11.「ダメだ、間に合わないっ!」
※加筆修正5/14
トスッ!
ガサガサ!
矢がヴォルフがいた辺りの草に突き刺さり、ヴォルフが伏せていた状態から立ち上がって草影から出てきた。
見てみるとヴォルフの背中の左側には一本の矢が刺さっていた。
「めーちゅー。初めてで一本目からいきなり当てるなんて、凄いねセイちゃん」
シャロンが鳴ってもいない口笛をフーフー吹きセイを褒めた。
俺も大したもんだなーと言うとセイはありがとうございますと少し恥ずかしそうに笑みを浮かべる。
「実は現実世界の方で和弓を嗜んでいた時期がありまして」
へぇーそうなのか。
和弓って弓道に使われるやつだよな。
でも今セイが使ってる弓は和弓よりも大分小さいから使い勝手は違うはず。
結局の所、やっぱりセイが上手いってことになるだろう。
「あ、しかもクリティカル出た。バーが残り三分の一もないよ」
言われて気が付いたが、敵モンスターの名前が表示されている所に出ていた赤い横線が、赤と黒色のツートンカラーに変わっているようだ。
シャロンの言動から推測するにあの赤色が敵の体力値なのだろう。
黒色は与えたダメージ兼減った体力という事になる。
「続けていきます」
セイは気を引き締め直して次の矢をつがえる。
だが敵も黙って矢の攻撃を受けるわけが無く、自分に刺さった矢を放った相手――つまりセイをいち早く見つけると大きく顎を広げ牙を剥き出しにし、吠えながら射一直線にこちら目掛けて駆けだした。
一直線に駆けるその線上にはセイの姿があると容易に想像がつく。
「ふぅっ!」
セイは動揺することなく第二射を放つ。
弓はカヒュンと乾いた音を辺りに響かせ、矢がスゴイ勢いで飛んでいく……が、その攻撃は当たらなかった。
べつだんヴォルフが避けるような動作は見受けられなかったが、セイが放った矢は相手の体の左側を掠めるようにギリギリで外れてしまう。
さっきは止まっている状態のヴォルフだったが、今はこちらに向かって走っている状態だったので的を絞りきれなかったのかもしれない。
そして外してしまったセイは一瞬動揺したようだったが、直ぐさま気を取り直し三本目の矢をつがえた。
「――ダメだ、間に合わないっ! 俺が前に出るからセイは後ろに下がって!」
俺は大きめの声でセイに後退するように促す。
セイの第三射は間に合いそうになかったからだ。
予想以上にヴォルフの駆ける速度が速かったのか、ただ単に戦闘に不慣れだったこちらの行動が遅かったのか。
「す、すみませんっ」
セイが俺に謝りながら構えを解いて、後方にバックステップの要領で下がるのと同時にヴォルフが突っ込んできた。
猪のように駆け抜けるような突進ではなく、目標の直前で軽くジャンプしその鋭く尖った牙で噛み付こうとしてくる。
「させるか!」
俺は槍を持つ両手の持ち手の間隔を大きくして左手を腰ほどの高さ、右手を肩ほどの高さで構え腕を体の前に突き出すように伸ばす。
本当だったら矛先を向けてカウンターでも狙いたい場面だろうが、俺も咄嗟のことで防御に徹するほか頭の中に浮かんでいなかった
すると両手の間に出来た槍の持ち手スペースにヴォルフが噛み付いてきた。
そのまま俺はヴォルフの体当たりを受けて背中から地面に倒れてしまう。
「う、ぉおおお?!」
仰向けに倒れた俺の体の上にヴォルフが覆い被さり、眼前には無数の白い牙と赤い口内が広がっていた。
ガウガウと何とか俺に噛み付こうとするヴォルフだったが、先程噛み付かせた槍のおかげでそれ以上顔を近づけることが出来ずただ藻掻くだけとなっている。
もし俺の槍がヴォルフの口を押さえていなければそのまま俺は噛み付かれていただろう。
「こ、のっ! 野郎ぉ」
だが俺もこの状況をどうにかする方法が思い浮かばなかった。
出来ることと言えば槍を持つ手を伸ばしてヴォルフの牙を遠ざけることくらいだ。
「くそっ、いい加減にしろっ」
首の角度を変えて何度も噛み付こうとしてくるヴォルフ。
相手は大型犬ほどの大きさで力もそれなりにあるので、俺は揺さぶられる槍を手放さないようにしながら毒づいていた。
――その時だった。
膨らませた紙袋を思い切りたたきつぶして、破裂させたようなそんな音と共に、青い閃光が一筋走りヴォルフ目掛けて伸びていく。
―――ゴスッ!
青い閃光の正体は矢だった。
鈍い音がして、ヴォルフの頭を左側頭部から右側頭部へと串刺しにし、そのまま地面へと突き刺さる。
そしてヴォルフ一拍遅れて体を横たえた。
「くっ、こ、のおっ」
突然体中の筋肉が弛緩し俺に上に倒れてきたヴォルフを、俺は無造作に横に放り投げ地面に倒した。
「大丈夫ですかイオ!?」
俺は少し呆然として地面に横たわったヴォルフを見ていたが、突然ヴォルフのシルエットが白くなりまるで幻だったかのように消えてしまった。
そんな俺にセイが安否を確認するため駆け寄ってきて、その後ろからシャロンが杖を背中に背負い直しながら続いてくる。
「ああ、大丈夫だよ。槍を間に入れてガードしたから、直には噛み付かれてない」
よっと勢いを付けて上体を起こしそのまま立ち上がる。
地面に寝転んでしまったので背中や腰を服や防具の上からパンパンと叩いて付着したゴミを払った。
「それにしても最後のあの矢は?」
ヴォルフにとどめを刺した一本の矢。
セイが放った物だろうがあれは普通じゃなかった。
放ったときの音もそうだが、何よりあの蒼い閃光が普通じゃないことを物語っている。
「あれは《ピンポイントショット》という弓のスキルです。初めてでしたが上手く行って良かったです」
聞くとセイは俺に促されて後退した後、俺がヴォルフに押し倒されているのを目の当たりにし何とかしないとと無我夢中でスキルを使ったとのこと。
普通に矢を射る攻撃よりもきっとスキルの方が攻撃力があるだろうと判断して使ったらしいのだが、今になって考えると使ったことのないスキルで狙いが逸れて俺に当ててしまう可能性もあったかも、――と思い至り申し訳なさそうに眉をひそめて俯いていた。
「あの……すみませんでした」
前者は俺が前に出てセイを守ったことに対するお礼で、後者はそのせいで俺が噛み付かれそうになったことと、ぶっつけ本番で俺に当たってしまったかもしれないスキルを使ったことに対する謝罪だった。
俺は結果としてセイのスキルがヴォルフを倒し、俺を助けてくれたのだから気にする必要はないく、そもそも事前に決めていた通り『もしもの場合は助け合う』ということをただ実行しただけだと言ったのだが……。
「それでもです。イオを危ない目に合わせてしまったのは、私の責任ですから」
セイはそれでも頭を下げ続けてくるのだった。
本当に気にしなくて良いんだけどな。
はてさて、どうしたもんか。
最後までお読み下さりありがとうございます^^
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初討伐です!
ちなみにヴォルフのアイデアはポケモンのニドラン♂♀です。
もしかしたら気が付いていた方もいるかも?
真面目さは、時に周囲の人間を困らせることもあるということを身をもって示してくれたセイでした。
次話もよろしくお願いします!
3/12の0時投稿予定です。