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RISKY―傷だらけの十字架―  作者: 桜井敦子
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65.喪失 その12

今回は慎也のシャワーシーンがあります。女性の皆様、お楽しみに(//∀//)。男性の皆様、ごめんなさい(´Д`)。

横浜市内にある高層マンションの最上階――。


社長になってから、慎也にはこの高級マンションの一室をプライベートルームとして与えられた。



最上階の部屋からは横浜市内の夜景が一望出来る素晴らしい眺めである。



だが、今の慎也にはそういったものには関心がなかった。



「では私はこれで。おやすみなさい」

護衛がマンションの玄関口まで送ると、挨拶をして帰って行った。


慎也は一人、マンションの部屋へ入って行く。


リビングだけで30畳の広さがあり、中央には黒を基調とした高級応接セットがしつらえてあった。


慎也は持て余すばかりのリビングには立ち止まらず、その隣にある10畳程のベッドルームへと向かった。


ベッドルームの奥は大理石張りの浴室になっている。

慎也は眼鏡を取り、ベッドルームで背広を脱ぐと、そのまま全裸になった。

少し痩せたとはいえ、厚みのある胸板と引き締まった身体は、変わっていなかった。

リコからもらった胸元の十字架のネックレスだけは、相変わらず輝きを放っていた。


シャワーの蛇口をひねると、頭の上から浴び始めた。


湯が慎也の裸体を撫でるように滴り落ちて行く。



シャワーを浴びながら、慎也は近藤とリコに浴びせられた言葉を思い返していた。


『今のてめえは死ぬほどかっこわりいな!

お前今リコちゃんがどんな気持ちでいるか分かってんのかよ!

何でそんな情けない野郎になっちまったんだよ!

もう俺が知ってるシンなんかじゃねえ!』



『こんなこと、本当は望んでなんかいないんだよね!?

何で?何で何も話してくれなかったの!?何で心を閉ざしちゃったの?

私は尾藤くんのこと、何一つ忘れたりしてなかったよ。なのにどうして?

もう一度、元の尾藤くんに戻って……』


近藤とリコのことは自分の記憶から消し去りたいと思った。


だが、二人の自分に対する必死の思いが、慎也の心を掻き乱す。



シャワーを止めると、慎也はその脇にある全身が映る姿見に目を移した。


濡れた髪を手でかきあげると、姿見に自分自身を映し出す。


そして自問するように姿見に映る、まだ濡れている裸身に触れるように手を伸ばした。



自分は、何処へ行きたいのか……?

俺は、本当はどうしたい……?


慎也は姿見に映る自分の姿をしばらく見つめていた。




浴室からあがると、慎也は身体を拭い、クローゼットに向かう。


何着かのスーツの中に、今まで着慣れたヘンリーネックのTシャツとジーンズがあった。


慎也はTシャツとジーンズに着替え、バイクではなく、車のキーを持ってマンションを出た。



外は既に暗くなっていた。

慎也は地下の駐車場に停めてある、自分の運転用に与えられた黒い小ぶりのワンボックスカーに乗り込んだ。



高級マンションから出た車はライトで夜道を照らすと山手方面へ走り出した。



着いたのは、いつかリコと二人で来た教会だった。



会堂はさすがにこの時間誰もいない。

しかし、入り口は開いているようだった。



慎也はゆっくりと、会堂の中へ入って行った。


中は暗い。

しかし、入り口のロビーの先にある礼拝堂には、中央のステンドグラスから月明かりがまばゆいばかりに礼拝堂を照らしていた。


ステンドグラスの中央には、キリストの十字架像が掲げられており、そこだけがステンドグラスからの光に影を作っていた。


慎也はまるで導かれるように、礼拝堂の前方にあるキリスト像の前まで来た。



キリスト像の十字架の影が、慎也の身体の前で重なった。


まるで自分の心の中を見透かされているかのように。

それは、キリスト教でいう裁きの姿でもあるかのようであるが、慎也はキリスト教のことは殆ど知らない。


ふと、足元に何かのコピーが落ちているのに気がついた。


拾い上げて見ると、聖書の一節のような文章が書かれている。


慎也は何気なく、その文章を読んでみた。



『彼は軽蔑され、人々に見捨てられ多くの痛みを負い、病を知っている。

彼はわたしたちに顔を隠しわたしたちは彼を軽蔑し、無視していた。


彼が担ったのはわたしたちの病

彼が負ったのはわたしたちの痛みであったのに


わたしたちは思っていた

神の手にかかり、打たれたから彼は苦しんでいるのだ、と。


彼が刺し貫かれたのはわたしたちの背きのためであり

彼が打ち砕かれたのは

わたしたちの咎のためであった。

彼の受けた懲らしめによって

わたしたちに平和が与えられ

彼の受けた傷によって、わたしたちはいやされた。



苦役を課せられて、かがみ込み

彼は口を開かなかった。

ほふりばに引かれる小羊のように

彼は口を開かなかった。


捕らえられ、裁きを受けて、彼は命を取られた。』



言葉が心の奥底を突き刺すような感覚を慎也は覚えた。


この文章の「彼」は、他人の痛みや悪意の為に侮辱され、傷つけられ、殺された。

愚かとも思える行為によって「彼」は他人を救おうとしたというのか?


何の為に?

何故「彼」は、常識からすればこんな愚かなことをしてしまったのか?


ただのお人好しにしても度が過ぎる。


そして、この「彼」とは一体――



コピーの切れ端から、慎也の頭には様々な疑問が駆け巡った。




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