達の様子に気づいていないのか坦坦(たんたん)とした口調で話を続けようと瞬間に、ザックが金髪の少女の話を遮り、質問を投げ掛ける。


ザック「なんで、俺達を助けたんだ?それに、さっきからたらたらと話しているのは此処に俺達を閉じ込めておいて仲間が来るための時間稼ぎのつもりか?」


金髪の少女「そんなつもりはないし、この部屋はあのジグとか言うオジサンしか知らない。それに、私が助けたのはザック(あなた)ではなくイレーズ(あなた)よ」


 金髪の少女がイレーズを指さしながら言う。指をさされたイレーズは不思議そなうな顔をし、金髪の少女を見つめる。


金髪の少女「イレーズ(あなた)になら私の正体を教えてもいいけど、教える前に一つ聞きたいことがある」


 イレーズは金髪の少女のアメジスト色の瞳に見つめられ、「何だ?」っと答えると金髪の少女はザックなど眼中に無いのか静かに言葉を紡いだ。


金髪の少女「それは・・・・・イレーズ(あなた)は世界を敵に回す覚悟があるかどうか・・・」


 金髪少女の言葉を聞いた瞬間にザックが爆笑した。


ザック「おいおい、お嬢ちゃん。それは本気で言ってるのか?そうだとしたら笑えるな。“暗殺貴(イレーズ)”は一流の殺し屋だぜ?そんな一流の殺し屋が世界を敵に回すわけがないだろ!」


金髪の少女〔・・・やっぱり、世界を敵に回す程の覚悟を持っている者はいないか・・・〕


 金髪の少女の思いがけない一言にザックは馬鹿にするように鼻で笑い、これまた人を馬鹿にしたような口調で、椅子に座ったまま両手を広げて言うなか、イレーズは黙ったまま目をつぶり、足を組み直していた。そんな二人の様子を見ていた金髪の少女は、内心で諦めたように肩を落としていると、突然イレーズが目を開き、金髪少女に不敵な笑みを浮かべながら言い放った。


暗殺貴「オレは別に世界を敵に回してもいいがな」


金髪の少女「ッ!?」


 金髪の少女は予想外のイレーズの反応に外面では驚きながらも、内面では予想が当たった時のギャンブラーのように笑みを浮かべる。一方、ザックは相棒(イレーズ)の言葉に疑問と少しばかりの呆れを乗せた視線を向けて言う。


ザック「本気か、イレーズ・・・・。世界を敵に回したって一銭にもならない上に、命がいくつあっても足りない。お前だって命は大事だろう?」


 ザックのもっともな物言いに、イレーズは反論するように真剣な顔で言った。


暗殺貴「お前の言ってることは確かに正しい。だがな、オレはそんなことよりもおもしろいほうを選ぶんだよ。世界を敵に回すんだぞ?おもしろいと思わねえか?」


 ザックはイレーズの言葉に共感は無理だなと思い、黙っているとイレーズが金髪少女に問い掛ける。


暗殺貴「オレはお前の質問に答えたんだ。お前の正体を教えてもらおう」


 金髪の少女は話すかどうかを迷っていたが、イレーズの「俺は世界を敵に回してもいい」っと言う言葉を信じ、自分の正体を話始めた。


金髪少女「私は“神書目視録(アンノタトーレ)”と言う特殊な存在なの」


ザック「なッ!?マジかよ!?・・・神が人類に“神業”を授けたと云われる書物の“神書記伝(サクラーレリブロ)”を解読出来ると云われているあの“神書目視録(アンノタトーレ)”だと!?」


 金髪の少女の言葉にザックはソファから勢いよく立ち上がり、血相を変えて大きな声で叫んだ。が、イレーズはそんなザックを鬱陶しそうに言う。


暗殺貴「確か、“神書記伝(サクラーレリブロ)”は本で言うところの『プロローグ』の部分―――つまり、数ページしか解読が出来なかったんだよな?」


金髪少女「ええ、その通り。私は“神書目視録(アンノタトーレ)”と呼ばれる“神書記伝(サクラーレリブロ)”を解読出来る存在」


ザック「・・・それで、あんたの言葉を信ずる証拠は?」


 ザックの問いに金髪少女は一瞬困ったような表情を浮かべるが、すぐさま、目の前の虚空に掌を上に向けて開く。すると、どこからともなく辞書のように分厚い本が現れて、金髪少女の両の手に下りてきた。

 その現れた本を金髪少女は受け止め、最初の1ページを開いて、イレーズとザックへ見せる。その本の1ページを見た瞬間、ザックは目をギラつかせて、興奮したように片手を頭に当てて笑った。


ザック「ハハハハ!成る程な!どうりで世界を敵に回す覚悟があるかどうかを聞いたわけだぜ!ハハハハ!暗殺貴(イレーズ)!このお嬢ちゃんと本をセットで裏のルートで流せば数百億の値はつくぞ!そうなりゃ、俺達は億万長者だぜ!?」


暗殺貴「・・・落ち着け、ザック。こいつは売らない」


ザック「・・・はあ?おい、暗殺貴。本気で言ってんのか・・・お前・・・」


 ザックはイレーズに殺気と怒りを乗せた感情をぶつけるが、イレーズは金の話に興奮したように立ち上がっているザックを睨むように見据えるが、ザックはザックでそんなシオンの視線を真っ直ぐに見据えて、ドスの利いた声でイレーズに言った。

 暫く睨み合っていると、ザックは失望したと言いたげな眼差しでイレーズを見て言った。


ザック「・・・はあ。お前には失望したぞ。お前は何よりも『金』を優先すると思ってたんだがな・・・・・。本当に残念だよ・・・」


暗殺貴「ククク。お前に評価される程オレは安くない」


ザック「・・・・・ああ、そうかよ。・・・じゃあ、ここで死んどくか?」


 ザックは億万長者への夢(金髪の少女)に目が眩んだのか、目を不気味な程ギラつかせながらイレーズの首を狙って一気に横にいるイレーズに詰め寄るが、イレーズはソファに座ったまま、ただジッとザックを眺めている。ザックが後数センチと言うところで、イレーズは組んでいた足をもとに戻して、ザックの顎を目掛けて蹴りを放った。その一撃は見事にザックの顎に当たり、ザックを壁際にまで蹴り飛ばした。


ザック「・・・つーかよ、暗殺貴。何でお前は金が全ての筈なのにその女を売りに出そうとは思わねえ?」


 壁際で(うずくま)っていたザックが蹴られた時に口を切ったのか唇から流れている血を拭いながら、イレーズに問い掛ける。

 ザックの問いかけにイレーズは「愚問」とでも言いたげに、鼻で笑い言い放った。


暗殺貴「ククク。知れたこと。確かに莫大な金は魅力的だ」


ザック「だったら!――――」


暗殺貴「だがな、オレは、幼い少女一人を不幸にしてまで金を手にいれようとは思わない」


 暗殺貴はザックの声に上乗せするように言葉を発し、真剣な表情でザックに殺気を飛ばしながら答える。


  ザックはイレーズの殺気にビビリながらも、目の前の金の成る木(金髪の少女)がいるせいか引くことなくイレーズに向かっていった。


ザック「うおおおおおおぉぉぉぉぉッ!?じゃあ、死ねえぇぇッ!?イレーーーズゥゥゥゥッ!」


 叫びながら向かってくるザックにイレーズ紙一重で躱し、細い針のように尖った金属製の暗器を袖から出して、躊躇なくザックの後ろから喉元に深く突き刺して抜いた瞬間―――。


 ザックの喉元から赤い噴水が噴き上がり、真っ白だった空間に異色()が紛れ込み、一部の床を真っ赤に染め上げていた。

 ザックはイレーズのあまりの手際のよさに避けることも出来ずに容易く絶命させられてしまった。それだけ、イレーズの暗殺者としての腕がいいことが伺える。


 金髪少女は目の前の光景に唖然として固まっていた。


 イレーズは血の付着した針を一度振って血を払ってから袖に仕舞ったあと、金髪少女の方を向き、問い掛けるような声で、今まで固まっていた金髪の少女は意識を取り戻した。


暗殺貴「おい。オレは眠たいんだ。早くここから出て眠たい。出口はどこにあるんだ?」





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