80.再生 その8
まだ結婚式は2ヶ月くらい先の話だが、リコと慎也の二人の生活は事実上始まっていた。
今までの互いの住まいは引き払い、2LDKのマンションはようやく片付けが済んだ。
そのマンションの通路を1人の若い女性が通りかかった。
真っ直ぐな長い黒髪で目鼻立ちは整って美しさもある愛らしい顔立ちである。
歳は二十歳をちょっと過ぎたばかりだろうか。
その黒髪の女性は、本城の表札のかかったドアの前で立ち止まった。
彼女はモ代わりにしたスマートフォンに映し出した住所と部屋の番号を確かめた。
「ここだ…」
彼女はリコ達の部屋の前で静かに、はっきりと呟いた。
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今日は土曜日。
リコの会社は休みだが、慎也の新しい勤め先であるバイク販売店は土日がかきいれ時なため、リコは慎也の為に朝食を準備していた。
実は平日はリコの出社の方が早く、リコは普段朝早く起きて慎也の分まで朝食と弁当を作っていた。
だから、土曜日はリコはゆっくり朝食を作れるし、慎也もリコの作りたての朝ご飯が食べられる。
「土曜日は出来たて食えるからやっぱりいいな」
慎也はトーストを頬張り、コーヒーを飲みながらとても幸せそうだった。
「子供とか出来たらこうは行かないって会社の友達に言われちゃった。子育てとかになったら、難しいみたい」
リコは不安な気持ちを漏らした。
「大丈夫だよ。そしたら俺も家事とか手伝うから」
「ホント?」
リコはちょっぴり疑うように聞いた。
「俺だって一人暮らし長かったから簡単な料理とか風呂掃除くらいは出来るし」「じゃあ、約束」
そう言うと、リコは右手の小指を差し出した。
慎也はリコの顔を見つめると微笑みながらリコの細い小指に自分の小指を絡めた。
ピンポーン
2人は同時に玄関の方へ視線を送った。
「こんな早い時間に誰だろう?」
「俺が出ようか?」
「ううん、私行く」
言うと同時にリコは玄関の方へ小走りで行った。
「はい」
リコは言いながら、玄関のドアを開けた。
玄関口にはリコには見覚えのない若い女性が立っていた。
「どちら……さま…ですか?」
リコは女性の大きくて真っ直ぐな瞳を見つめながら尋ねた。
「尾藤慎也さんのお宅ですか」
「はい…」
慎也の名前を急に言われ、リコの心臓が一瞬ドキンとはね上がった。
何故、彼女が慎也の名前を…?
まさか元カノ…?
そんな疑惑を抱いていることを隠してリコは冷静に尋ねた。
「失礼ですけど、ご関係は?」
「わたし……」
「どうした?リコ?」
女性が自分のことを話そうとしたところで状況を察知した慎也が玄関口に現れた。
慎也は女性の顔を見るなり驚いて目を見開いた。
「里菜…!?」
「え?」
聞き慣れない名前にリコは驚いた。
一体彼女は……?
彼女もまた、慎也の顔を見ながら確かめるように尋ねた。
「お兄ちゃん……?」




