59.喪失 その6
「もしもし、社長室へお願いしたいんですが」
翌朝、リコは会社から慎也の会社へ電話をかけた。
尾藤建設の番号はネットなどでいくらでも調べられた。
ただ、個人の携帯からでは取り次いで貰えないのではというハナのアドバイスもあり、会社から社用でという言い訳を付けてみて、アプローチするということになった。
『城南商事様ですね、失礼ですが、どのようなご用件でしょうか?』
想定していた質問が来た。
「昨日の就任挨拶の件で社長にお尋ねしたいことがあって……」
保留音で待たされた後、出てきたのは、常務だった。
『社長は只今多忙ですので、私がお話承りますが』
「いえ、あの……社長と直接お話させていただきたいのですが……」
『申し訳ございませんが、ご用件を伺ってから、社長に取り次ぎさせていただきたいので』
リコはため息をついて電話を切った。
「どうだった?」
休憩室のテーブルで、紙コップのコーヒーを飲みながら、ハナが尋ねた。
リコは力無く首を振った。
「そっかあ……」
ハナはため息をついた。
「やっぱり、なかなか上手く行かないね」
リコもハナも途方に暮れるしかなかった。
結局何の決め手もないままお手上げ状態になってしまった。
1日振りにマンションに戻り、リコはため息をついた。
『「俺には、お前を幸せにする資格がない……』
『俺のことは、忘れて欲しい……』
昨日の慎也の言葉を思い出すと、リコは涙が止まらなかった。
その時、リコの携帯が鳴った。
『もしもし、リコちゃん?』
電話の主は近藤だった。
近藤の声を聞いて、リコは思わず涙が溢れてきた。
「近藤くん……」
『ど、どうしたの!?』
泣き出したリコに近藤は慌てた。
リコは会社で慎也が就任挨拶に来たこと、彼に言われたこと、その後連絡がやはり取れないことを話した。
『そっかあ……』
近藤は唇を噛みしめた。
『ったくシンの野郎、リコちゃんがどんな想いでいれか、ちょっとは考えろってんだよな』
「ありがとう、近藤くんがそんな風に私のこと考えてくれるだけでもすごく嬉しい」
そんな風に言うリコが、近藤には健気に映った。




