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少女たちの物語

高原希美の兄妹事情

作者: 雪野つぐみ
掲載日:2014/11/21

 「なあ、希美、お前兄ちゃんいるって本当なのか?」

部活中に茜ちゃんがこんなこと聞いてきた。

「えっ……本当……だけど……」

 一体どこで知ったんだろう。別に隠してたわけじゃ……あるかも。

 「まあ、希美にもお兄様がいるのね。どんなお兄様なの?」

 「リリーさんまでやめて!」

 リリーさんは同級生なんだけど、本物のお嬢様らしい。呼び捨てが憚られる。

 そしてお嬢様ゆえに、悪気はなくともこういうことをするのだ。

 「何か、悪いこと言ったかしら?」

「兄妹っていろいろややこしいんだろーよ。もう突っ込んでやるな」

 ……もう、そうしてください……


 「ただいま帰りました」

 部活終わって帰ってきた。

 中学まで田舎に住んでたのに、高校からお兄様と同居することになって……

 広い、まさに“お屋敷”と言うべき家。

 おまけにいないと思ってた父親がすっごい人で……なんか疲れる。


 今はお手伝いさんもいないみたいだし、なんか料理しよっと。

 にんじんと、ごぼうと、胡麻がある。

 よし!きんぴらごぼうだ!

 にんじんとごぼうを短冊切りにして、醤油と砂糖で炒める。仕上げに胡麻を和えて出来上がり。

 簡単だからよく作るメニュー。明日のお弁当に詰めよう。

 そのときだった。

 「ただいまー。希美、帰ってるかー?」

 お兄様、帰ってきた。


 急いでタッパにきんぴらごぼうを詰めて出迎える。

 「お帰りなさい、お兄様」

「ただいま。ん、なんかいい匂いするな」

 やっぱりバレるよね!料理してたの!

 「あー……ごめんなさい。勝手に台所使ってました」

 「いや、俺に言わなくてもいいんだけど……何作ってたんだ?」

「きんぴらごぼうです」

「……」

 うん、お兄様、めっちゃ呆れてる。

 お兄様はこういうの食べたことなさそうな人だからなー……

 なんたって、天笠カンパニー社長の長男、奥様との間の嫡男だもの。

 わたしも一応社長の子だよ。ただし愛人腹。

 もうね、身分、違いすぎっていうか……お兄様はどちらかと言うとリリーさんみたいな人だもん。一方わたしは茜ちゃんたちと同じ一般庶民。普通に考えれば接触なんてあり得ないわけで。

 「……きんぴらごぼうか……懐かしいな」

 へ?お兄様きんぴらごぼう知ってるの!?

 「希美のきんぴらごぼう、ちょっと食べさせて」

「あ、はい!今持ってきます!」

慌ててタッパに突っ込んだきんぴらごぼうを皿に移す。あと、お兄様用のお箸っと。


 「いただきます」

 お兄様がわたしの料理食べてくれてる……うう、美味しいかな……

 食べられない味のものなわけないと思いつつ、お兄様が食べるのを見ていた。

 わたしにはきんぴらごぼうって日常的に食べるものだったし、作るのも簡単だから味には慣れてるけど……

 お母さん直伝のレシピ!お願い正解でいて!

 「うん、美味しいよ。父さんも満足できるんじゃないかな」

「本当ですか!?」

 わたしが驚いてるの見て、お兄様は不思議そうな顔してる。漫画とかだと「?」が顔の横に出る感じの。

 「希美の母さんの得意料理だったらしくてね、よく母さんに『きんぴらごぼうが食べたい』って言ってたんだ。希美の母さん、元気してる?」

 “愛人”って言葉を使わないあたり気を遣ってくれてるのかな……

 というか、聞いてなかったんだろうか。わたしがお兄様と同居している理由。

 「母は……少し前に死にました」

 お母さんと住んでた家もなくなった。

 近くの交差点事故のとばっちりで。突っ込んできたトラックに、家ごとお母さんを潰された。

 たまたま家の奥の方にいたからわたしは無事だったけど……目の前にまで死が迫る感覚は、今も離れない。

 「ごっ、ごめん!悪かった!から泣かないでくれ!」

「泣いてないです!」

言いながらも、涙が零れるのがわかる。あまりにもバレバレな嘘。

 “兄の手を煩わせない妹”の仮面が、バラバラと剥がれ落ちていく。

 黙って涙を流すわたしの頭を撫でながら、お兄様は心配そうにわたしを見ていた。

「……身内が死んだら、そりゃ悲しいよね。希美、もっと俺に甘えてよかったんだよ?」

「……だって……立場が……」

「立場がどうした?確かに世間からすれば俺は“社長令息”で希美は“愛人の娘”だ。でもな、俺にとって希美は、“可愛い妹”でしかないんだよ。母親が誰だろうが変わらない」

「……」

 ……初めて知った。お兄様は、わたしをちゃんと妹として認めてくれてた……

 「だから、無理に頑張るの止めろ。甘えたい時は甘えろ。俺だって(のぞみ)と一緒に暮らせるって知った時に『おもいっきり可愛がって世話焼こう』って楽しみにしてたんだから」

「……高校生の妹の世話焼きたいって、それもうシスコンとかギャルゲの世界ですよ」

「そうか?」

……多分そうだ。前リリーさんが「シスコンの姉が心配性過ぎて困る」って言ってたし。

「ま、泣き止んだし、良かった」

頭をぽんぽん、とされる。その感覚は、ずっと一人っ子として過ごしてたわたしには初めてで……ちょっと、子供扱いな気もした。

「お兄様……またわたしが泣いてたら、こうやって慰めてくれますか?」

「俺としてはまずその敬語をやめてほしいところだけど……」

「えへへ……年上には敬語を使えって言われてたもので……」

「……あー、まあ、少しずつ直せばいいよ。それに、辛いならいつだって慰めてやるから」

 少しだけ、安心した。

 “弱い妹”としてのわたしを、お兄様はとっくに認めてくれてた。

 そんな安心感と幸福感に満たされながら、その日は眠りについた。


 「おはよー!茜ちゃん!リリーさん!」

「なんか今日の希美、無駄にテンション高いな…」

「“無駄に”は余計じゃなくて?希美、何かいいことでもあったの?」

ふわふわした幸福感が抜けない。

「いいことあったの!」

「なんだなんだ?」

「なんだと思う?」

なんだろな、と茜ちゃんとリリーさんが考える。

 放課後までに当てられなかったら、教えてあげよう。


わたしのお兄様は、きっと最高のお兄様!


こんにちは。

何とか企画書き上げました。


今回は初原姉弟の物語に出てきた、「高原希美」の話です。

実は彼女は、この世界にもともと存在した子ではありませんでした。

とある方とのロールプレイでできた「もう一人の雪野」という設定の子で、生まれた当時は小説に出す予定すらなかったのです。

それが今や主役級の席をとったのですから、何がどうなるかわからんものです。

彼女を生み出すもとになった方(作品中では兄の役になりました)、この小説をよんでくださった方、ともに参加してくださった方、発案者の文群さんに、感謝をささげます。

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