58.喪失 その5
「今日はリコを一人にしておけない。今晩うちに泊りに来なよ」
ハナはどうしてもリコが放っておけなくなっていた。
「でも、ハナってご家族と同居しているんじゃ……」「大丈夫だよ、ママに話して置けば夕飯まで出してくれるから」
「でも……」
「今はリコをほっとけないの!」
ハナはリコから身体を離し、その代わり、両肩をしっかり掴んで強い口調で言った。
「本城さん、これは私からの業務命令よ」
ハナがわざと命令口調に言い、リコが頷いた。
リコの顔に少しだけ、笑顔が戻った。
ハナもリコの笑顔を見て満足な顔をした。
「すみません、お邪魔します」
「あら、リコちゃん久しぶりね。元気だった?」
「はい」
「ハナから聞いたけど、今日はゆっくりしていってね」
会社から電車で一時間くらいの郊外の住宅街に、ハナの自宅がある。リコは何度かハナの家には遊びに来た事があった。
「ママ、リコが来たんだから、たまにはステーキでも出してよ」
「そんな勝手なこと言って!」
一人暮らしのリコには、親子のやりとりが懐かしく、羨ましかった。
「お風呂ありがとう、気持ち良かった」
リコはハナからパジャマを借りて、タオルで濡れた髪の毛を拭きながらハナの部屋に入った。
ハナのベッドの脇に、今流行の北欧風デザインの布団一式が既に敷かれていた。
「布団こんなんだけど、いい?」
「うんうん、全然オッケー。お母さんのご飯も美味しかったし、本当にありがとう」
リコには心遣いがとても嬉しかった。
ハナの部屋には20インチの小型のワイドテレビがあり、リコとハナはテレビの人気ドラマを見ながら、低アルコールの缶のフルーツカクテルでお疲れ様の乾杯をして、今日の仕事をねぎらった。
「あ、この人好き」
テレビに映った人気俳優を見て、ほろ酔いも手伝ってリコは思わずつぶやいた。
「何かこの人ってどっか慎也さんに雰囲気似てない?」
そう言ってハナは自分が言ったことをすぐに後悔した。
「ごめん……」
ハナは缶カクテルを両手に持ったまま、肩をすぼめて謝った。
リコは静かに首を振った。
「今日はありがとう、ハナ」
「リコ……」
「私には、会社で本気で心配してくれる友達がいるんだって思った。一人だったら、多分どうしようもなく落ち込んでいたから……」
ハナは静かに頷くと、缶カクテルをぐいっと一杯飲んだ。
「あー!んにしても慎也さん、なんでこんな可愛いリコを捨てたりしちゃうのかな?」
ハナは天を仰いだ。
リコにはハナの気持ちがとても嬉しかった。
「尾藤くんの気持ち、ちゃんと確かめたい」
「そうだよね」
リコの言葉にハナは大きく頷いた。




