頑張りすぎる私
職場に着くと、ナース服に着替える。
白衣の天使?
何が白衣の天使といいますか。私は看護師を白衣の天使だとは思わない。この仕事、気が強くなければやっていけない。
ナースステーションに渦巻くのは理不尽の嵐。
嫌味と文句と陰口の嵐が吹き荒れる。
ちなみに、陰口は当人の耳に届くが、内容が聞こえないように言うのがポイントらしい。私も新人時代には随分苦しめられたものだ。
けれども、そんなの関係ない。今や、私は病棟を回す手腕の一人。元来の気の強さと負けず嫌いさ、そして要領の良さで、同期が脱落する中新人時代を生き抜き、この白が満ちる嵐の中で戦い抜いてきたのだから。何を言われても笑顔でかわす。どの派閥にも入ることなく、まっすぐに生きる。何があろうと、仕事が出来れば文句を言われない世界。医師に取り入ることもなく、患者様に尽くして仕事を回す。技術を磨く。愛想よく、それでも媚びない。
「吉浦さんがいないと、病棟が回らないわね」
なんて師長からお褒めの言葉をいただくほど。
私が働く西2病棟は、脳外科病棟の一つだ。ここに入院しているのは、脳出血や脳梗塞を患った方々。重症の方には、治療と同時に介護が必要となる。そして、病棟には認知症の方も多い。介護保険分野では、身体抑制は禁止されているけれども、医療分野では関係ない。
徘徊予防のために、センサーを付けて、ベッドから離れた途端、ナースステーションでアラームが鳴るようにする。
ルート(点滴)の自己抜去予防のために、ミトン(手袋)をつけて、暴れる患者にはベッド柵に手足をくくる。
虐待?
何をおっしゃいます。命を守るためでございますよ。ご家族様にも同意をいただいております。
それでも、心にひっかかるものは消えない。
どうせ、一人で暇だしね。
家に待っている人なんていないしね。
飲み会の約束なんてないしね。
勤務時間は夕方五時までだけれども、記録などをしていると六時を過ぎるのは当然。六時になれば、夕食が運ばれるから。
――食介(食事介助)でもして帰ろうかな。
なんて、ご飯を食べられない患者様の手伝いをしていると、次に呼び止められる。
「吉浦さん、吉浦さん」
なんてご指名で呼ばれると無視出来ない。
くだらない世間話を聞いて、時間が経つ。
なんだかんだで九時を過ぎていく。
疲れているから、帰りがけに弁当を買って、まっすぐ家に帰って、風呂に入って、ご飯を食べて、そのままベッドへ直行する。それが繰り返される毎日。
これが入職五年目。新人時代のころのような熱意は無いけれど、なぜか止められない。それがケアにつながるのなら、それでもいいかな。って思ってしまう。
頑張りたくなんてない。
でも、してしまうのだから、仕方ない。
これが、頑張りすぎる私。
この物語はあくまでフィクションです。実際の病院と異なる場合はごめんなさい(^_^;)