コンプレックスのある私
TQMのまとめが一段落ついて、私と菊野は居酒屋にいた。ビールを飲みながら、鍋を食べていた。
「だって、寒いっしょ」
そんな菊野の一言だ。ビールの次は熱燗へと続く。結局、菊野も私も酒飲みなのだ。
菊野は鍋を食べながら、鍋奉行を発揮していた。
「鍋とかなかなか食べないからな。そういえば、吉浦さんは家族多いの?」
聞かれてハッとした。そんな世間話、私は菊野としたことがなかった。
「姉と妹がいるけど」
「へえ、何してるの?」
菊野は遠慮なく、私のコンプレックスをつつく。
「二人とも結婚して、主婦しているよ」
私の返答に何の興味も抱かないだろう菊野は、鍋をかき回していた。
「じゃあ、中の妹、頑張って仕事しているんだね。はい、器こっちに渡しなっせ」
菊野は私の器を取ると鍋を入れて、空いたグラスを下げて机の上を片付けた。
「姉ちゃんと妹、可愛いからね」
私が言うと、菊野は笑った。
「お前も可愛い方だろ」
菊野の前には熱燗の徳利が空いている。かなり出来上がってきているのは事実だ。
「そうかな。私はコンプレックスの塊。姉ちゃんと妹が立派な旦那さんもらって、とっとと専業主婦になったから。羨ましいよ」
出来上がりつつある菊野に対し、私はそんなことを言っていた。
「そりゃあ、逆もあるだろ。意外と姉ちゃんと妹もコンプレックスあるかもよ。姉ちゃんは妹コンプレックス。妹は姉ちゃんコンプレックスみたいな。――まだ、飲むか?」
言って菊野は次の熱燗を注文する。
「じゃあ、菊野さんの兄弟は?」
尋ねると菊野は笑った。
「俺、一人っ子。だから帰ってきたの。もう、年だからな」
確かに菊野は私より六歳年上だ。話のかみ合わないところもある。
姉と妹に対するコンプレックス。それは、先に結婚したこと。親の期待に応えたこと。私は、家族が大好きだから、家族から不要とされることが辛いのだ。それが辛くて、実家にも帰れない。
そんな私に対して、姉と妹がコンプレックスを抱くなんて思えない。けれども、菊野の言葉を聞いて、嬉しく思うのだ。
これが、コンプレックスのある私。




