76:再生 その4
リコと慎也の新居は二人の元の自宅からそれほど離れていない、横浜市内の郊外に決めた。
慎也の新しい職場とリコの職場から、通勤しやすい位置で周りも静かで落ち着ける環境である。
どうにか、引っ越しの準備も済み、今日からいよいよ念願の同居生活が始まった。
が、慎也の表情はやや緊張気味だった。
「準備出来た?」
寝室でフォーマルドレスに着替え、身支度を終えたリコが声をかけた。
「ああ」
慎也は、社長だった時以来に手を通すスーツに身を包んでいた。
社長の時と違うのは、眼鏡をかけていないことくらいだろうか。
リコは慎也のスーツ姿に見惚れていた。
普段はラフなTシャツスタイルの慎也だが、スーツ姿も結構好きだった。
「なんだよ?」
リコの視線に気が付いて慎也が言った。
「な……何でもない!」
リコはあわてて視線を反らした。
今日は一樹の婚約式以来に会う両親に、リコは結婚の報告をするために実家へ行くことになった。
勿論、前の一樹との件があるので、初めからすんなりは行かないと予想はしている。
特に、慎也は、父親の会社が新聞にも載ってしまっており、リコの両親にも恐らく悪いイメージがついているだろう。
「慎也……」
「ん?」
リコの埼玉を実家へは、慎也の車――社長の時に父親からもらった物――で向かった。
「何か……ゴメン」
「何謝ってんだよ?」
謝るリコに慎也は前を見ながらクスッと笑った。
「その……」
リコは両手を組んで落ち着かなそうにしていた。
「私の所為で、いろいろ慎也に迷惑かけたから……」「いろいろって、よく分かんないけど、気にしてねえよ」
運転席のハンドルを握りながら、慎也が答えた。
「私が沢田さんの件ではっきりさせなかったから、慎也にいろいろ負担かけることになったから……」
「それを言うならお互い様じゃねえか」
「……」
リコは運転をする慎也を見つめながら言った。
「俺だって……自分を見失って、リコの気持ちを信じられずに離れたんだ」
慎也はハンドルを握り、前を見つめながら言った。
「バカだよなぁ。古傷抉られて取り乱したりして」
「……」
「だからもう、お前のことは絶対に離したくないって思った……」
「慎也……」
リコの頬が思わず赤くなった。
慎也はハンドルを握っていた左手をリコの頬に伸ばすと、いきなりプニュっと頬を摘んだ。
「な……何するのよ!」
「お前のほっぺたって柔らかくて触りごこちいいからさ」
慎也は一瞬だけリコに顔を向けてイタズラっぽい笑みを浮かべた。




