無記名座談会
今回の話は会話文のみで構成されています。
苦手な方はとばして下さい。
「……はあ。とうとうルチルが結婚か……」
「まあまあ。そんなに落ち込まないでください」
「そうじゃ。一気飲みは身体に良くない。というか酒に失礼じゃ、謝れ」
「逆に訊くが、なんでお前らは落ち着いていられるんだ? 結婚だぞ、結婚。好きな相手が他の誰かのものになってしまうんだぞ!」
「今更そのような事を言われましても」
「ルチルとっくに結婚してたし」
「そんなの過去の話だろ!」
「いや、子供もいたし」
「俺の愛はそんな付加条件では左右されない!」
「……もう酔ってるんですか? 今日は一段とピッチが速いですね」
「傷心なんだろう」
「嫌な飲み方じゃな。酒が不味くなりそうじゃ。同席は遠慮したい」
「お前ら冷たい」
「大体な、あいつ、アレク。卑怯じゃないか!? 後からぽっと出て来たくせに、一瞬でルチルの心をかっさらいやがって。そりゃあアレクは素直で可愛い子供だったさ。正直俺だって色々と大目に見ていたくらいだ。だからって、あんなにすぐ成長して大人になることはないだろう! くっそ、今にして思えば油断大敵だった。美形なら何でも許されると思うなよ!」
「あ、だめだ。完全に酔ってる、こいつ」
「彼、結構本気で何回もプロポーズしていたのに、ルチル本人には気付いてすらもらえていませんでしたからねぇ」
「みっともない。己の無能を棚に上げよって……。それ以上魔王様を侮辱するなら斬る」
「まあまあ」
「落ち着け。どうどう」
「そういえばお前はどうなんだよ? 魔王の子が欲しかったんだろう」
「ルチルがいる間は無理じゃと思うておるから、まあ暫くは静観かの」
「うっ、ぐすっ、心の友よ……!」
「ええい、寄るな鬱陶しい。不甲斐無い貴様と一緒にされては不快じゃ。妾は地道に魔王様に取り入っておいて、100年後くらいに再挑戦する心づもりなのだからな」
「何その執念……長期遠大計画過ぎて怖い」
「え、こういうのストーカーって言うんじゃ……」
「警邏騎士さんコイツです」
「……っく、何だよいつも一人だけ涼しい顔しやがってよぉ。お前はいいのかよ、ルチルが本当に再婚しちゃっても」
「からみ酒ですか、鬱陶しいですね」
「人妻……ルチルが人妻に……うわ、なんか響きがエロ……」
「それ以上言うと通報しますよ」
「すみません出来心でした海よりも深く反省しています酔っぱらいの戯言です許して下さい」
「お前本当に酒癖悪いな」
「ところで、おぬしは動じていないようじゃが。もとより恋愛関係への発展を切望してはおらなんだな。職業柄遠慮しているのか? それとも根本的に枯れておるのか?」
「恋愛など所詮、一時の感情の盛り上がりでしかありませんよ。私が目指すのは生涯にわたって続く尊敬と友愛と相互理解。ふふ、最後に勝つのは私です」
「何それ怖い」
「いいのか、オイ。顔には出ぬが、おぬし意外に酔っておるじゃろう。ひた隠しにしていた腹黒さがうっかり露呈されちゃってるぞ」
「『酒は飲んでも飲まれるな』―――深い言葉だ……」
「ホラ、付き合え、付き合えよ! 今日は飲むぞ、とことん飲んでやる」
「ウザい、酒臭い、暑苦しい、近寄るな」
「何だよ~邪険にするなよ~失恋仲間だろ~」
「勝手に仲間呼ばわりするな。そもそも僕は『失恋』などしていない。ルチルが結婚しようとしていまいと、僕の気持ちは変わらない。彼女に出会えた、それだけでいいんだ。僕がこの恋を失う事など一生無いね」
「ピュアだ、ピュアっ子がいる……!」
「貴様そんなキャラだったのか。さてはDTこじらせたな」
「貴方、酔うと正直になるんですね。ただの残念なツンデレかと思っていましたよ」
「……よし、お前らが僕をどんな風に思っていたのかよく分かった。取り敢えず全員そこに正座だ」
「……ぐ……ぐご…………ぐがが……」
「ああ、酔いつぶれて寝てしまったか」
「これでも騎士団で一番人気のある独身者なんですけどね」
「この酷い有様からは想像もつかぬな」
「それでも、ルチルとアレクの結婚祝いを考えるぞ! と言って我々に招集をかけるあたりが彼のいい所なんですよね」
「後半は単なる愚痴の羅列になってたけどな」
「彼も心中複雑なんですよ。まあ生暖かい目で見てあげましょう」
「生……」
「じゃあ結婚祝いは先刻話した通りで準備していいんだな?」
「そうですね、良いのではないでしょうか」
「ではそれでいこう」
「一肌脱ぐか」
「ルチルにもアレクにも。大事な人には、やはり幸せになってほしいですからね」
ちなみに発言者は
オブシディアン、ヘリオドール、パパラチア、ルーベライトでした。
どれが誰の科白かはご想像にお任せします。