89.苦悩 その7
「せっかくだから今日は久しぶりにどこかに食べに行こうか?これからリコは大変だと思うけど、やっぱり家族が増えるのは嬉しいし」
「いいよ。今日は家に帰りたい気分」
帰路に着く途中やや上機嫌の慎也に対してリコは浮かない表情だった。
「そうか、じゃあリコが前に言っていたテイクアウトの美味い店で夕飯買って行こうか。リコはいつもきちんと料理作ってくれるし、今日くらいは息抜きしろよ」
車は横浜みなとみらい地区にある大型ショッピングセンターの巨大駐車場へと入って行った。
車窓からショッピングセンターの外壁に設置されたオーロラビジョンの前を通ると、外国人の男女のモノクロのラブシーンが映し出されていた。
海外ブランドの高級香水のCMのようだった。
抑えたトーンで品が良くまとまってはいたが、男性は引き締まった上半身あらわな、やや刺激的な映像だった。
そんな映像に思わず惹き付けられてしまったリコに、運転中の慎也に悟られなかったことに、リコはホッと胸を撫で下ろした。
ふと運転席の慎也を見やった。
白いワイシャツにカジュアルな黒いスラックスと慎也らしいモノトーンの格好であった。ワイシャツの胸元はかなり深く開けていて、そこからリコがプレゼントしたクロスのネックレスが肌身からキラリと光っていた。
本人はいつものスタイルで意識していないのかもしれないが、リコには妙に刺激的だった。
「胸元、開きすぎじゃない?」
「え?」
聞き返した慎也にリコは答えず、赤面した頬を悟られないようにそっと髪で隠して車窓の方へ顔を向けた。
いつもと様子の違うリコに慎也は感付いていた。




