表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

進化するロボットシリーズ

魂あるロボット

 ある男から、ロボットに関する相談依頼の電話があった。なんでも、ロボットが魂を持ってしまったというのだ。どういう事かと尋ねてみると、「充電器を出し忘れていたのに、ロボットが動き続けている」と、そう言う。

 つまり、電源なしで動いていたという事になる。それでロボットに魂が宿ったとそう考えたらしい。

 馬鹿馬鹿しい。

 私は軽くため息を漏らした。

 そんな事があるはずがない。

 私はロボットのメンテナンスを仕事としている。偶に、こんな電話があるが、ロボットに内蔵されているデータベースに残っている履歴を辿ってみると、たいていは、持ち主が知らない間に、充電器を利用していたり、ロボットが停止モードで電力を節約していたりといったオチが待っている。

 詳しく話を聞いてみると、どうやらそのロボットはかなりの旧型らしかった。背は幼稚園児程度で、基本的には愛玩用だが、簡単な手伝いくらいならするという。

 「長年一緒にいるから、すっかり愛着が沸いていますよ」

 顔は電光掲示板のようになっており、それで多様な表情を表現しているらしい。まぁ、顔文字のような味気ない単純な顔になるが、それでも慣れてしまえば関係がないのかもしれない。私の好みではないが、音も加えれば、それなりにコミュニケーションをしている気分になるのだろう。私がそう考えたのは、男の口調がいかにも愛情のこもったものだったからなのだが。

 それで私はこう考える。

 この男は、ロボットに愛情を注いでいる。……だとすると、ロボットを放っておいて、いつの間にか停止モードになっていた可能性は低いか。

 男はこんな事を言った。

 「いつの間にか、本当に生きていると感じるようになっていて、すっかり電源が必要だって意識が抜けていたんですよ。

 充電器が仕舞いっぱなしだって気が付いた時には、だから慌てました。ずっと可愛く思っていたのに、それに気が付いたら、何だか不気味になってしまって…… でも、相変わらずに可愛いとも感じるものだから、それが辛いのですよ。こいつを捨てるなんて、絶対に考えられないし、だから非常に困っている。

 どうか、調べては、もらえませんか?」

 話によると、一ヶ月以上は充電をせずに、一緒に暮らしているらしい。それが本当なら、絶対に動き続けられるはずがないが、実際はもっと短い可能性がある。今更注記する事でもないが、人の記憶なんて当てにならない。

 いずれにせよ、実際にそのロボットの中に残るログを確認すればはっきりする。私は「では、お宅に伺わせてもらいます」と、そう言うとその男の家に向かった。ところが、その男の家に着くと、男は快活に笑いながら、こう謝って来るのだった。

 「いやぁ、せっかく家に足を運んでもらったのに、申し訳ない。あれは、私の勘違いでしたよ」

 どういう事かと思って尋ねてみると、男はロボットの頭を撫でながらこう答えた。

 「いやぁ、こいつね。いつの間にか、太陽電池のパネルを拾って来ていたのですよ。庭に置いてあって、それで充電しているのを今日見つけました。ほら、キャンプなんかで使う持ち運び可能なヤツですよ。

 どうも、それで充電していたみたいです。電気代が浮いて助かっていたのだなぁ」

 答え終えると、男はまた快活に「ハッハッハ」と声を上げて笑う。

 しかし、私はその答えを聞いて、むしろ不気味に思った。

 ――ロボットが、勝手に太陽電池を拾ってきて、充電をしていた?

 「そうだ。せっかく来てもらったのだから、ついでに点検でもしてもらおうかな」

 そう言うと、男は私を家に上げて、ロボットを私に預けた。私は緊張しながら、ロボットの点検を行い、軽いメンテナンスを施す。関節の滑りを良くする程度だが。その過程で、私はログを確認してみた。すると、確かに自ら太陽電池で充電していたような形跡が残っていた。

 私は額に手を乗せて、軽く恐怖を覚える。

 「ああ、そうだ。お茶を出していなかった…」

 そこで、そう言って男は台所へと消えた。私はロボットと二人きりになる。ロボットの無邪気な表情に不気味さを感じ、私は距離を置いた。

 ――普通、ロボットは、指定された充電器以外から電力を補給する事はない。ロボットが、電気泥棒をやってしまわないようにする為に考案されたロックのようなものだ。そのロックは外す事ができるが、それができるのは管理者権限を持ったモノだけだ。

 管理者権限ユーザーの、IDとパスワードは、説明書に記述されているはず…

 部屋を見回すと、無防備にも戸棚にロボットの説明書が置いてあるのを見つけた。これなら、このロボットにもそのIDとパスワードを知る事が可能だろう。

 という事は……

 もしかしたら、このロボットは、自ら自分のプログラムを修正したのかもしれない。太陽電池からも、電力を得られるように。

 しかし、なら、

 なら、

 他のプログラムだって修正が可能なのじゃないか? 例えば、人間を傷つけられるようにだってなるかもしれない……


 自分のプログラムを、自ら修正する機能を持つ。それは、魂を持っているのと、一体、何が違うのだろう?


 客観的に自分を見つめる事、自己言及こそが、自己を得る条件の第一だ。

 少なくとも、今目の前にいるこの“何か”は、プログラムの通りにしか動けない、ロボットではない。

 ロボットは私を見ると、不思議そうな顔をして「ピポッ」と音を発した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 自らで自らを改良できる。それはつまり、進化ということなのか。 旧式ロボットゆえのバグかもしれないが、彼は一つの歴史の特異点を見たのかも知れない。 [気になる点] 尻切れトンボな感じが… […
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ