53.暗転 その9
一樹が去って行った後、慎也はそのばに倒れ伏したまま、立ち上がる事が出来なくなってしまった。
『君は、中学の時に父親からレイプされてたんだよね?』
一樹の言葉が、慎也の僅かに残っていた自尊心を粉々に打ち砕いた。
父親の悪夢を見た時のトラウマが再発していた。
痛みや悲しみを感じる心が、次第に麻痺して行った。
何時間、その場に居たか全く覚えていない。
全ての感情を無くした慎也はおもむろに携帯電話を取り出した。
深夜。
女と最中の仙崎の携帯がなった。
着信のディスプレイに『尾藤慎也』の名前が出るのを確認すると、仙崎は女の喘ぎ声と同時にニヤリと笑みを浮かべた。
「お前からの連絡待ってたぜ」
女への愛撫を続けながら、仙崎は裸で電話に出た。
仙崎の左肩口には刺青があり、背中全体に及んでいた。
『ヤツはレイプされた経験から強烈なトラウマがあるみたいだね。そこを一気に叩けばヤツの精神なんて木っ端微塵さ』
「本当にあの小生意気な野郎の言う通りになりやがった」
仙崎は女を四つんばいにさせて、後方から激しく突いた。
女の歓喜の悲鳴が部屋中に響き渡った。
「もっと!」
そうせがむ女に仙崎はさっさと自分だけ済ませると、女の髪の毛を掴み、邪険にベッドから突き落とした。
仙崎は慎也を興和会の事務所に呼び出した。
暗い組事務所の中で、いつものスーツを着た仙崎が中央の机に脚を乗せて、椅子に座っていた。
「お前にやってもらう仕事は難しくない。お前の親父の会社に入って、ウチとの橋渡しになってくれればいい。どうせ親父はお前に後を継がせたがっているだろうしな…」
仙崎はそう言って目を細めた。
慎也は無表情で、答えなかった。
だが、仙崎は慎也が自分の思うままに動かせる自信があった。
こうして慎也は、興和会の手足となってしまった。




