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10.「――戦闘、開始」

本日から一日一話投稿へ戻ります。

と言っても、書き溜め分があるうちはですが(汗)

 

 

 

「シャロン、待ってくれよ」



 俺が前を行く背中に声を掛けると、シャロンは振り返って止まってくれた。

 


「ゴメンゴメン。でももう少し行かないとモンスターが出ないんだよ」



 そう言いながらその場でもも上げ運動のように足踏みをしている。

 逸る気持ちも仕方がないとは思うけど、その行動はやめてもらいたい。



 シャロンは今ミニスカート(・・・・・・)を履いているのだ。

 そんな格好でもも上げ運動みたいな激しい動きをするもんだから……ほら、な?

 ヒラヒラとスカートの裾が上げられた太ももと一緒に上昇し、その後重力に従って降下していく。

 後ろから見たなら羽織っているマントで見えないだろうが、正面から見ると実に危険な光景が広がる。

 


 シミ一つない綺麗な肌をした程よい肉付きの太もも。

 一目見てスベスベとわかるその肌は、ちょうど膝上まである長く黒いソックスでキュッと締め付けられていて、ソックスの縁と太ももの肌色の境界線で段差が出来ている。

 そんな物がひっきりなしに見え隠れして、男性であったら思わず目が言ってしまうだろう。



 ――俺?

 俺はこいつの兄妹だからね。

 確かに目が行くことはあるけど、欲望的な感じよりは心配する心の方が勝っている。

 


「こら。兄妹とは言え、男性の前でそんなことをしたらはしたないでしょう」



 そこで颯爽と介入してきてくれるのはセイさんだ。

 彼女は俺の気持ちを代弁してシャロンを諫めてくれた。

 ……何となくだが、セイさんは同性から憧れの存在として見られていそうな気がする。

 簡単に言えば『お姉様』とか言われてそう。

  


「大丈夫! 倫理規制が掛かってるから。これ、どれだけ動いても絶っ対に見えないように出来てるの。もちろん戦闘中も効果はあるから、こんなスカートを着たまま戦ってもノープロブレム!」



 シャロンは『HA! HA! HAA!』と白い歯をキラッと光らせるように笑って、グットマークの形にした右手を突き出す。

 


「それでも、たとえ見えないように出来ていてもはしたないからやめなさい」



 ぶれないセイさんに言われて『はーい』と間延びした返事をしてシャロンはもも上げを止めた。



 俺はそんな二人のやりとりを大人しく聞いていた。

 セイさんが俺の代わりに先に注意してくれたし、俺に言われるよりも同性のセイさんから言われた方がシャロンもちゃんと耳を傾けてくれそうだったから。

 現にシャロンはちょっと乱れた服や髪の毛を整えている。



「じゃあ気を取り直して行こっか。モンスターはフォートから歩いて十分ちょっとくらいの距離から出現するから、もうちょっと行かないと」



 十分と少しということは、大体一キロくらいかな。

 街の外に出て徒歩十分やそこらでモンスターが出るっていうのは近いのか遠いのか。

 現実世界だったら、住んでいる所から一キロ歩くと人に襲いかかる生き物がいるってことだけど――。

 まあゲームの世界に現実の世界のことを引っ張り出しても仕方ないか。



「じゃあシャロンが先導してくれる? 私とお兄さんはその後に続いて行くから」



 俺もそれに賛同しようとしたのだが、何故かシャロンは腕を組んで『うーん……』と考え事をしていた。



「どうかしたか?」



 不審に思って問いかける。

 シャロンは少しの間だ唸っていたかと思うと、おもむろにパンッと手を一度だけ叩いた。



「やっぱりセイちゃんもイオのことを“イオ”って呼ぼう!」



 そして何を言い出すのかと思ったら俺のシャロンの呼び方に続いて、セイさんの俺の呼び方についての提案だった。

 俺も自然すぎて気が付かなかったが、確かにセイさんは俺の事を『お兄さん』と呼んでいたな。



「もちろんイオもセイちゃんのことは“セイ”って呼ぶんだからね?」



 何ですと?!





 ~閑話休題~





「じゃあこれからはみんな呼び捨てで呼び合うってことで、決定!」



 突然の呼び方変更議論が幕を下ろした。

 結果は先程のシャロンが言った通り、お互いに敬称(○○さん(・・))なしで呼び合うこととなった。

 一応シャロンがセイのことをセイちゃん(・・・)と敬称付きで呼んでいる件について突っ込んでみたが、シャロン曰く『○○ちゃんとか○○くんだったらフレンドリーだから問題なし!』だそうで半ば無理矢理躱されてしまった。    

 


「では、改めてまして。よろしくお願いします。イオ」



 セイさん――セイも最初は年上の俺の事をゲームの中とは言え、呼び捨てにするなんて出来ないと抵抗していたが、最後は押し切られる形で呼び捨てすることになったが、もう順応し違和感も感じさせず俺の事を呼べていた。



「こちらこそ、セイ」



 でも名前を呼び捨てにすることで仲間っぽさが増した気もする。

 シャロンの提案は悪くなかったのかもしれないな。



「?! イオっ、セイちゃんっ、いたよ!」



 シャロンが声を上げマントをバサッと翻し、背中に背負っていた杖を両手で持ち腕を突き出すように構えた。

 


 俺は最初何のことか分らなかったが、すぐにモンスターのことだと気が付いて背負っていた槍を手に取った。

 三人の呼び方について話し合っていた内に、どうやらモンスターが出現する場所までいつの間にか辿り着いていたみたいだ。

 セイも左手で弓を、右手の指の間に矢を一本ずつ、計三本挟んで持ちいつでも戦闘に入れる態勢を整えている。



「ほら。あそこ」



 杖で指し示す方向を目で辿ると二十メートルほど先に草に見え隠れして青い物がチラチラ見えている。

 そしてその物体の上には《ヴォルフ》という文字と共に赤い色の横線が表示されていた。



「あれは『青ヴォルフ』だね。オオカミ型のモンスターで一番弱い種類だよ」



 付け加えてシャロンが言うには、このヴォルフというモンスターは比較的初心者向けの強さらしい。

 理由はヴォルフは殆どの場合一匹で行動しているため一対一で戦えることと、攻撃手段が実に単調なため予測しやすく戦いやすい相手だからとのこと。



「青ヴォルフ? 他にも色のバリエーションがあるのか?」

 


 シャロンがその辺りの説明をする。

 ベータ版ではヴォルフは赤と青の二種類が確認されていたのだが名前表示がどちらもヴォルフだったため、いつの間にかプレイヤーが名前の頭に青と赤を付けて呼ぶようになったとか。

 そしてこのヴォルフは稀に一色ずつ計二匹で行動していることがあり、その時は巧みな連携攻撃を仕掛けて来るので初心者がソロで対峙するのは若干荷が重いそうだ。

 NPC達にとあるプレイヤー質問したところNPC達も詳しくは知らず、憶測ではあるのだがもしかしたらこのヴォルフの色違いは雄雌の違いであって、二匹で行動しているのは(つがい)なのではないかと言われているらしい。 



「そうなのか……けどあのヴォルフは何をしてるんだ? あれで隠れてるつもりなのか?」



 今更だが、この草原は膝下くらいまでの草が生えている。

 たぶんあのヴォルフは伏せの姿勢を取っているのだろうけど、背中が丸見えであれでは隠れ切れていない。

 俺はシャロンに聞いてみた。



「そうだね。身を隠してこっちの様子を窺ってるんだと思うよ。β版でもあんな風に隠れつつ獲物だったりプレイヤーが近づいたら飛び出して襲いかかってきたから」



 やっぱりあれはこっちに気が付いて隠れていたのか。

 ……正直なところ“頭隠して尻隠さず”だな。

 いや、“頭隠して背中隠さず”の方がこの場合は正解かな。



「けれどシャロン。あのヴォルフと書かれている表示が出てしまっていては、そこに隠れているっていうのが見え見えじゃない? 待ち伏せなんてされるものなの?」



 そう言われてみれば、セイの言う通りだ。

 あんな目立つ目印(表示)があれば隠れていても、ここに○○○ってモンスターがいますよってすぐに見つかってしまうだろう。



「あの表示は本人が相手を認識しないと現れないの。だからもしヴォルフが隠れているのに気が付かったら表示されなくて、そのまま近づくと突然襲われるって訳」



 なるほど。

 今回はシャロンにヴォルフの存在を教えてもらって、その上で隠れている青い背中を見たから表示されたってことか。

 これは今後の索敵とかには注意が必要だな。



「さてと。それじゃあどうしようか。三人でまとめてあのウルフと戦おうか? それとも一人ずつ行く? さっきも言ったけどヴォルフは弱い相手だから、イオとセイちゃんが一人ずつ戦っても多分簡単に勝てるよ」



 どうするとシャロンが俺とセイに聞いてくる。

 


「じゃあまずは一人ずつ戦ってみよう。それで戦闘の感覚を掴んだら、今度は三人で一緒に戦うってのはどうだ?」



 なので俺はこの様に提案してみた。

 まずは様子見、ということだ。

 弱いモンスターと言うことだし初心者の俺とセイにも丁度良いだろう。



「私もそれで構いません。ただ一人ずつ戦う際に、もし危なくなったら他の人が助けに入るようにするのはどうでしょう?」



 セイも反対せず、さらにもしもの場合に備えたバックアップの提案も加えてしてくれた。

 そこまで気が回っていなかったのでありがたい。



「じゃあそれで行こっか。誰から行く?」



 一人ずつ戦ってみるということになると、次はトップバッターは誰が行くかという話になった。

 するとセイが矢を持った方の手を肩くらいの高さまで挙げ、『私からで良いですか?』とトップバッターに自ら立候補した。

 それに俺もシャロンも反対する理由もなく、トップバッターはセイが務めることとなった。



「それじゃあ少し陣形を整えようか」



 セイが真ん中に立ち俺が槍を構えてその横に立って、もしもの場合は前に出てセイを庇えるようにする。

 そしてシャロンが俺とは反対側やや後方で杖を構えていつでも支援出来る様にスタンバイ。

 これで俺達の体勢は整った。



「ヴォルフの攻撃は体当たりと噛み付きだけだから、セイちゃんの場合は近づかれる前に遠距離から弓で仕留めれば問題無いよ」



 シャロンからのアドバイスに『わかりました』と小さな声で答えるセイ。



「じゃあ。――戦闘、開始」



 シャロンのその言葉を皮切りに俺を含め全員の雰囲気が変わった気がした。



「ふぅ……」

 


 ギリ……ギリ……ギリ―――。



 セイは一度深呼吸すると手にした弓に矢を一本つがえ弦を引く。

 横にいる俺の耳には弓がしなる音が聞こえてくる。



「………」



 セイは見てもわかるくらい集中して狙いを定める。

 その真剣さに俺は邪魔しないように声を潜め、固唾を呑んで見守った。



 ―――スゥー……ハァー―――。



 一度ゆっくりと深呼吸をして弓は狙いを修正する動きをピタリと止めた。

 ギリギリと弦が弾かれてしなる音も聞こえなくなる。。

 後は指を離して引いた弦を解き放つだけだ。



「……行きます」



 カヒュンッ!



 そんな小さな風切り音がセイの宣言の直後に響くと共に、ヴォルフ目掛けて矢が一直線に飛んでいった。




お読み頂きありがとうございます。

感想、評価、お気に入り登録、誤字脱字報告などお待ちしております!


ちょっと手間取ってしまって0時に予約投稿出来ませんでした><;



本編は初エンカウント&バトルに突入です!

モンスターの泣き声など入れようか悩みましたが、「グアアア」や「GAAA!」など、泣き声はカタカナ?アルファベット?どっちだろう?と考えた末『泣き声描写なし』にしてみました。

皆様はあった方がいいでしょうか?


次話もよろしくお願いします^^

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