7.再会 その3
尾藤はリコを乗せて、大通りの二車線の車道を慣れた運転でバイクを走らせた。
「しっかり掴まってろよ」車のスピードに遅れることなく、エンジン音を響かせながら、スムーズに走った。
素人のリコから見ても、彼のハンドルさばきはうまい。仮に自分が原付に乗れても、こんなに巧みな運転は出来ないだろう。
カー用品屋は尾藤のバイクショップからバイクで10分くらいのところにあった。
自分の車種にあったエンジンオイルや冷却水などの消耗品は、尾藤が選んでくれた。
買い物の後、二人は近くのファミレスへ入った。
「スミマセン、忙しい時に。おまけに消耗品いろいろ選んでもらっちゃって」
注文を取ったウェイトレスが行った後、リコは尾藤に言った。
「別にいいよ。大したことじゃないし」
尾藤は水を一杯飲みながら答えた。
「あの…携帯番号教えてもらえませんか?」
またもや唐突なリコの言い様に尾藤は呆気に取られた。
「は?」
「イヤ、ですか?」リコは少々上目遣いに尾藤を見た。
「女から番号教えてって初めてだな」
尾藤は呆れて言いながら、ジーパンのポケットからごそごそとメタリックブラックのスマートフォンを取り出した。
尾藤は端末の画面をいじりながら、首をかしげていた。
「買ったばかりだから、今イチ使い方分かんねえんだよな…」
自分の電話帳を出そうとしているのか、悪戦苦闘している様子だった。
「あれだけバイク乗るの上手いのに、スマホで悪戦苦闘?」リコはクスクス笑い出した。
「お前、分かる?」遂に観念して、尾藤はリコに尋ねた。
「じゃあ、買い物手伝ってくれたから」
リコは少し得意になって、テーブルの反対側に回って、尾藤のスマホを覗き込んだ。
「これ、赤外線の方が早いから、こうして…」
リコが尾藤の画面を操作しようとした時、思わず指が重なってしまった。
尾藤の、思ったよりもスラリと長い指先…。
リコはドキッとしてしまった。
「ご、ゴメン!」
リコは慌てて指を引っ込めた。
尾藤も少し驚いた顔でリコを見つめた。
リコは気を取り直して、
「えっと、確かメニューからユーザーデータというか、プロフィールはと…」
試行錯誤スマホに夢中になりすぎて、ヒールのついたパンプスでバランスを崩して、尾藤の方に倒れこんでしまった。
今度は顔と顔が思い切り至近距離で今にもくっつきそうだった。
はっと、二人は見つめ合ってしまった…。
リコの心臓の音がどうしようもなく、高鳴ってしまった。
「だ、大丈夫かよ?」
二人は思わず互いに顔を背けた。
ようやく、二人の間の赤外線通信が上手く行った。
リコのディスプレイには、「尾藤慎也」の名前と電話番号が表示された。
「『慎也』って言うんだ…」
リコは嬉しそうにディスプレイの、彼の名前を見つめた。