93.布告 その3
「ただいま」
リコよりも1時間ほど遅れて慎也が疲れ切った顔をして帰って来た。
「お帰りなさい。今日ごめん、メールの返信なかったから、夕飯買ってきちゃった。ご飯とか匂いがダメになっちゃって」
「ああ、いいよ」
優しさはあるが、慎也の返答はどこか普段の力がなかった。
彼の疲れ切って元気のない様子は、リコにはすぐ分かった。
「何かあった…?」
買って来た物を袋から出しながら、リコは尋ねた。
「仕事で、伝票ミスでしくじってつけ上げ食ってさ…」
慎也はハアッとため息を突くと前髪を掻き上げた。
端的な答えだったが、落ち込み方は並みではなかった。
プライドの高い慎也のこと、つまらないミスで痛い思いをしたのだとリコは感づいた。
「いくら出来る慎也だって失敗する時だってあるよ。今日はゆっくり休んで、明日からまた頑張ればいいじゃない」
リコは慎也を元気づけようと、わざと明るく言った。
慎也はそれには答えず、リコの背後に回ると、背中から抱き締めた。
「慎也…?」
リコが名前を呼ぶと、抱き締めた腕に更に力を入れた。
「リコ…またこの前の夜みたいに、抱いて欲しい…」自分の耳元で囁く慎也の言葉にリコは驚いた。
「え…?」
「一度してくれたから大丈夫だよな?…特に、アソコ、しゃぶって欲しいんだけど…」
慎也は更に吐息混じりの声でねだって来た。
先日愛撫に感じる慎也の表情を思い出し、リコは身体中が熱くなるのを抑えられなかった。
今どきの男女間において、フェラチオなんて珍しくもないが。
「でも、今日は体調悪くて上手く出来るか…」
「それなら、俺が裸でオナニーしているのを見てくれているだけでもいい…」
ためらうリコに慎也は即答した。
「それで今日の嫌なこと、忘れたい…」
「じゃあ…」
少し考えてから、リコが答えた。
「出来そうなら、してみる。そしたら、その時の慎也の顔と身体をよく見せて…」
「え…?」
慎也は少し驚いた顔をした。
「私だって慎也を男として味わいたい…」
言われてみれば妙に納得してしまう。
夫婦恋人間で性的なことを出し惜しみするのは全く意味がないことである。
性的な感情のない男女関係に何の意味があるだろうか?
慎也はゆっくりと、恥ずかしそうに頷いた。
「分かった…」
寝室のダブルベッドでは慎也が全裸で枕を背もたれに寝そべる形に横たわった。
恥ずかしそうに目を閉じる慎也にリコは口付けをした。
それが、始まりの合図であった。
唇や指で慎也の身体を愛撫し、リコは彼の表情を見つめた。
身を捩り、感じて喘ぐと胸元のクロスのネックレスが妖しく輝いた。
下に降りたリコの指と唇は、彼の最も敏感な部分に近づいて来た。
直接は触れずに指で内腿をなぞり、リコは懇願した。
「脚、開いてくれる?」
「え?」
吐息混じりに聞く慎也にリコは続けた。
「どうせしゃぶるなら、脚開いてくれた方が興奮するから」
リコの言葉に慎也は驚きを隠せなかった。
「お前って見た目に似合わず、結構スケベだな」
「私は自分の気持ちに嘘つかないって決めたから」
「じゃあ…」
慎也は少し恥ずかしそうにしながらも、ゆっくりと脚を広げてくれた。
リコは開いた脚を更に手で押し広げると、口に含んだ。
「あ…ん…っ!」
慎也は軽く悲鳴を上げた。だが、その後は快楽の波が彼を襲った。
「恥ずかしいけど…興奮する…」
目にうっすら涙を滲ませ、喘ぎながら、恥ずかしい格好でリコにされることが慎也は気持ち良かった。
これで今日の嫌なことは忘れられる…。
リコは、慎也が自分の恥ずかしいところも惜し気なく曝け出してくれるところが嬉しかった。
「リコ…愛してる…!」
もう二人の間にわだかまりもためらいもなく、全てから解放されていた。




