84.苦悩 その2
「ただいま」
夜9時過ぎ、ようやく慎也が帰って来た。
日曜日早目の出勤の時はお店も早目に上がるのだが、今日に限って遅い帰宅だった。
「遅かったね。どうしたの?」
リコが玄関に出迎えると、慎也は「これ」と小さなプレゼントボックスを取り出した。
可愛らしい包装紙はどう見ても慎也が行くような店のものではなかった。
「開けていい?」
「ああ」
中から出てきたのは、小さなダイヤのついた指輪だった。
「これって……?」
リコはキラキラと輝く小さなダイヤの指輪を見て目を輝かせた。
「遅くなったし、沢田のに比べると全然小さいけど、一応エンゲージリングってことで……」
慎也は照れくさそうに鼻を触った。
「ありがとう、嬉しい!」リコは目をダイヤと同じようにキラキラと輝かせて慎也に抱きついた。
沢田の3カラットの指輪よりも、慎也からのプレゼントはリコには何倍も嬉しかった。
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同居を始めて以来、慎也は毎日のようにリコを求めて来た。
「恥ずかしい……」
薄暗い灯りの下で、裸身を慎也に見られて恥ずかしがるリコに、
「十分綺麗だよ。もっと自信持てよ」と言ってくれる。
そしてリコの身体を指と唇で慎也は味わっていた。
「良いよ、リコ、もっと声を聞かせて」
感じて声を出すリコに慎也は言って来た。
「あいつ……沢田なんかにお前を取られなくて良かった……」
そう言って慎也は優しくリコの後頭部を撫でて、身体を抱きしめた。
慎也の優しい包容はリコに安心感を覚えていた。
だが……。
慎也にベッドで愛されながらもリコは何故だか物足りなさを覚えていた。
他の男が良いというのではなかった。
ましてやリコがセックス出来る相手は、慎也以外あり得ないこと。
だが、夜のコミュニケーションがリコには満足を覚えていなかった。
何故なんだろう……。
慎也に抱かれながらも、リコはいつも何か満たされない想いが残っていた。




