81.再生 その9
「丁度食事中だったから、間に合わせしかないんだけど」
リコはそう言いながら、一人暮らし時代からの来客用カップに紅茶を入れて里菜の前に差し出した。
「すみません急に、ありがとうございます」
育ちの良さを感じるのは外見だけでなく、言葉遣いと態度にも表れていた。
「よくここが分かったな」慎也は朝ご飯のコーヒーを飲みながら里菜に行った。
「ネットでお兄ちゃんのこと知ってる人がいて、その人からここの場所を教えてもらったの」
リコも朝食の続きを食べながら二人の話を聞いていた。
「お袋元気にしている?」「うん、お父さんと別れてから、女優の仕事や劇団員演技指導の仕事をしながら私を育ててくれたの。あの後何度か結婚もしたけど、結局今はまたお母さんと二人だけの生活をしてる」
「そうか……」
里菜は女の子らしい顔立ちだが、よく見るとどことなく慎也と顔立ちが似ていた。
いわゆる兄妹の血は争えないということなのかも知れない。
「親父とお袋が別れた時、里菜はまだ小学生だったな」
「うん」
「今は?」
「大学で介護福祉の勉強してる。あとアルバイトでモデルの仕事も頼まれてやっているけど」
「お前が介護ぉ!?」
慎也は驚いたように尋ねた。
「モデルさんやっているんだ。何か納得出来るかも」感心したように言ったのはリコだった。
整った顔立ちとスラリとした手足の里菜にモデルのアルバイトは納得出来る。
「お前介護って、小さい頃からあんま丈夫じゃねえし、どう見ても体力なさそうなのに大丈夫なのかよ?」10年以上も離れていたはずなのに、慎也と里菜の兄妹の溝はあっという間に埋まってしまったように見える。
「そんなことお兄ちゃんが決めることじゃないでしょ?」
「たく弱っちい癖に強情っぱりなのは全然変わんねえな」
「いいじゃない慎也。里菜ちゃんは自分の意志をはっきり持って偉いって思うよ」
ぼやく慎也にリコが割って入った。
「けど…」
「それよりそろそろ行かなきゃいけないんじゃない?」
まだ何か言いたげな慎也をリコは促した。
「あ、やべ……!」
慎也は時計を見ると慌ててブルゾンを羽織り玄関に出て行った。




