壊れた剣
友達が帰り、ひとりになった
『変な気起こすなよ』
彼が帰り際に吐いた台詞を頭で流しながら、茜が差し込む窓を背に、わずかに鉄の香りが漂う部屋をぼーっと眺める
「汚い部屋だな」
汚いことが嫌になって、部屋の片付けを始めた
クローゼットの奥からオモチャの剣を見つけた
なんにも斬れそうもない
台所にあるリンゴにも負けそうな剣
握りしめると自分のもののようにしっかりと手に収まった。
なにも斬れないなら
そう思い、慣れない構えで鞘から抜き取り、片付けたゴミを斬る
なにも斬れないなら
そう思い、慣れない足取りで硬いものを斬る
なにも斬れないなら
そう思い、時代役者のように似非自殺をする
狂ったように剣を持ち、無邪気に振り回す
流石オモチャの剣、たちまち壊れて斬れなくなった
僕は今笑みを浮かべているような気がした
なんで笑ってるのかわからない
クスクスと。
僕は笑う。
玄関のほうから扉の開く音がして、僕の顔は無になった
母親が買い物から帰ってきて驚愕と困惑を浮かべる
「どうしたの…」
僕には顔がある。
僕には耳があり、僕には目がある
僕にはなにも聞こえない、僕の目にはなにが映る?
僕が荒らした部屋
壊れた剣
電池の切れた時計
時間を告げない時計はただの置物だった
誰の物かわからない物が散乱する部屋の壁は殺風景で、時計だけがあった
手を伸ばせば時計に届いた
時間を告げない時計は不気味で
透明な時計のガラスに映る自分の顔が嫌いだった
「ねぇ、どうしたの…」
ドア越しに聞こえる音が不快で僕は音にゴミを投げた
扉が開き、濁った光が入る
やめろ、入るな、そんな目で見るな
――君の目にはなにが映る?
壊れた剣を持った壊れた少年
止まった時計を持った止まった少年
荒らされた部屋と荒らした少年
君は何を思い、僕をどう思う?
怖い?おかしい?楽しそう?
僕はどう思ってほしいんだ?
僕は誰になにを思われ、次は君になにを思われる?
自問他答他問自答自問自答他問他答
僕が僕に問いかけてる間に、誰かが答えを出す
誰かは僕に問いかけ、僕の答えを誘導する
僕は僕に問いかけ、自分の答えを出す
誰かは僕の答えを直し、自分の答えを推す
もうだれかに指揮を取られるのが嫌で
僕は自分の答えが嫌で
嫌で嫌で仕方なくて
気付けばなにもかもが嫌で
壊すのが好きで
いつしかそんな自分が大嫌いで
壊れるのが好きで
いつしかそんな自分が大好きで
君はなにを見る?
僕はなにを見る?
君は夢を見てる
僕は夢を見たい
君はなにを見たい?
――そうか、そりゃあいいね。
僕はなにを見たい?
――そうか、それはダメだ
否定されるのが怖くて
人と接す(はなす)のが嫌で
僕は1人が好きになった
僕は僕を認めてくれる
狂った僕でも、壊れた僕でも認めてくれる
僕は――
僕はそんな僕が大嫌いだ
次で完結です