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RISKY―傷だらけの十字架―  作者: 桜井敦子
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96.布告 その6

飲食店やカラオケ、飲み屋が並ぶギラギラしたネオン街。



喧騒騒がしい繁華街を、慎也は一人人混みを縫って指定されたクラブハウスへと向かった。



今思えば、ここはリコと初めて出会った場所だった。


あの時リコが絡まれていたのは、慎也から見れば興和会の下っぱのガキ共に過ぎなかった。



だが今日の相手は違う…。


関東興和会の若き幹部クラスと言って良いだろう。



狡猾で執拗、恐らく会えばまともには帰れない。



だが、慎也はそれを全て承知でクラブハウス『ザップ』へと乗り込んだ。



薄暗い店内に入ると、むせ返るようなよどんだ空気が室内を支配していた。



煙草の煙の臭い、もあるが鼻をツンと刺すような臭いもあり、恐らくは脱法ドラッグ、もしかすると違法薬物の臭いかもしれない。



そんないかがわしい室内にはヒップホップが流れ、髪を派手に染め、耳や顔、身体に無数のピアスしたり、身体中刺青を入れたりといかがわしい雰囲気の客達であふれかえっていた。



慎也はホールで気だるく踊る連中には目もくれず、ホールの真ん中を縫って通り過ぎようとした。



慎也の異様な雰囲気に、客達が不愉快そうな視線を送った。



「アイツ、尾藤じゃねえ?」昔の悪仲間から良く知られていた慎也だったので、彼を知るチンピラや半グレも少なくはなかった。

「仙崎と決別した筈じゃなかったのか?」


慎也はそんな噂話には一切耳を貸さず、真っ直ぐにカウンターにいる男の元に向かった。



カウンターの男、仙崎は仲間の男と一緒に座って背中を向けている。


仙崎は慎也に気が付くと、ゆっくりとカウンターチェアを後ろへ向け、予め想定していたかのように、余裕の表情で慎也を迎えた。



「予想通り、ツラ見せに来たか…」

仙崎は口の端を歪め、サングラス越しに鋭い目付きで慎也を見つめた。



慎也も同じく鋭い目線で仙崎を睨み付けた。



「リコに近づいたのか…?」

怒気を込めて慎也は仙崎に問い詰めた。



仙崎は余裕の表情で慎也に薄笑いを浮かべた。



「お前の女…なかなかだったな…あのまま返すのは勿体ないくらいだったぜ……」

仙崎はそう言うと、ショットグラスを口に近付け、グラスの端のレモンを意味深げに舌でなぞった。



慎也は仙崎の意図を敏感に感じ取り、背筋が凍った。

拳を強く握りしめると、更に鋭く睨み付けた。


「リコに何かしたらただじゃおかねえからな!」


「取り引きしよう」

仙崎は今にも爆発しそうな慎也を目の前に、涼しげな表情で言った。


店内をヒップホップが相変わらず低く気だるく流れている。


「お前が興和会に入るなら、あの女には手出ししねえ」


慎也は仙崎の条件に耳を疑った。



自分が今さらヤクザの仲間入りなど出来る筈がない。


「それが出来ねえってゆんなら……」

仙崎はそこまで言うと、グラスを置いた。


そして挟んでいたレモンを持ち上げると、背広のポケットからジャックナイフを取り出した。


ナイフとレモンを慎也の前にちらつかせると、一気にナイフにレモンを突き刺した。



慎也が更に怒りに震える顔を愉快そうに見つめながら、仙崎は言った。

「あの女と腹のガキは無事で済むと思うなよ…?」


そういうとニヤリと口の端でほくそ笑んだ。



慎也は今にも掴みかかりそうになるのを必死で抑えた。

唇を噛みしめしばらく俯いて黙った。



店内の喧騒とは裏腹に緊張した沈黙が間を支配した。


やがて唇の緊張を解き、ゆっくりと顔を上げてもう一度仙崎を睨み付けると、慎也はきっぱりと言い放った。


「どっちも、断る…!」


「んだと?ふざけてんのか!?」

仙崎の傍らの仲間がやおら立ち上がり、慎也の胸ぐらを掴もうとした。


仙崎は仲間の男をゆっくりと手で制した。


その顔からは笑みは消えていた。

その代わりの無表情さは、むしろ恐怖心を与えるのに十分だった。


慎也はなおも鋭く仙崎を睨み据えた。



「どっちも…?」

仙崎は小さく呟きながら、ゆっくりと慎也に近づいた。



「そんなガキみたいに都合良くウチが許すはずないだろ?」

仙崎はわざと1オクターブほど高い声で小さく慎也に言った。



普通なら恐怖心に足がすくむような仙崎の態度に、慎也は動じない。



「俺は何からも逃げない…リコを守るために…」

仙崎に向かって慎也ははっきり告げた。



「ほう…」

仙崎は感心したように言った。


「ここでおままごとが通じる筈ねえだろ?」

仙崎が柔らかい口調で、慎也を諭すように言った次の瞬間。



ビュッと鋭く風をきる甲高い音がすると同時に慎也の顔が横に向いた。



仙崎の右手には鋭利なジャックナイフが握られていた。


騒動に気付いた客から悲鳴が上がった。



横に向けた慎也の左頬は斜め一文字切れ、そこから徐々に鮮血が頬を流れ落ちた。



一瞬の出来事に驚いた表情になった慎也は、事態を把握すると、ゆっくりと仙崎の方に顔を戻した。



「戦線布告だな…」

仙崎がサングラスの奥から冷たい目で慎也を見下した。



慎也も左頬に血を滴らせながら、上目遣いに仙崎を睨み付けた。





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