07.「ぴーぶいぴい?」
3/9の0時に第8話も投稿致します。
また12時と0時の連続投稿は日曜日までで終了し、月曜日からは0時のみの投稿に戻したいと思います。
実を言うと春香がこんな風に男性に絡まれるのは初めてではない。
そして、俺がその場に居合わせるのもだ。
身内自慢に聞こえるかもしれないが、春香は容姿が良い。
可愛い感じの顔の作りで身長は同年代の平均よりやや低い位なのに、出るところは出て引っ込むところは引っ込む非常に女性らしい体型をしている。
そうなると当然周りの男性の注目を集めやすくなり、よく友達と買い物なんかに出かけるとナンパやらスカウトの声を掛けられるそうだ。
……一度スカウトの人からもらった名刺を見せてもらったが、某アイドルユニットをプロデュースしたことで有名な人の物で腰を抜かした経験がある。
まあ春香本人は今は男性よりも同性の友達、アイドルよりもゲームを優先しているため全てお断りしている。
だが残念なことに、今回のようにしつこかったりする輩もいるんだよな。
「あー。申し訳ないけど俺、あの子達とここ待ち合わせしてたんだよ。先約はこっちだから今回は縁がなかったと言うことで、残念だけど諦めて貰えるかな?」
俺は傷有りの男性にそう言って、こっちの方が先に約束したことを強調することで事態を収めようと思った。
現実でもこの手は使ったことがあるが、大体この段階で声を掛けてきた男性は諦めて引いてくれる。
だが―――、
「知るかよ。いいからあっち行ってろ!」
―――中にはこんな風に話をろくに聞いてくれない者もいる。
傷有りの男性に加えて、いちいち大声を上げる盾を背負った男性の一人が春香達の側から離れ、俺の方へズンズンと肩をいきらせながらやって来た。
先程PTに誘っただけだと言った男性だ。
「おっと」
男性はいらいらした様子で近づいてきて、そのまま俺の肩を押そうとしてきたので思わず体を捻って避けてしまった。
誰だって好きこのんで肩ドン?はされたくないだろう。
「うおっ?!」
男性はまさか避けられるとは思ってなかったのか、前のめりになってたたらを踏む。
それを見て残りの男性達が笑い声を上げた。
「ブフゥッ! なにやってんのお前っ? 笑える!」
「かっこわりぃ! 動画かスクショ(スクリーンショットの略)でも撮っとけば良かったぜ」
「それいいな。おいもう一回今のやってくれよ」
「今度こそ決定的瞬間を逃しはしないぜっ」
「「あはははっ」」
男性達の笑いにつられて女性達も思わず笑ってしまった。
春香は口に手を当てて笑いを隠そうとしているが、肩は震えているし手の隙間から時折空気が漏れくぐもった声が聞こえる。
フレンドの子はそこまで露骨に笑ってはいなかったが、ちょっと見下し気味に『フッ』と鼻で笑った。
あなたはどこぞの女王様ですか?
「てっ、てめぇ!」
逆上した男性が腕を振り上げ殴りかかってきた。
遠巻きに野次馬と化していたプレイヤーやNPCの方から『キャ-!』という声が聞こえる。
だが拳は俺に届くことなく途中で止まっていた。
《警告。中立エリアでの戦闘行為は認められていません》
そんなアナウンスと共に俺と相手の間にウィンドウが現れる。
警告は二回に渡り通達され、何事もなかったように消えていった。
「ちっ、めんどくせえなぁ!」
男性はペッ!と行儀悪くも地面に唾を吐き捨て、ステータスを表示して何やら操作し始めた。
そして最後に何かをタッチすると、俺の目の前にウィンドウが現れ《プレイヤー“ジェイク”から“PvP”の申し込みがありました。受諾しますか? Yes/No》と書かれていた。
「ぴーぶいぴい?」
一体PvPとは何なのだろう?
「おら! さっさとYes押しやがれ!」
この男――ジェイクというのか?
とにかく、どうやらこのウィンドウは目の前の男性が表示させた物らしい。
「ちょっと! いきなりPvPとか何考えてるの! その人はゲーム初心者なのよっ」
春香が怒った口調で言い俺達の方へと一歩足を出したが、周りに残っていた男性二人に行く手を阻まれている。
「あ? 知るかよ。俺はコイツに用があんだよ」
ジェイクは春香を一瞥しただけですぐにこちらに顔を戻した。
「もう仕方がありません。シャロン、さっきちょっと言っていた【GMコール】をしましょう」
だが春香のフレンドの子が"GMコール”と言った途端、男性達が狼狽え始めた。
じーえむ?
コールって付くのだから誰かにコールで呼びかけるんだろうけど、どんどん知らない単語が出てくるぞ。
「ふざけんなよ! こんな事くらいでGMなんか呼ぶか普通?!」
ジェイクも俺の元から離れ、再び春香の方へ走っていった。
俺もこの隙に近づこうとしたが最初に俺に近寄ってきた傷有りの男性が邪魔をして近づけなかった。
「私たちだってゲーム初日からこんな事したくありませんでした。ですが、あなた達がしつこ過ぎるのがいけません」
ステータスから何か操作しようとするフレンドの子だったが、途中で春香がそれを制した。
そして小声で『ちょっと待って』と言うと男性達と向かい合う。
「今だったらまだ許してあげる。でも、これ以上私たちに絡んでくるなら本当にGMコールしちゃうから。 どうするの」
春香は精一杯睨み付けようとしているのだろうが、どうにもその顔は迫力がない。
怒っているのはわかるけど可愛い容姿がそれを相殺していて、ただ子供がむくれているだけのように見えるのか。
「こ、のっ」
ジェイクはこめかみに青筋を浮かべて戦慄いていた。
だがすでに勝負は決しているのは一目瞭然だ。
「もういいだろ。行こうぜ」
現にジェイク以外の男性達はもうこの場を離れようとしていた。
我に返って、自分たちを取り巻く野次馬の目に気が付いたと言うこともあるのだろう。
傷有りの男性が俺達に背を向けてちょっと早い歩調で歩き出すと、最後に唾をペッ!と吐いてジェイクも男性達に続いてこの場を去っていった。
「イオ。ゴメンね」
男性達が完全に見えなくなると春香達が俺の方に近づいてきた。
そういえばいつの間にかPvPの申し込みって表示も消えてる。
野次馬達も解散しつつあった。
「いや、平気だよ。ああいった輩の相手なんて何度かこなしてるのは知ってるだろ、春『ストォップ!』か……何だよ?」
春香が割って入り俺の言うことを最後まで言わせて貰えなかった。
「ここはゲームの中なんだよ? 現実の名前を言うのはあんまり良くないの。だから私も『イオ』って呼んでるでしょ」
確かに。
実名で呼ぶのは不味いかもしれないな。
個人情報とかそんな関係で。
「じゃあ俺はシャロンって呼べばいいのか」
今はまだ違和感があるし馴れてないから間違えるかもしれないな。
でもいつかは馴れるだろう。
「よろしいっ」
春――シャロンは腰に手を当てて大げさに頷く。
やっぱり子供っぽい奴だな。
「んっんんー! ええっと、シャロン。そちらの方に私も自己紹介をしたいのですけど」
一つ咳払いをして『自分を忘れてないか?』とアピールしてきたのは、はr――シャロンのフレンドの子だ。
忘れていたわけではなかったが、申し訳ないことをしてしまったな。
「ゴメンゴメン。じゃ、どうぞ~」
春香は一歩離れて俺達をニコニコした顔で見始めた。
何がそんなに楽しいんだろう?
「改めまして。先程はどうもありがとうございました。私の名前はセイといいます。見ての通り武器は弓を使います。シャロンとは現実でも友人の関係です」
最後に『どうぞよろしくお願いします』と頭を下げるセイさん。
シャロンと現実でも友達ってことは多分同じ高校生……だよな?
ちょっと、いや、随分しっかりしてる。
「俺の名前はイオ。武器は槍を使うよ。現実ではシャロンの兄でもあるから、よろしくね」
とりあえず同じ様な自己紹介をしてみた。
だけど何故かセイさんはえっ?という感じで、俺のことを驚いた顔で見ていた。
何か俺驚かすようなこと言ったっけか?
お読み頂きありがとうございます。
セイは今のところヒロインになるかどうか未定です。
あとタイトルを見ていきなり決闘かと思った方もいらっしゃるかもしれませんが、結局はPvPはお流れになりましたね。
もう少し主人公がゲームに馴れてきたらPvPもあるかもしれません。
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