13.「セイちゃん、大正解」
「―――そういえばここって出てくるモンスター、さっきのヴォルフの他にはどんなのがいるんだろう」
俺は小さく独り言を呟いた。
ヴォルフだったらさっきの戦闘の相手だったので対応することも出来るだろうけど、他のモンスターが出てきたらどうしても後手に回ってしまうだろう。
なので、ここは素直にシャロンに聞いてみることにした。
「なぁシャロン。ちょっと聞いても良いか?」
俺は立ち止まることなく歩きつつもシャロンの方を振り返り話しかける。
するとシャロンは少し駆け足になって俺の隣までやって来た。
その様子を見てセイも近づいてきてしまったため、早速陣形が崩れてしまったが……まぁいいだろう。
全員近くに集まって固まってはいるけど、周囲のこともちゃんと警戒している様子が感じ取れるからな。
油断していきなり奇襲を受けるなんてことはないはずだ。
「何々? 何か質問?」
シャロンが俺に問いかける。
「あぁ、この辺りに出てくるモンスターについて聞こうと思ってさ。ヴォルフしか出ないってことはないだろ?」
俺の質問を聞いて『私も気になります』とセイも同意してくれシャロンに目を向ける。
そして俺とセイの視線を集めている当のシャロンは何か悩んでいる様子だった。
「どうかしたの、シャロン?」
その様子を見たセイが首を傾げつつ聞いてみた。
「えっとこのエリアの出現モンスターについて教えても良いけど、いいの? 初めて見聞きするモンスターを自分の力だけで倒すって方が面白くない?」
何を悩んでいたのかと思ったらそんなことをシャロンは言った。
俺はその面白いってことよりも今は安全の方が大事だと思ったので、その旨をシャロンに伝えることにした。
「そういうのはもっとゲームに馴れてきてからにするよ。今は何より安全とゲームに馴れるのを優先したいからな」
隣で話を聞いていたセイも頷いて口を開く。
「私もイオと同意見よ。シャロンの言っていることも理解出来ないわけではないけど、今は事前に情報を得ていたほうが安心出来るから」
俺とセイの意見を聞いてシャロンも納得してくれ、この辺りで出てくるモンスターについて説明してくれた。
「えっとこのエリアで出てくるモンスターは私の知る限り四種類いるの」
シャロンは杖を持っていない方の左手を握り掌側を俺達に向けて持ち上げる。
「私の知る限りっていうのはベータ版ではそうだったってこと。公式スタートに合わせてもしかしたら増えたり減ったり、変更されてるかもしれないから注意してね」
その注意事項に俺は頷いて、セイは『はい』と返事をして先を促す。
シャロンはまず人差し指を一本だけ立てて話し始めた。
「一種類目はさっきの『青ヴォルフ』。これは別に今更説明はいらないよね?」
確認するシャロンに大丈夫だと答える。
実際に戦闘もしたし、説明も受けていたからな。
次にシャロンは中指を立ててピースサインを作る。
「二種類目は『赤ヴォルフ』。青ヴォルフの色違いと思ってくれればそれで十分だよ。というか青とか赤とかの前置きは勝手に付けてるだけで、ゲーム表示的にはどっちも《ヴォルフ》って同じだから正確に言うと四種類じゃなくて三種類になるのかな」
シャロンはまぁいいかとあっさり流して薬指を立てる。
「三種類目は『アント』って言って姿形は虫のアリだね。ただ大きさがヴォルフより一回り大きくて……正直気持ち悪いね」
俺は頭の中で巨大化したアリを想像してみた。
想像してみて確かにおっかなそうだと思ったが、実際に目で見たわけではないのでそこまで気持ち悪いとは思わなかった。
ただ昆虫が苦手な人にとっては嫌なんだろうなーくらいには思ったけど。
ちらっとセイの方を盗み見てみたけど、セイは別に変わった様子もない。
セイは虫が大丈夫なんだろうか?
イメージとして女性はみんな昆虫が苦手だと思ってたんだけどな。
「アントの攻撃方法はクワガタみたいにハサミを使った噛み付き攻撃。弱点は頭の触覚だね。あれを攻撃して壊すと動きが鈍くなるんだ。あと体が意外と硬いから注意が必要かな」
ふむ。
アント相手だったら俺の火魔法が役に立ちそうだな。
体が硬いってことは槍もなかなか通用しそうにないし、魔法を使って遠距離から仕留めるのが一番安全だろう。
あとシャロン。
細かいこと言うみたいだけど、アリとかクワガタのあれはハサミじゃなくて“顎”なんだよ。
俺は口にこそ出さなかったが心のなかでシャロンにツッコミを入れておいた。
「最後に、四種類目が『モゥモゥ』」
シャロンが最後と言って小指を立てる。
「何だか可愛い名前ね。まるで小さい子供が牛のことを言ってるみたい」
セイが小さく笑って言った。
「セイちゃん、大正解」
するとシャロンが突然左手で人差し指だけ立ててセイのことを指さした。
こら、人の事を指さすんじゃありません。
セイは突然大正解と言われて『え? えっと?』とどう反応したらいいのか困っていた
「モゥモゥって殆どリアルの牛と同じなんだよねー。しかも一応モンスター扱いなんだけどこっちから手を出さない限り襲ってこないの。草ばっかり食べてて大人しいから家畜としてNPCが飼ってたりもするんだよね」
聞くとモゥモゥのミルクやモゥモゥの肉など、食料アイテムが普通に市場などで売られているらしい。
聞けば聞くほど現実の牛と同じようだった。
「こっちが手を出してモゥモゥを怒らせちゃうと突進してくるから。角も生えててまともに正面から突進を食らっちゃうと金属製の防具でもへこむのは当たり前、最悪貫通しちゃうくらいの威力があるから気をつけてね」
シャロンのこの発言を聞いて俺の中のモゥモゥは牛からバッファローに変更された。
「だけどモゥモゥから採れる食材を使った料理って凄く美味しんだー。無理にとは言わないけど、どうせだったら狩りたいかなー」
そう言ってチラチラとこちらを窺ってくるシャロンに対して、俺は仕方がないなと思いつつ苦笑いを浮かべながらセイに話しかけた。
「俺もちょっと興味が湧いてきたかな。セイ、どうかな? モゥモゥを見かけたらちょっと戦ってみないか?」
今度はセイの方を見るシャロン。
結局俺達は『モゥモゥを見かけたら狩る』ということになった。
とりあえず全員がある程度ドロップアイテムを手に入れることを目標とする。
「よーし、じゃあ行こうか! モゥモゥ探しに!」
シャロンは気合い十分と言った様子でバトントワリングのように手に持つ杖をブンブン振り回した。
モゥモゥは剣や弓など物理的な攻撃よりも魔法攻撃の方が効き目があるらしいので、モゥモゥとの戦闘ではシャロンが大いに力を振るうことだろう。
そしてシャロンは意気揚々と歩き始めた。
―――だけど、忘れていないかい?
「おいおい、今はまず俺が戦闘を経験する方が優先だぞ?」
俺のその言葉にシャロンは『あっ』と言って動きを止めた。
そして油切れか錆びてしまって動きが悪くなったようにゆっくり俺の方を振り返って、ペロッと舌を出して誤魔化した。
「ふふ、では改めて先を進みましょうか」
セイが微笑ましい物を見たように笑って俺達はもう一度最初の陣形を作り直す。
準備が整うと荒れ達は改めて草原を進んだ。
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暫く歩くこと十分ちょっと。
俺は草原の一角に赤い物を見た気がした。
「ストップ」
声を出しながら片手を横に伸ばして後ろに続く二人に止まるよう促す。
そして気になった所をもう一度見てみると……やはり間違いではなかったようだ。
《ヴォルフ》
赤い物体の上にはヴォルフと書かれたウィンドウが現れた。
どうやら俺の初めてのモンスターは赤ヴォルフに決定したようだ。
お読み頂きありがとうございます。
モンスターの肉を使ったステーキフラグが立ちました^^
無事モゥモゥを狩ることが出来るのか。
あ、その前に主人公主体のヴォルフ戦がありましたね。
次話もよろしくお願いします。