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魔王と奏でるセレナーデ  作者: ひめきち
番外編(オブリガート)
33/38

結婚報告1

●オニキスの場合●


 「いや、それとこれとは別でしょう」

 息子は至極真面目な顔でそう言いました。


 時間は夜、場所は息子夫婦の新居――とは言っても、村長様所有の古い納屋を改造して頂いた建物です。ベッドと小さめのテーブル、椅子ぐらいしか家具の無いここは、若い夫婦の寝室になっています。日中は外で働き、村長様のお宅で食事や入浴等を済ませて、同じ敷地内にあるこちらには眠るために戻ってくる生活なのだそうです。息子夫婦の帰宅時間に合わせて、私とアレクは今、こっそりと訪問しています。新婚家庭にお邪魔するには少々気の引ける時間帯ではありましたが、村長様ご夫婦や村の皆さん方にアレクの姿を見られないように会う為には、他に選択肢が無かったのです。


 「確かに刺したのはオレだし、それは謝るけど。うん。あの時は本当にすまないことをした。全快してくれたみたいで本当に良かったよ。……でもそれと、二人の結婚を許すかどうかは、全く別の問題だよね?」


 「本当はお前の許可など要らないんだが。ルチルが気にするのでな」


 あ。アレクの口調が、『魔王』仕様になっています。息子とアレクとの間に見えない火花が散っているような気がしますね……。


 対面した時からアレクの角に視線が釘付けになっていた息子のお嫁さんが、目の前で繰り広げられる喧嘩腰な会話に戸惑ってか、こっそり私の方を窺ってきます。

 大丈夫です。この二人の仲が悪いのは前からですからね!

 私は彼女を安心させられるよう、にっこりしてみました。すると彼女の方も少しだけ緊張がほぐれたようです。

 うん。さすがに村長様の娘さんは気丈ですね。最初にアレクがフードを脱いで魔族であることを露わにした時も、驚いて叫びだしたりしませんでしたし。息子の選んだ女性なだけのことはあります。というかもう彼女、私の娘でもあるんですよね。てへへ。なんだか照れますね。息子だけではなく娘まで持てる日が来るなんて、夢のようです。


 「ルチルの気持ちは確認した。これは相談ではなく、報告だ。我々は結婚する。お前には大きな貸しがあるが、ルチルの息子という事に免じて不問にしておいてやる。だから黙って肯いておけ」

 どこか憮然とした態度のアレク。でも、その手は、隣に立つ私の手をしっかりと握っているのです。この小屋に入る前からずっとです。

 成長して立派な青年になった人(魔王ですが)相手にこのような感想を持つのはどうかとも思うのですが……ふふ、可愛いなあ、もう。

 「母さん……?」

 息子が、アレクの言葉の真偽を確かめるように、私の顔を見ます。私は、気持ちを込めて肯きました。

 私がアレクを、愛しく想っている事。私がアレクから、愛しく想われている事。

 どうか、息子に、伝わりますように。


 「オニキス」

 息子の肩に手を置いて、新妻がそっと呼び掛けます。息子は彼女の手に自らの掌を添えて、落ち着きを取り戻そうと、息を吐きました。

 「……一つだけはっきりさせておきたいんだけど」

 息子が、私達二人の方をきつく睨みつけました。何を訊かれるのでしょう。私は思わず、唾を飲み込みます。

 

 「そもそも魔王、何でオレより年上になってるの? 前回会った時は同い年くらいだったよね? おかしくない?」

 

 え!? こだわる所、そこ――!?




●パパラチアの場合●


 「来たぞルチル!!」


 バァン、と勢いよく玄関の扉が開かれました。


 「まあ、パパラチア。随分と早かったのね、会えて嬉しいわ」

 思っていたより早い到着に、私は驚いてしまいました。

 ……扉が壊れていないかどうか気になりますが。


 「すぐ逢いたいって手紙に書いてたから飛んでき――いや、何でもない。……だ、大事な話って何だ?」

 よほど急いで来て下さったのでしょうか、黒魔導師様、なんだか頬が赤いです。


 「ええ、あのね。少し恥ずかしいのだけど実は……結婚、しようと思って」

 「! と、唐突だな……!!」

 「やっぱりいきなりで迷惑だったかしら?」

 「いや。ぼ、僕なら、構わないぞ!!」

 「本当? 有難う! パパラチアには色々とお願いしたい事があるの!」

 「そうだろうそうだろう。何でも言え、叶えてやる。むしろよく僕を選んだな! お前にもようやく見る目が備わったという事だな!」


 黒魔導師様の言葉に、私は胸が熱くなりました。

 王都と辺境のキトサ村―――遠く離れていても、一度培った友情は消えないのですね……! 分かりにくかったですけれど、黒魔導師様はちゃんと私の事を仲間だと思って下さっていたのですね……!


 「ルチル……」

 黒魔導師様が私の両手を握ってきます。あんなに私に触れる事を嫌がっていましたのに、これはあれですね! 祝福! おめでとうの気持ちの籠められた握手なのですね!

 「パパラチア」

 私も感激して強く手を握り返します。私達は目と目を見交わします。黒魔導師様と私が、かつてこれほど近くにいて平静な状態を保っていたことがあったでしょうか。

 どうしましょう、嬉しい。黒魔導師様の熱い視線に友情を感じます。私、やっと彼に友人認定されてもらえたのですね……!

 さあここは、友人を信頼して悩みを打ち明ける所です。


 「あのね、パパラチア。報告がてら王都の皆に会いに行きたいのだけれど、どうしたってアレクの容貌が目立ってしまうでしょう? 人目に触れずに移動するにはどうしたらいいかしら」

 「……ん? 何故ここでアレクが関係するんだ?」


 「それは相手が僕だからだよ」


 屋根裏部屋からアレクが降りてきて、黒魔導師様に挨拶をしました。さりげなく私は肩を抱かれてアレクの隣へ。あ、友情の熱い握手が離れてしまいました。

 「ラチア、久し振り。相変わらずだね」

 「……!!」

 キトサ村にいるはずのないアレクの登場に、黒魔導師様が指を指し、目を剥いています。

 成長したアレクの姿に驚いているのでしょうか。まあ、それも当然です。別れた時15~6歳くらいの少年だったアレクが、今ではご自分と同じくらいの年齢の青年になっているのですものね。


 「治ったのか、アレク! いやしかし、何故ルチルの家に……って、え? 結婚相手って……えええ!?」

 「そう、ごめんね、ラチア。ルチルと結婚するのは僕なんだ」


 ? なんでアレクが謝っているのでしょうか?


 きょとんとする私と、その肩を抱いて寄り添い立つアレク。

 黒魔導師様は私達二人を眺めながら口をパクパクさせていましたが、しばらくしてから、

 「……はぁ――――っ……」

 と、長い長い溜息を吐かれました。そして、

 「だよな、そんな旨い話、ある訳ないと思ったんだ……。いや、いい……いいさ、もう何でも」

 ぶつぶつ独り言を言ったかと思うと、なんだか涙目でこう宣言されました。

 「分かった、協力してやる! 僕がいなくては困るだろうからな!!」


 「有難う、パパラチア……!」

 「ラチア、感謝する」

 私とアレクは黒魔導師様に左右から抱き着きました。

 「わ、こら、やめんか二人とも!!」

 顔を真っ赤にして私達の抱擁から逃れ出た黒魔導師様は、そこでいきなりアレクに向かって憎々しげな顔を向けたのです。


 「というかアレク、今気が付いたけど、何で僕より身長高くなってるんだ!? ちくしょう、それだけは絶対に許さん!!」


 こだわる所、そこですか――!?

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