98.受難 その2
次の日の朝。
「リコ、ガーゼ換えるの手伝ってくれるか?」
慎也は朝食の支度中だったリコを呼び出した。
「血は止まったみたいだし、病院でもらったので換えて」
慎也に言われ、リコは恐る恐る頬のガーゼを剥がした。
幸い傷は浅く縫う迄はいかなかったが、中からは一文字に切れた傷口がくっきりと現れた。
「これ…」
リコは思わず聞いた。
しばらく慎也は俯いて黙っていたが、やがて観念したように苦笑いを浮かべた。「やっぱ、いづれバレるよな…」
「…」
生々しい傷痕が、慎也の美しい顔にはっきりと刻まれていた。
「『ザップ』で…?」
リコの問いに慎也は静かに頷いた。
「仙崎にやられた…」
リコは剥がしたガーゼを強く握りしめた。
仙崎の、あの冷酷な微笑が脳裏に蘇ってきた。
自分の所為で、彼はこんな目に遭ってしまったのか…。
リコは何も言えず、ただ涙だけがこぼれた。
「私の…所為で…」
泣き出したリコに気が付いた慎也は咄嗟にリコを抱き締めた。
「リコの所為じゃない!自分を責めるのはやめろ!」
「でも…!」
「悪いのは俺なんだ…!俺の過去の所為でリコを巻き込んじまったから…」
「…」
「俺は、リコがいつ俺から離れても仕方ないと思ってた……けど、お前はずっと俺の傍に居てくれた…」
「慎也…」
「俺は、自分が傷ついてもお前を離したくない…!だから、何処にも行かないでくれ!」
慎也は更に強くリコを抱き締めた。
激し過ぎる慎也の自分への愛…。
リコはそれに報いてあげることが出来ない自分がもどかしかった。
ただただ、涙がとめどなく溢れるだけだった。
「何処へも行くわけないじゃない」
リコは泣きながら、自嘲するように笑った。
「リコ…」
「だって、私のお腹には慎也の子がいるんだよ?」
そう言うとリコは慎也の手を取り、自分の腹部へ当てた。
慎也の顔は少しだけ安堵の表情になった。
「私は、貴方にこんなにも愛されて本当に幸せだと思う」
「リコ……」
「私とこの子を、ちゃんと守って欲しい。それと、慎也自身も自分をちゃんと守って」
慎也はリコを見つめ、力強く頷いた。
そして、どちらからとなく口づけを交わした。
離れたくないという想いが互いの唇を熱く求め合った。




