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15.「さぁさぁさぁ!」

予約し忘れ慌てて投稿(汗)

 

 

 

 スゥー……ハァー……。

 スゥー……ハァー……。



 深呼吸を何度か繰り返して昂ぶった気を落ち着かせる。

 ゲームの中でも効き目はあったのか、何となく体の火照りが冷めてきて頭の中がクリアになったような気がする。

 とりあえず槍を背中に背負い直しておく。



「見ていて攻撃を受けた様子はありませんでいたけど、ケガはありませんか? もしあれば、私【回復魔法】スキルを持ってますから治しますよ」



 セイが俺の頭からつま先まで一度見直し、見てわかるところにケガがないか確認する。

 だけど俺はさっきの戦闘では無傷で勝利出来たのでケガはあるはずもなく、セイに大丈夫だとその旨を伝えた。

 一度『本当ですか?』と聞き返してきたがそれ以降しつこく聞いてくることもなく、『良かった』とホッとした様子で胸に手を当てていた。



「イオー。ドロップアイテムはどんなのが出たー?」



 俺とセイがそんな会話をしているところに今度はシャロンが加わる。

 そこで俺は戦闘が終わったらドロップアイテムが入手出来ることを思い出し確認することにした。

 今回は俺しか戦っていなかったので、シャロンとセイの二人にはドロップアイテムは無かったようだ。



「さて、何が手に入ったかな」

 


 俺は内心ちょっとワクワクしながらステータスを開いて、所持品の欄を見てみた。



【ヴォルフの毛皮】×2

 ヴォルフから採れる毛皮。

 生産素材として使用出来る。



【ヴォルフの牙】×3

 ヴォルフから採れる牙。

 生産素材として使用出来る。



【ヴォルフの爪】×2

 ヴォルフから採れる爪。

 生産素材として使用出来る。



 やはり戦闘に大きく関わると手に入るドロップアイテムの量と種類は増えるようだ。

 セイを守った時は毛皮が一枚だったが今回は二枚になり、牙も一つから三つに増えている。

 そして、毛皮・牙・尻尾に続いて新しく【ヴォルフの爪】と、所持品の欄に書かれていた。



「どうだった?」



 シャロンも俺のようにワクワクした様子が見てとれる。

 そんな様子を見て俺もさっきまでこんな感じだったのかなと少し笑いながらも、今回手に入ったドロップアイテムの内容を教えた。



「さっきと同じく毛皮と牙があったけど、数はさっきよりも多かったな。あと【ヴォルフの爪】っていうアイテムがあったよ」



 俺が伝え終わるとシャロンは『そっかー』と言うだけだった。

 どうやら尻尾とは違って爪はそこまで珍しいドロップアイテムではなかったようだな。

 まぁアイテムの説明にも尻尾みたいに特別なことは書かれていなかったから予想は出来ていたけど。



「じゃあ次は私の番だね! ふふ、ふふふふっ!」



 威勢良く声を出したのはシャロンだ。

 そしてそのまま何やら怪しい雰囲気をまき散らしながらニヤーっと不敵な笑みを浮かべていた。



「シャ、シャロン?」



 俺は時々こんなテンションになっているシャロン――いや、現実世界でのことなので『春香』を見たことがあるのでそうでもなかったが、セイは初めて目の当たりにしたのか若干引きつつも友人であるシャロンを心配してか声を掛けていた。



「さぁ! さぁさぁさぁ! 早く次の獲物を探しにいくよ二人ともっ、私についてきなさいっ!」



 そのままシャロンは俺とセイを置き去りにして駆けだして行ってしまう。

 その場に残された俺達は何となく顔を見合わせた。



「ごめんな、セイ。ハイテンションになったアイツを見るのは初めて?」



 俺はシャロンの兄としてポカンとしているセイに軽く謝っておいた。



「い、いえ。謝ってもらう必要はありません。ただ……あんなあの子を見るのはおっしゃる通り初めてだったもので、少し驚いただけです」



 セイの答えにやっぱりかと思いつつ俺は事情を説明しておく。



「アイツはちょっとテンションが上がっちゃうとあんな風になっちゃうんだよ。たぶん今回のはやっと自分が戦う番になったから張り切っちゃったんだと思う。このゲームをアイツと一緒にやっていくなら、これからもあんなテンションになる事があると思うから……よろしく頼むよ」



 最後にセイの肩をポンと叩く。

 具体的に何を頼むと言うわけではないが、ニュアンスは伝えることが出来るだろう。



「さてと。じゃあ俺達も行こうか。一人でズンズン進んで行ってるのに気が付いていないみたいだし」



 そんな俺の視線を追ってセイもシャロンを見る。

 俺が言った通り一人でもうけっこうな距離を進んでいた。

 後ろから見てもわかるくらい上機嫌な様子で、その内スキップでもしはじめそうだ。



「そうですね」



 セイと俺はシャロンに追いつくため軽く走る。

 追いついてみると何か独り言のように呟いていた。



「何から試してみよっかなー。水魔法で顔を覆って溺れさせる? それとも風魔法で切られたと気付かないうちに切り裂いてあげようかな? それとも……ま、どっちにしても、私の魔法が炸裂するわよー。――ふふふふ」



 ………………。

 …………。



 俺は何も聞かなかった。

 そうだ、きっと空耳だな、うん、間違いない。

 だって例えゲームだとは言っても、俺の妹がこんなに残酷なことを考えているわけがないじゃないか。

 はは、はははっ。



「……ちょっと、次に出くわすモンスターが……かわいそうですね」



 滑るような動きで俺の隣までやって来て、セイが俺の耳元に口を近づけ手で隠しながらヒソヒソと小さく言った。 



 おいおいセイ、いきなり何を言っているんだい?

 俺にはさっぱり理解出来ないな。

 もしかしてセイも俺が聞いた空耳と同じ物が聞こえてたのかな?

 奇遇だね。

 でもそれは気のせいだから気にしなくて良いよ、うん。



「よし。どれかなんてケチ臭いこと言わないで大盤振る舞いしよう。【水】も【風】も【()】も【()】も、せっかくなんだから全部使ってあげよう」



 シャロンは何か自己解決に至ったのか、うんうん頷いてそう独り言を呟いて『そうと決まればモンスターさっさと出てこないかなー?』と辺りをキョロキョロと見渡すのだった。



 ところでさっき聞いた空耳の時よりも、何だか魔法の種類が二つほど増えてませんかね?

 このままだと次に遭遇するモンスターには、悲惨な未来しか想像することが出来ないんだが。



「………」


「………」



 俺は一度セイの方を見た。

 セイもちょうど俺の方を見たところで、俺達は声を出さずアイコンタクトだけで会話を成立させるとゆっくり頷き、それ以降は黙ってもくもくとシャロンの後をついていくことにした。



 ん?

 セイとアイコンタクトで何を話したのかって?

 えっと、『深く考えるのは止めよう』って感じだったよ。



 俺は心の中でまだ見ぬシャロンの相手になるモンスターに、『ご愁傷様』と祈りを捧げておいた。



 ………………。

 …………。

 ……。

 

 

 

 


お読み頂きありがとうございます!


主人公の初モンスター戦も無事終わり、次は妹・春香シャロンが次回暴れる予定です。

その後は現実世界のお話に入ります。


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